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第23話 だから、悪女になりたいと思ったのですわ! その1

 それにしても、なぜジュスティーヌがそこまで結婚に夢を見ていない上に、避けようとしているのか。それはジュスティーヌの家庭の事情が大きく影響していた。まあ、家庭と言っても王室なのだが。


 ジュスティーヌの産みの母は、他国の王女だったのだが、彼女がまだ物心つく前に亡くなってしまった。まだ国王が若かったことと、王子と王女が一人ずつしかいなかったことから、王は側近たちに再婚か側妃を娶ることを強く勧められた。


 結果的に、国王は国内の有力貴族だった公爵令嬢と再婚した。


 しばらくすると王妃は妊娠する。だが、その子がこの世に生を受けることはなかった。後日、王妃は、先の王妃が夢枕に立って自分を呪った、そのせいで赤子が死んだのだと半狂乱になって(わめ)き散らした。


 それが真実なのかどうかは誰にも確かめようはなかったが、それ以降、王宮の中では亡くなった王妃の話題を出すことは禁止された。その上、その遺児であり、幼いながらも先の王妃を彷彿とさせる容貌のジュスティーヌも、王妃様の精神の安定を害するとして離宮へと追いやられることになった。


 彼女の兄も先代王妃の息子ではあったが、現状では国王の唯一の跡取りということもあって、その生活は大きく変わることはなかった。ただ一つ、妹と自由に会えなくなったことを除けば。


 そういった事情から、幼いジュスティーヌは父とも兄ともほとんど顔を合わせることがなくなった。


 唯一、彼らと顔を合わせることが許されるのが、他国の王族や貴族がその子女を伴って王宮を訪問した時であった。その際には、ジュスティーヌも呼ばれて、仲良し家族ごっこをさせられた。


 天使のように愛らしい容姿のジュスティーヌは王侯貴族のご子息たちに大人気だった。中には、「将来僕のお嫁さんになって」などと言ってくる子もいた。そのたびにジュスティーヌは笑顔で「あなたは好みの男じゃないから嫌よ!」と答えていた。たいていのご子息はこの一言でジュスティーヌに近づいてこなくなった。


 そういえば、一人だけ随分と食い下がってきた男の子がいた気がする。


「じゃあ、ジュスティーヌ姫はどんな男が好きなの?」

「強力な魔法をいっぱい使えて、剣の腕にも優れた強い人!」

「剣も魔法もとなると、伝説の勇者みたいだね」

「うん、勇者様みたいな人と一緒に魔王を倒すの!」


 数百年前、魔界の王がこの地を征服しようとしたことがあった。それを阻止した勇者の話は、今でも子どもたちの心を捕えて離さない。その話に魅せられた子どもの一人がジュスティーヌだった。


「でも、今は魔王なんてどこにもいないよ?」

「今はいないけど、いつ、魔王が魔界から攻めてくるかわからないじゃない!」

「魔界とつながっている門は、今は大陸諸国がきちんと管理しているから簡単には開かないと思うよ」


 その男の子は、小さな女の子相手に妙にリアリスティックなことをいう子どもだった。


「ちょっとあなた! 男の子なのに夢がないのね!!」

「そんなことはないよ。僕にだってちゃんと夢はあるよ」

「ふーん、そうなの? じゃあ、あなたの夢は何なの? 言ってみてよ!」


 ジュスティーヌはその男子を問い詰めた。どうせ大した夢じゃないのだろうと思いながら。


「僕は、かわいいお姫様と結婚したいな、ジュスティーヌ姫みたいな」


 そういうと少年は恥ずかしそうに頬を赤らめた。ジュスティーヌは、完全に平和ボケしたこの子とは話が通じない、だめだこりゃと思った。


「とにかく、わたしは勇者様たちと冒険の旅に出て、魔物をいっぱいたおして、世界を平和にするの! あなたはお城の片隅でかわいいお姫様と一緒に、わたしが勇者様と凱旋するのを待っていればいいわっ!」


 そういうとジュスティーヌはふんっとそっぽを向いた。


「…………。じゃあ、勇者みたいに強くなったら、僕もジュスティーヌ姫と勇者の魔物退治の旅に連れて行ってくれる?」


 ヘタレ少年かと思ったら、なんだ、ちょっとはやる気があるじゃないの。


「勇者様みたいに強くなったらね、剣も魔法も両方だからね」

「わかったよ、僕がんばってみるよ」


 あの時の男の子はどうしているのだろうか。学園にいるのだろうか、印象深かった割に何処の誰なのかその顔さえもよく思い出せない。


 印象深いと言えば、ある時、彼女がいつもと同じように「あなたは好みの男じゃないから嫌よ!」と答えたら、泣きながら親にチクった男の子がいた。


 ジュスティーヌは王妃に呼ばれ、厳しく叱責された。それからは、言いつけ通りに「わたくしたち王族の婚姻は国家の大事ですから、わたくしにはお答えできません」と返答するようになった。


 ジュスティーヌはその言葉を口にするたびに、自分には何の決定権もないのだと思い知らされ、憧れの勇者様と一緒に外の世界を自由に冒険してまわるキラキラした未来が壊れていくような嫌な感じがした。


 それでも、ジュスティーヌは離宮でメイドたちとそれなりに楽しく、のんびりと暮らしていた。


 今思えば、メイドたちがジュスティーヌに意地悪でなかったことが大きな救いだった。ここでメイドにまで馬鹿にされ軽く扱われていたら、きっとジュスティーヌはもっと嫌なお姫様――それこそ本物の悪女になっていただろう。

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