第207話 大魔王が悪役令嬢の代わりに拷問してくれちゃいましたわ……。
「子どもたちを連れて行ったのは、お前たちに山賊行為をさせていたやつなのか?」
「そいつのことはよく知らねえが、おそらく仲間だろう。俺たちは雇い主に、グリフォンのせいで護衛業ができなくなった腹いせに酒場や街中で暴れていろと言われていた。ただ、孤児院とあの高級ホテル周辺では暴れるなとも言われていた」
やはり、この男たちの派手な立ち振る舞いに目を向けさせていたその裏で、子どもたちを連れ去っていたのだろう。
その金持ちの男とやらはどこからやってきて、どこまで子どもを連れ帰っていたのだろうか。
ほぼ3日に1回のペースでやってきて、一人の子どもを連れ帰るとなると、普通だったらかなり目立つ。特に今はこの街を訪れるものも少ないのだ。
さて、次は神父を拷問する番ね。
暴漢と引き換えに今度は後ろ手に縛られた神父が連れてこられた。神父の姿を見て、ジュスティーヌは立ち上がった。まずは一発殴ってやろうと思ったのだ。
が、その前に神父は、顔をゆがませながら、すでに吹き飛んでいた。神父の口から赤い液体と共に白い粒が3つほど飛び出して近くの壁に当たって落ちた。
えっ?
隣をみると、腕を引っ込めながらアルフォンスがキラキラの皇子様スマイルで微笑んでいる。
「ジュティ、君のかわいい手であんな汚い男の頬になんて触れないで」
頬に触れるというか殴ろうとしたんだけど……。
「ひっ、ひいいっ!」
殴られて顔がゆがんだうえ、急に歯が数本無くなって話しにくくなった神父が短く悲鳴を上げた。
「いつまでそこで寝ているんだ? 早く椅子に座れ」
「は、はひっ」
いつまで寝ているんだって、あなたが吹き飛ばしたんでしょうが! やっぱり、大魔王だわ、この人。
見るも無残な顔になった神父を見ているとおかしすぎて声を出して笑いたくなったが、拷問の途中だと思い出し我慢する。
「お前に聞きたいことは一つだ。子どもたちをどうしたのか、知っている限りのことを話せ。嘘を付いていると判断したら、その数だけ殴るから覚悟しろ」
「は、はひ、わかりまひた……子どもたひをお求めになはれた旦那様は、ロシュフォール伯爵といっていまひた」
「ロシュフォール伯爵か……おそらくは偽名だろうな。どんな人物だったのか、その男の特徴は?」
「顔は見てひませんが、体が大きく、なはなはの手練れのようでひた」
大魔王を恐れて、神父はペラペラとしゃべっていた。
「子どもを連れて行ったのはその人物、一人だけなの?」
「はひ、いつも来るのは一人の男だけでひた」
いくら手練れとは言え、子どもを連れてグリフォンの出る山道を通ることはないだろう。
ということは、その男はパックスウルブス方面に子どもを連れて行っていると考えるのが自然だ。
人の出入りの多いパックスウルブスにいるのか、それともそこを経由して、別の誰かが別の国に連れて行ったのか。
「その男とは連絡の手段はあるのか?」
「ひえ、ありましぇん」
ということは、その男はまだこの街で何が起こったのか知らない可能性が高い。3日に1度尋ねてくるとなると、今日の夕方、また子どもをもらいに来る可能性がある。
「ジュティ、国に帰るのが一日遅くなってしまうけれども、もう一日ここに滞在してみてもいいだろうか?」
「もちろんよ」
そもそも、それほど国に帰りたいわけじゃないし。
後は、連れていかれた子どもたちの特徴を尋ねる。
年齢は10歳前後から上の子どもが多く、男女に偏りはない。また、金髪だったり碧眼だったりと、かなり目立つ容姿の者が多いのだ。いかにも貴族が養子に迎えそうでもあり、また貴族や金持ちが好みそうな風貌でもあった。
だが、単に養子にするだけであれば、コソコソ連れ出す必要はない。そうなると、裏で取引されていると考えるのが正解だろう。
最後に二人は、男たちがねぐらにしていた酒場に行ってみた。酒場自体は、どこにでもある冒険者のたまり場に過ぎなかったのだが、思いがけないものを目にする。
「ねえ、マスター。そこにある大量の瓶はなに?」
ジュスティーヌが指を指す。
「ああ、これですが、冒険者……ではなくて、あの暴漢たちが箱で仕入れてはよく飲んでいたものになります。うちの物ではないので、私は手を触れないようにしていました」
カウンターの裏には、箱に入った小瓶が大量に置かれていた。ポーションの類だろうか。ジュスティーヌは一つ手に取ってみる。
「ねえ、アル。これってまさかのビーストバイタリティじゃない?」
「ん? どれどれ。うーん、確かにその可能性は高いな」
瓶には、大きな文字でビーストの頭文字のBが描かれたラベルが貼られている。
パッケージもなんとなく、今流通しているアニマルバイタリティに似ている。
ピースフル商会は、完全に販売を中止せずに、裏で流通させていたのだ。というか、下手すると暴漢たちにあえて提供していた可能性だってある。
「これについてはもう一度、あの男たちに確認する必要があるな」
「うん、そうね」
アルフォンスは今では手に入らなくなったビーストバイタリティを何本か保管した。後で成分を分析するつもりなのだ。
警ら隊には、今日の夕方、子どもを連れ去った男が来るかもしれない旨を伝え、ここ数日この街で何があったのかの情報を封鎖するとともに、暴漢たちの代わりに酒場にいてもらうことにした。
そして、ジュスティーヌとアルフォンスは教会で待機をするのだった。
「ぷっ、ふふふっ、あはははっ」
ジュスティーヌはお腹を抱えて思いっきり笑っていた。
「ジュティ、笑いすぎだ……」
アルフォンスが神父の衣装を身に纏ったのだが、ゆったりとしているはずのローブも、アルフォンスには小さすぎて、似合わなすぎで笑える。
「そもそも変装する必要ある? アルとあの神父じゃ全然似てないんだから、服を着たところで別人だってすぐにわかっちゃうでしょ」
「ま、念のためね」
男は、いつも夕食の時間に尋ねてくるらしい。夕方であれば目立ちにくく、またその時間には食堂に子どもたちが全員揃っていて、手っ取り早いからだろう。
日が沈み、辺りは随分と静かになった。アルフォンスとジュスティーヌはホテルから運んできたスープを啜りながら、男の到来を待つのだった。




