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悪女姫の仁義なき恋愛バトル――不幸な結婚を避けるため悪役令嬢しているので、イケメン腹黒皇子にだって口説き落とされてなるものですか!  作者: いか墨ドルチェ
第一章 悪役令嬢ことはじめ。

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第24話 だから、悪女になりたいと思ったのですわ! その2

 幼いころのジュスティーヌは大してやることもなかったので、離宮の奥に広がっていた森を探検して回ったり、メイドたちとおしゃべりしたりする日々の中で、たくさんの本を読んで過ごした。


 いつの間にか、子どもが好む童話ではなく、大人が楽しむような小説を読むようになっていた。


 特に彼女が好んで読んだのが、冒険譚と恋愛小説である。


 冒険譚は物心つく前から好きだった。勇者たちの物語である。


 それをなぞるようにジュスティーヌは離宮の森を駆け回った。孤独なお姫様にはありがちだが、森の動物たちは彼女の貴重な友達だった。小鳥たちと一緒に歌い、ウサギやシカと追いかけっこをした。


 これは全くもってお姫様っぽくはないが、森に住むクマと相撲をすることもあった。


「かかってきなさい、ポーちゃん!」

「ぐぉぉぉっっ」

「ぐぬぬぬっっ……とりゃあっ」

「ぐおぉぉーーん」

「ふっ、これで、わたしの29勝24敗ね」

「ぐぅぅ……」


 愛情に飢えていたジュスティーヌは恋愛小説にも夢中になった。


「はあ、だれか……できれば、ちょーイケメンのゆーしゃさまみたいな人が、わたしをここからさらいだしてくれないかしら」


 たまに遊びに来る王子や公子は軟弱すぎるが、小説の登場人物のように、いつかわたしを幸せにしてくれる素敵な男性が現れるのではないか。そう期待しながら、物語に没頭する日々を送った。


「どうすれば、理想のイケメンに出会えるのかしら?」


 そのうちに、彼女は理想の男性と理想の結婚をするために、小説に登場する恋愛や結婚の情報を収集し、分析することにした。


 巷で大流行している貴族の令嬢を対象とした恋愛小説の類型は二種類である。


「ふーむ、『姉に虐げられていた伯爵令嬢ですが、冷徹な公爵様に溺愛されています』と『追放聖女ですが、契約婚の王太子に執着されています』はパターンA――虐待逆転溺愛型と」


 一つが、家族に虐げられていた令嬢が、ハイスペックな紳士とまずは”白い結婚”をする。最初は「あなたを愛することはない」と告げられるものの、何らかのきかっけで溺愛されるようになるというものだ。こちらをパターンA――逆転溺愛型とする。



「『婚約破棄された悪役令嬢は、敵国皇帝に愛される』と『嫌われ者の悪女ですが、敵国の王太子殿下と幸せになってみせますわ』はパターンB――婚約破棄上位互換型ね」


 もう一つが、悪女の濡れ衣を着せられ婚約破棄をされた令嬢が、割とすぐに元婚約者よりもずっと高位の身分の男性に結婚を申し込まれて、溺愛されるというものだ。こちらはパターンB――婚約破棄上位互換型とする。


「王妃に意地悪されているわたしが目指すべきは、まずはパターンAの虐待逆転溺愛型ね」


 まずは、ここ数十年の各国の新聞やゴシップ誌を総ざらいした。そして一つのことがわかった。


 パターンAを分析することは困難であると。なぜならば、まずパターンAのように令嬢が家族に虐げられているかどうかは実際には表に出てこないからである。ジュスティーヌ自身も、離宮に閉じ込められて家族と自由に会えないが、それを知っている王宮外の人間はほとんどいない。


 さらには、”白い結婚”そのものも当人たちにしかわからないことで、他人が簡単に知るすべがないのだ。


「こっちはダメね。じゃあ、悪女認定されて婚約破棄されるパターンはどうかしら?」


 次に、パターンBを分析するために、まずは過去数十年間に婚約破棄された事例を洗い出した。しかし、そのほとんどが家が没落したことが理由だったり、実際に婚約破棄された本人の素行に相当問題があったりするケースばかりだった。


 それがここ10年ぐらいで婚約者が別の女性に恋をしてしまうというパターンが急増しているのだ。ちょうどパターンBの恋愛小説が流行り出した時期と一致している気がする。そして、その小説のモデルとなったとされているいわば伝説の夫婦が実際に一組いたのだ。


 それが現帝国の皇帝と側妃だった。この時のジュスティーヌはまだ知らないのだが、要するにアルフォンスの両親である。


 しかし、小説と異なり、皇帝には正妻がいたし、小説のように溺愛されているのかまではわからない。また、婚約破棄から誰もが羨むような上方婚がおこなわれたケースはそれ以外皆無に等しかった。


「婚約破棄はした方もされた方も実際は思った以上に幸せでないのね、これだけは最悪だから避けないと……」


 要するに、恋愛小説のような結婚など簡単にはできず、期待をしてはいけないということだ。


 ジュスティーヌが12歳になったときに、王妃の命令で本格的に淑女教育が行われるようになった。生来、体を動かすことが大好きなジュスティーヌにとって、ピアノやダンスのレッスンは楽しかったが、マナーのレッスンはあまり好きではなかった。


 そんな折、淑女教育の先生と王妃付きの侍女長の会話を、偶然耳にしてしまう。


「姫様の教育の進捗状況はどうですか?」

「順調でございます。特に姫君はダンスは子どもとは思えないほど美しいのですよ」

「そう、それは何よりです。あとどれくらいで他国に嫁がせても恥ずかしくない程度に仕上がりますか?」

「そうですね……あと1年もあれば、どこに嫁がせても恥ずかしくない淑女となられるでしょう。そのタイミングでデビュタントを考えられてはいかがでしょうか? 王女殿下であれば、デビュタントでも他国の王族から引く手あまたで、あっという間にお相手が見つかりますよ」

「引き続き、姫様の教育をお願いします。どのような手を使っても構いませんので。早ければ早いほど、王妃様もお喜びになることでしょう」


 それは、ジュスティーヌをとっととどこかに嫁がせようというものだった。それほどまでに王妃にとって、ジュスティーヌは目障りな存在だったのだ。


 他国に嫁ぐことで得られるかもしれない希望を夢見るよりも、今の生活にそれなりに満足をしていたジュスティーヌはなるべくこのままでいたいと思い、マナーのレッスンの手を抜いた。


 すると先生はジュスティーヌ自身ではなく、彼女の世話をしているメイドたちを罰すると脅してきた。どんな手を使っても構わないと侍女長が話していたのはこのことか。


 自分のせいで、数少ない味方のメイドたちがひどい目にあうのは耐えられない。それからはすべてのレッスンに全力で取り組むようになった。


 ただ、このままだとそう遠くない未来に誰かに嫁がされてしまう。なんとかしないといけない。ジュスティーヌは考えに考えた。賢い頭脳をフル回転させて。


「あ、そうだ。悪役令嬢になろう」


 その結論が、悪役令嬢になって男性たちに徹底的に嫌われることだった。いくら超絶美人な一国の王女だとしても、悪女とは結婚したくないと思うのが普通だろうから。


 悪女になって婚約や結婚を阻止するというのは、ジュスティーヌにとっては自らを守るための苦肉の策だったのだ。

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