スゲェな!!?
「……____はい! ということで! 目的地となる家に到着しました〜!」
ツナの言った通り、HARUHIの警告から10分も経たずに、目的の家へと辿り着いた。
1時間近く緩やかな坂道を登り続けた先に、ポツンと佇んでいるその家は、木造の2階建て日本家屋。誰も住まなくなってかなり経つのか、大部分が朽ちてきており、自然に還りかけているかのような姿をしていた。
「ヤッスーくん平気〜?」
「な、……なんとか……」
ここまでの道のりはかなり険しかった。なのに息が上がっているのは俺だけ……。なんでだ……!
ツナは動画が回っていても、画面外にいるスタッフに対しても割とフランクに話しかける。そしてその様子も、面白ければ動画に使用することが多いのだが、俺は教職の首がかかっているから、話しかけてくるのは正直やめて欲しい……。
「ヤッスーくんファイト!」
「……!」
すると、HARUHIが俺のことを応援してくれた。
……待て、落ち着け俺!
見た目は可憐な女の子だけど中身は23歳成人済みのヤニカス男子だぞ!!
そう何度も騙されてたまるか!!
「昔からはるひのライブに通ってくれているヤッスーくんには、この撮影が無事に終わったら、CDに直筆サイン書いちゃう!」
「〜〜〜がんばりますっ!!」
……絶対この部分は編集でカットしてもらおう……。
「え〜っと、では、気を取り直して……冒頭でもお話ししました。こちらのお家がですね、最恐心霊スポットとなっております!」
ツナがスマホを取り出して、改めてこの心霊スポットの曰くについての説明を始めた。
「有名なのが、『自殺された男性の唸り声が聞こえてくる』と……」
「その男性って、どこでお亡くなりになったのか。というのは分かっているんですか?」
「それは分かんないみたい。ネットでそう書いてあるだけだから、ぶっちゃけ本当がどうかも怪しいらしいよ」
「ふうん……」
「で、もう一つ『放置されている神棚のある部屋が特にヤバい』らしいね」
「何がどうヤバいんですか……?」
「……さぁ……?」
HARUHIの疑問に、ツナも首を傾げた。
ネットに転がっている情報なんて、そんなものだろう。
噂が一人歩きして、いつの間にか尾ひれ羽ひれがついていることなんてザラにある。
だからこの心霊スポットも、巷では『最恐』なんて言われているけど、実際はどうだか……。
「本来、神棚をたたむ場合は、お札を神社に納めて、お焚き上げしてもらうのが最低限のマナー……。と言われているが……」
「へ〜そうなんだ! さすがハルちゃん! 詳しいね!」
「……事前に調べてきました!」
今のHARUHI、素に戻りかけてたな……。まぁそれはそれとして、流石陰陽師と言うべきなのかな。その辺の知識にはかなり詳しいみたいだ。
「じゃあ早速! 行ってみましょー!」
そう言うと、ツナはなんの躊躇いもなく、引き戸の取手に手をかけた。けれどもツナが力強く引っ張っても、引き戸そのものが錆び付いているのに加えて、老朽化が進んでいて建物全体が傾いているのか、中々入り口は開かない。
「ふんっ……! ……開かないねぇ〜。ハルちゃんいける〜?」
「まっかせてください!」
入り口が開く前に、ツナの握力が限界を迎えたのか、HARUHIにバトンタッチされた。
HARUHIは軽くジャージを腕まくりすると、両手で引き戸の取手に手をかけ、そして……。
「えいっ!」
可愛らしい気合いの一声と共に、引き戸はベキベキと軋む音を立てながらも無事動き、中に入れるようになった。
「ハルちゃんスッゲェ〜! 握力いくつなん?」
「どういたしまして! え〜っと、直近で測ったのだと……、片手75kgくらいだったかな?」
75キロ!?
「スゲェな!!?」
思わず俺とツナの声が被ってしまった。
成人男性の平均の倍近くあるぞ! アスリートかよ!
普段どんな生活してたら75kgなんて数字出せるんだよ!!
「ハルちゃん昔アスリートか何か目指してたカンジ?」
「はるひは子どもの時からアイドル一本!」
嘘つけ!
「そんなことより! 中の探索をして行きましょう!」
「りょ! まずは神棚を探そうか!」
HARUHIの一言で、ツナは元気よく「お邪魔いたします!」と言いながら、先頭切ってズンズンと家の中へと入って行く。
「アンタも十分すげぇよ……」
怖いもの知らずと言うべきか向こう見ずと言うべきか……、ツナの行動にはとにかく迷いがない。自分の感じたまま、本能の赴くまま生きている。ような感じがする。
その素直さを見ていると、なんだかちょっと羨ましいとさえ思ってしまう。
「在保さん。早く入ってください」
「あ、はい……、すみま……っ……」
ぼうっとツナの逞しい後ろ姿を見つめていると、ミチルさんに早く入れと急かされる。
急いで一歩、玄関に足を踏み入れると、室内から漂ってくる異様な臭いに、俺は思わず鼻を抑えて顔を顰めた。
「どうしましたか」
「……なんだ……? このニオイは……?」
長年放置されたことで蓄積されたホコリとカビ臭さに混じって、ナマモノが腐ったような……。言葉を選ばずに表現するのなら、
「もしかして……、動物か何かを、飼っていたんですかね……?」
そう、『死臭』だ。
死臭のようなものに近い刺激臭が、俺の体にまとわりついてくるような。そんな気持ち悪さに、一歩足を踏み入れただけで襲われた。
「こんなに臭うのに……なんであの人はノーダメージなんだ……!?」
部屋の奥からは、「あれっ? みんな〜? 早く〜!」という、相変わらず元気そうなツナの声が聞こえてくる。
「アイツは良くも悪くも純粋だからな。何も見えないし感じない」
「それってつまりは、霊感がない。ってこと……?」
「まぁ、端的に言えばな」
あ、そういえば……。
初めてツナに会った時、式神がいるはずのオフィスを見て「誰もいない」みたいなことを言っていたような気がする。
「それよりも……、思ったより状態が悪いな……」
「そうですね……、長い時間滞在していたら、気分が悪くなりそう……」
「身体的な悪影響もそうだが……、もっと危険なのが……」
「……?」
「在保、その感覚は大事にしておけ。あとニオイが一際強くなる場所があったら、すぐに俺かミチルを呼べ、いいな」
「は、はい」
「長居は不要だ。さっさと撮れ高を稼いで、撤退した方が良いな」
ニオイの感覚……。これも霊感というものの一種なのだろうか。
俺は頭の隅で鳴り止まない警鐘に、聞こえないフリをしつつ、HARUHIたちと共に家の中の探索を始めた。




