第204話 伝説の悪女、誕生の瞬間ですわ!
およそ人が駆け上がるような場所ではない岩山を、ジュスティーヌを抱きかかえたまま軽々と登っていくアルフォンス。
その先には、グリフォンの巣と思しき場所があった。
が、二人がそこにたどり着く前に、グリフォンがヘビのような魔物と交戦している姿が目に飛び込んでくる。
「あれって、まさかバジリスク!?」
「うん、そうだろうな」
魔物は、長い胴体をヘビのようにくねらせているが、頭には冠のようなトサカがあり、羽のようなものを広げ、鋭い爪をグリフォンに向かって振り下ろしていた。
ここに来て、伝説級の魔物の対決が見られるとは!
ジュスティーヌは、目の前で繰り広げられる伝説の魔物たちによる戦いをほれぼれする表情で見ていた。
「ジュティ、俺もあれに参戦してもいいだろうか?」
「えっ?」
ジュスティーヌがどのような顔で両者の戦いを見ているのかに気付いた腹黒皇子が、自分もカッコいいところを見せようと、急に参戦を申し出る。
確かに、先ほどアルフォンスとグリフォンの戦いは五分、いや、アルフォンスのほうが圧しているようにも思えた。ということは、やっぱりアルフォンスもすでに伝説級の実力者ということか……。
ま、大魔王なわけだしね。
「わかったわ、でも、あなたが攻撃するのはバジリスクだけにしてね。二人でマーヴェリックに助太刀してあげましょう」
「わかった」
アルフォンスは剣を抜くと、バジリスクに切りかかった。先ほど、グリフォンにしたように爪を切り落す。
と思ったら、手を切り落していた。
容赦ないわね、あの大魔王……。
急に登場した侵入者に1本の手を切り落されたバジリスクは激怒した。
アルフォンスに向かって毒の霧を吐き出す。
が、アルフォンスは風魔法でそれを難なく吹き飛ばす。
展開を見る限りではあの大魔王とグリフォンには自分の助力なんていらないかもしれないが、恩を売るためにも、ジュスティーヌも参戦する。とりあえず、味方に向かって防護魔法をかけておいた。
グリフォンは賢い生き物なので、アルフォンスとジュスティーヌが敵ではないと悟ったようだ。こちらに攻撃を仕掛けてくるようなことはなかった。
バジリスクの目が怪しく光る。今度は石化攻撃を仕掛けるつもりだ。
「ライトアロー!」
ジュスティーヌはすかさず、光魔法で応戦する。闇属性のバジリスクには光属性魔法がよく効く。初級魔法でも、目をくらませるには十分だった。
その隙に、アルフォンスがバジリスクの目に剣を突き立てる。
この一撃で、ほぼ勝敗は決した。
あとは、バジリスクを二人+一頭で協力して止めを刺すだけだ。
――が、実際にはほぼ一人の男が好き放題にいたぶっていた。
バジリスクは、羽を落とされ、首も落とされた。最後には、胴体も縦に真っ二つにされてしまった。
伝説級の魔物と言っても、珍しいだけで案外大したことがないのかもしれない。ということにしておこう。
この戦いによって、二人と一頭の間に何らかの絆が生まれたのかどうかはわからなかった。
だが、侵入者バジリスクが排除された後も、グリフォンは二人に手出しをしてくることはなかった。
一仕事終えて休憩でもするかのように、自分の巣に体を伏せている。
バジリスクの体は、いい素材になるらしい。持ち帰るべくアルフォンスは解体を始めた。ジュスティーヌは、一体グリフォンは何を懸命に守っていたのかと、グリフォンの巣をよく確認してみる。
そこには金銀財宝の類も確かにあるが、一際目を引いたのが、人の上半身ほどの大きさの巨大な卵だった。
「ねえ、アル、あれ、マーヴェリックの赤ちゃんかしら?」
「さあ、どうだろう? でも、もしかするとアレを守るためにこいつは侵入者を排除していたのかもしれないな」
マーヴェリックなどという男性名を考えてきていたが、もしかするとお母さんなのかもしれない。となると、場合によっては別の名前を考えないといけないかもしれない。
「ねえ、グリフォン。その卵はあなたの赤ちゃん?」
声をかけられて、グリフォンはジュスティーヌをじっと見たが、うんともすんとも言わない。
「大丈夫よ。同じ母として、あなたが子どもを守りたかった気持ちはよくわかるわ」
ジュスティーヌは極力優しい口調で話しかけた。
「ジュティはいつ母になったの?」
「昨日だけど」
「そういうことか。ということは、俺があの子どもたちの父か。つまり、俺は君の夫というわけだね」
うんうん、それも悪くないと勝手に納得しているアルフォンス。
「勝手に夫を名乗らないでくれる? 世の中には未婚の母なる存在もいるのよ」
「確かにそうかもしれないが、父親が誰か明確にわかっているのであれば、結婚して夫婦協力しあって子どもを育てるのが一番だと思うけどな」
「うう……」
アルフォンスの言っていることは正論なだけに言い返せない。ただ、このケースの場合は、父親が明確に分かっているといえるのかは疑問ではある。
と、その時、急に地面がグラグラと大きく揺れる。
地震という感じではないが、卵が転がって割れたら大変だと思い、思えずジュスティーヌは卵に抱き着いた。
アルフォンスはアルフォンスで、ジュスティーヌを守ろうと彼女に抱き着く。
グリフォンは、案外薄情なもので、特に卵をかばおうともせずに少し身を起こしただけだった。
そして、ある事実に気が付く。
地面が揺れたのではない。卵が揺れて、その振動が地面に伝わっていたのだ。
「ちょっと、もしかして、これって生まれそうってこと!?」
「そうかもしれない。ジュティ、大丈夫?」
かなり強烈な振動と共に卵にひびが入る。本当に生まれそうだ。
ピキピキピキ…………バキバキバキ…………パリーン!
巨大な卵が割れたかと思うと、その中から現れたのは、グリフォンの赤ちゃんというには随分と親とは様相の異なる生き物だった。
「ピー、ピピー!」
生まれたての真っ赤な生き物がジュスティーヌを見て一声鳴く。
「ねえ、アル。この子、真っ赤なんだけど、赤ちゃんだからかしら?」
「うん、赤ちゃんだからというよりは、そもそも赤い皮膚の生き物なんじゃないかな」
「ねえ、アル。この子の見た目、グリフォンというよりはドラゴンっぽいんだけど、グリフォンって子ども時代はドラゴンみたいな見た目だったりするのかしら?」
「うん、そういう話は聞いたことがないな……」
「ってことはドラゴン!? 本物のドラゴン!!」
「たぶん、そういうことになるね」
なんと、今日一日で、伝説の生き物3頭に出会ってしまうとは。
後ろにいるこの男も、伝説の大魔王みたいなものだから、正確には3頭プラス一人ね……。
ちょっと待って! これほどの伝説の珍獣たちに囲まれた悪女である私も、もはや伝説の悪女を名乗ってもいいのではなくって!?
こうして、ジュスティーヌの中では、人知れず伝説の悪女が誕生したのだった。




