第206話 口を割ろうとしないゲス男を拷問していきたいと思いますの。
二人は昼過ぎには、マールツァイトの街まで戻ってくることができた。
ホテルに赴き、子どもたちの様子を確認するとともに、報告のために町長たちを呼んだところだった。
「美人なお姉さん、その子はだあれ?」
「赤くて大きなトカゲみたいだね」
「ドラゴンの赤ちゃんの”うめぼし”よ」
「どらごん? うめぼし?」
「そう、ドラゴンはとっても強い生き物の王様よ。うめぼしはね、ここからずっと東に行った国から海を渡った先にある国で毎日食べられている赤くてすっぱくて健康的な食べ物なのよ」
わたしも食べたことはないけど。
「えっ、ドラゴンって本物!? マジで!」
「怖くないの? 襲ったりしない?」
「大丈夫よ。この子もあなたたちと同じ、わたしの子どもだから」
それにそんなことしたら、隣にいる大魔王に成敗されちゃうものね……。うめぼし、本当に気を付けなさいね。
ジュスティーヌはじっとアルフォンスを見つめた。
「うん? 何かな、ジュティ」
「なんでもないわ。とにかく、隣にいるこのお兄さんは大魔王……じゃなくて、伝説の勇者のように強いから何があっても大丈夫よ」
「ジュティがそこまで俺のことを信頼してくれているとは嬉しいよ」
「ま、あなたは人格にはいろいろと問題があるけれども、強さだけは本物だから」
人格に問題ってそれを悪女のあなたが言いますかというようなセリフを、ジュスティーヌが口にしたにもかかわらず、アルフォンスはニコニコしていた。
「お姉さんも強いよね! 美人なのに!」
「ホント、ホント! 怖い神父さんのこと一発でひっくり返してたもんね!」
「ああ、あれにはスッキリしたなー!」
おーほほほほっ、もっと褒めちゃっていいわよ、かわいい子どもたち!
「あんなの、わたしにとっては敵のうちにも入らないわ」
「美人なお姉さん、超カッコいい!」
ちびっこにおだてられて気分良くなっていると、町長と警ら隊長がやってくる。
「えっ! そ、それはまさかドラゴンですか!?」
「ええ、そうだけど、何か?」
何かじゃないだろう! ドラゴンだぞ、驚くのが普通だろうが! って顔しているわね、この二人。とってもいい反応をありがとう。
涼し気な顔でドラゴンを抱っこするジュスティーヌに変わって、アルフォンスが経緯を説明する。
「なんだったら、グリフォンも呼びましょうか?」
「いえいえいえいえ、結構です!」
町長と警ら隊長は全力で断ってきた。
「ところで、あいつらは何か口を割ったかな?」
「はあ、それが知らぬ存ぜぬで……我々の力ではどうにも……」
「ふむ、そうか。ジュティ、君の出番のようだよ」
「任せて! 人をいたぶるのは得意よ」
アルフォンスの中ですっかり「ジュスティーヌ=悪女」の構図が定着しつつあるのは望ましい。
が、「ジュスティーヌ=悪女=だから結婚したくない」とならないのが口惜しい。
もはや何のために悪女をしているのか、目的を失いつつあった。それでも、悪女は彼女にとって性に合っているし楽しいので、このまま悪女街道を突っ走ろうと思うジュスティーヌだった。
子どもたちと遊んであげたいのは山々だが、どこかに売られていった子どもたちを救出するために、悪党たちから情報を聞き出さなければならない。
「みんな、正義の味方にして世界が恐れる魔女のマジカール様と伝説の勇者のようなお兄さんは、悪者たちを成敗しに行ってくるわね。帰ってきたら、鬼ごっこでもしましょうね」
ジュスティーヌはルンルン気分で、拷問をすべく留置所へと向かうのだった。
まずは、リーダーの男から〆る。
取調室に連れてこられたリーダーの男。
昨日の恐ろしい雷美人と、ワンパンイケメンの姿をみて、すでにたじろぐ。しかも、よくよく見ると、雷美人は妙なモンスターを抱きかかえているではないか。男は拷問する前から、冷や汗を流し始めた。
ちょっとちょっと、顔見ただけでビビって吐いたりしないでよね。それじゃ、拷問のし甲斐がないわ!
「さあ、あなた、知っていることを洗いざらい話しなさい。痛い思いをしたくないのであればね」
昨日、散々男たちを痛めつけたジュスティーヌの言葉にはかなりの説得力がある。
「お、俺は知らねえ。本当に何も知らねえんだ」
「犯人は皆そういうのよね」
多分だけど。取り調べらしい取り調べなんてしたことがないからわからないけど。
「あなたの一番大切なものは何? 話さないんだったら、それを燃やすことにするわ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! お、俺たちは言われた通りにしただけなんだ!」
「誰に何を命じられたんだ?」
「誰なのかはわからねえ。俺らに命じてきたやつも、誰かに雇われているようだったから」
つまりこいつらは単なる下っ端、末端中の末端の実行犯に過ぎない。上役のさらに上役がいるのだろう。だとしても、こいつらの行動を擁護することも、許すこともできるわけではない。
話しを聞いていくと、この男は、ササンバード共和国の出身らしい。そこで冒険者をしていたのだが、ある時、ヨーデルベルクで新しいダンジョンが見つかったという噂を聞いて、パックスウルブス経由でヨーデルベルクを目指したのだそうだ。
この街にたむろしていた男たちには、似たようなものが多いらしい。
少し前のサミットで、ササンバードの冒険者が減っているという話が出ていたのは、彼らがヨーデルベルクに行こうとしたからであることがわかった。だが、彼らはそこにたどり着けなかったのだ。
グリフォンに邪魔されたから。
ではなく、実は怪しい男たちにもっと安全で金になる仕事があると誘われたからだ。
それが街道沿いで魔物の仕業に見せかけた山賊稼業をすることだった。
この街道がつながっている先は、グランソードのほか、冒険者不足に悩むヨーデルベルクとターヘル共和国である。
ヨーデルとターヘルからの荷馬車には十分な護衛をつけることができずにいた。
そこに目をつけての山賊稼業だった。
彼らは、ヨーデルとターヘル、それからここマールツァイトに拠点を構え、護衛を請け負うとともに時には山賊になるのだ。
そして、商人たちの荷を根こそぎ奪うのではなく、適度に手心を加えながら、略奪を行った。
山賊も護衛もグルなのだから、酷い茶番劇である。
略奪した荷の半分は依頼主の手元に渡ったが、半分は元冒険者たちの取り分となった。こんなに安全でおいしく稼げる仕事は、他にはなかなかないだろう。
それがグリフォンのせいで一転する。
グリフォンは、偽物の山賊と違って容赦はないし、手加減をすることなく商人たちを追い払う。当然のことながら、護衛にも犠牲がでるようになってしまった。
その結果、彼らは山賊兼護衛業から、人身売買業へと転向したのだった。




