社会的に終わるよ!
「こんばんは〜! ツナで〜す! 今日は関東某所にある、最恐心霊スポットにやってきました〜!」
撮影当日。俺は山奥にやって来ていた。
目的はもちろん動画の撮影。俺はアシスタントのバイトとして、同行している。
「なんかその界隈では、かなり有名な心霊スポットらしくて、この森の奥に古びた家があるみたいなんですけど、その家ではかつて住人が自殺されたらしく____……」
スマホを手に持ち、ツナを撮影し続けているミチルさんの背後で、俺は不慣れな手つきで照明を持ってツナを照らしている。
「噂では、自殺された男性の唸り声がどこからともなく聞こえてくる、家の中に放置されている神棚のある部屋が特にヤバい。だったりと……____」
よくテレビで見る大それたライトを持たされるのかと思ったが、現在は利便性を追求しているのか、小型で持ちやすくなっていた。けれどもその辺の照明よりも光度は昼間のように凄まじい。
「……____で、現在は家のろう……きゅう、か? ……あ、古くなっちゃったみたいなんで、侵入禁止となっている場所だそうです!」
ツナは手に持っているスマホのメモを見ながら説明をしている。が、内容は事前に俺が用意したものだ。
カンペを作成している途中、リウさんが、
「あの子、漢字がほんっっっとうに不得手なの。だから必ずルビを振ってあげて頂戴ね」
とは聞いていた。だからありとあらゆる漢字にルビを振った。小学校低学年で学ぶであろう家にも家と振った。
今ツナが言い淀んだ老朽化にも勿論、ルビを振ったのだが、ツナは老朽化の意味が分からなかったらしい。画面外でHARUHIが意味を小声で補足してくれて、ようやく理解してくれた。
動画で見ていた時は「そういうキャラ作りだろうか」と思っていたけど、どうやらガチだったみたいだ……。
「……____ということで、今回は通常入っちゃいけない場所に行くことになります! なので事前に土地の管理者さん、地元の警察、消防等諸々から特別な許可を受けた上で撮影に来てます! 良い子のみんなは真似しないでね! 軽いノリで来たら不法侵入罪で社会的に終わるよ!」
ツナは満面の笑顔で物騒な注意喚起をしている。
この辺は心霊スポットの撮影のたびに言っているから慣れたのか、難しい単語もスラスラと言えている。
ツナの好感度が高い理由の一つがこれ。事前準備が意外にもしっかりしていることだ。
ツナは普段からバカっぽい……、というか、知識の偏りが極端だ。
漢字の知識がいい例だが、他にも、ツナにとって不得手な分野の知識量は微々たるものだが、得意な分野になると一転、プロ並みの知識量を発揮したりする。
そんな知識の偏りだから、心霊スポットに行く過程で、土地の権利者等に事前許可を得るなんて発想がよく出てくるな。というギャップが好感度に繋がっているらしい。
だが実際は、裏でリウさんや、見えない従業員たちが事前に方々への許可取りをしてくれているんだろう。
現にツナは、手元のカンペをただ読んでいるだけだ。
「……____そして、何と今回は、スペシャルゲストと共に! 心霊スポットを回っていこうと思います!」
そしてカンペ通り、ツナはゲストであるHARUHIを呼んだ。
「初めまして! 今年の6月21日にメジャーデビューしたばかりのソロアイドル『HARUHI』と申します! よろしくお願いします!」
「ハルちゃんとは事務所コラボになりま〜す! お兄ちゃんが……じゃなくて、事務所の代表がハルちゃんをガン推ししてて、今回もその代表のゴリ押しでコラボが実現しました〜!」
「事務所のコネを盛大に利用しまくるゴリ押しアイドルでーす! デビューシングル『四季』が好評配信中です! 聴いてみてね!」
こうして事務所の裏事情も平気でバラしていくスタイルがツナの高い好感度を維持する秘訣なんだろう。ちなみにここからはカンペもなく、ツナたちのアドリブ会話で進んでいく。
HARUHIもいきなりのツナの暴露にも顔色一つ変えず、柔軟に対応している。宣伝も抜かりない。
こうして照明に当たって、アイドルをやっているHARUHIは本当に可愛いのに……。
『知らぬが仏』とはこういうことを言うのだろう。
「……____では早速! ハルちゃんと一緒に、突撃してみたいと思います!」
「よろしくお願いします!」
俺の心の嘆きもよそに、二人は森の中へと、足を踏み入れていった。




