第203話 いざ、今度こそグリフォンの元へ出発ですわ。
ジュスティーヌは夢を見ていた。グリフォンのマーヴェリックの背に跨って、爽やかな風を頬に感じながら、髪をなびかせ、雄大な大空を飛んでいる夢だった。
それにしても、グリフォンのマーヴェリックはフワフワで温かい。
「ふふふっ、マーヴェリック、あなたってば本当にフワフワね」
ああ、ずっと撫でていられるわ。
「ジュティ、マーヴェリックって誰?」
「何を言っているの、あなたのことでしょ? えっ?」
目を開けると、朝日を浴びて輝くアルフォンスのキラキラなブロンドヘアが目に飛び込んでくる。
「はあ!? なんであなたがここにいるの!」
なぜか、アルフォンスが自分に背を向けるように寝っ転がっていて、ジュスティーヌは左腕と左足でアルフォンスを抱え込んでいた。
「いや、君が、俺のベッドにもぐりこんできたんだけど……」
「ええーっ! そんなはず」
ないと言おうとして、よくよく見ると、確かに自分が寝ていたベッドではない。
そして、背後には自分が寝ていたベッドと、そこから床に落ちた掛け布団と枕が見える。
がーーーん、やってしまった。
ジュスティーヌは驚愕の表情を浮かべると頭を抱えた。実際、ジュスティーヌはかなり寝相が悪かった。ベッドから落ちたことも、1度や2度ではない。
「まあ、俺は幸せだったから、それはいいんだけど。で、マーヴェリックって誰?」
アルフォンスが真剣な目でこちらを見つめてくる。
「だ、誰だっていいでしょ、別に!」
「いいや、よくない。君はマーヴェリックだと思い、俺に抱き着き、頭を撫でていたんだから。そいつのところには是非とも挨拶に行かないといけないな」
よくよく見ると、アルフォンスの口元は笑っているが、目がまるで笑っていない。このままだとマーヴェリックの命が危ない。
「マ、マーヴェリックは……グリフォンよ……。これから仲間にする……」
「グリフォン? なんだ、グリフォンか! そうかそうか」
そういえば、ジュスティーヌは仲間にする気満々で、グリフォンの名前を考えると言っていたことを思い出す。
相手が男であれば、雌雄を決する必要があるが、人間の男でないとなれば話は別である。
アルフォンスは、ただ自分が得をしただけだったと理解をした。
朝食を済ませると、二人は子どもたちをホテルのスタッフと町長に託し、グリフォンを探しに山道へと踏み入った。
「ジュティ、グリフォンをどうやって仲間にするつもりだい?」
「うーん、とりあえず優しく話かけてみるとか?」
「つまり、これといった良策があるわけではないと」
「悪かったわね。でも、今までもそんなもんだったし。こういうのはなるようにしかならないの」
「その通りだね。ジュティがそう言うと、本当になんとかなりそうだよ」
グリフォンがそこに巣を作ったということは、その近くに守るべき何かがあるということだ。それさえわかれば、多少は糸口が見つかるのだが。
緩やかなつづら折りになった街道は、次第に山の奥へと進んでいく。
もうしばらく行くと、グリフォンの目撃情報が多数寄せられている地点だ。そのあたりは、この街道の中でも最も険しい山道となる。二人は慎重に馬を進めていった。
「来る」
アルフォンスが北の空を見上げる。
ジュスティーヌも同じようにアルフォンスが目を向けたほうをじっと見るが、まだ生き物の姿を目にすることはできなかった。
二人は馬を下りて、アルフォンスは剣を構える。ジュスティーヌも念のため、スティックを手に持つ。
すぐに北の空には魔獣らしきものの姿が見えてきた。おそらくグリフォンだ。
グリフォン二人の姿を視界に捕らえると、問答無用とばかりにつむじ風を巻き起こしてこちらに向けて飛ばしてきた。
が、アルフォンスは手にした剣を振り下ろし、なんとつむじ風を真っ二つにする。
「ひえー!」
この人、風まで切れるわけー! いくらなんでも無敵過ぎない!
ジュスティーヌはグリフォンにいきなり攻撃を食らったことよりも、アルフォンスがその攻撃を剣の一振りで退けたことにビビった。
それはグリフォンも同じだったようで、自らの攻撃があっけなく破られたことに戸惑っていた。
ああ、マーヴェリック、あなたの気持ち、すっごくわかるわ! チートすぎよね、この人。
ですよね、美しい姫君。
グリフォンがそう言っているような気がした。
グリフォンは、今度は急降下して、鋭い爪を振り下ろしてくる。アルフォンスは、また剣を一振りして、グリフォンの爪を切り落してしまった。驚いたグリフォンはそのまま、上空へと戻る。
「ひえー!」
あの剣、グリフォンの爪を一撃で切り落しちゃったわ! 前々から思っていたけど、切れ味よすぎでしょう!
「ジュティ、君はどっちの味方なの?」
「えっと、もちろん、一応アルの味方だけど」
「一応?」
「うん、一応。ほら、マーヴェリックも仲間になる予定なわけだし。それに今のところ、アルの方が優勢っぽいし。ちょっとマーヴェリックに同情しているだけだから」
グリフォンは上空を旋回していた。次はどう攻撃すべきか、考えているかのように見えた。
伝説級の聖獣を困惑させるぐらい強いこの男、やっぱり大魔王かもしれない。
そんなことを考えていると、なんとグリフォンはやって来た方向に引き返して行ってしまった。
ちょっと、まさか、大魔王アルフォンスに怖気づいちゃったのかしら……。
「追いかけよう」
アルフォンスは素早く剣をしまい、ジュスティーヌを抱きかかえると、山道をまるで飛ぶように走り、グリフォンを追いかけた。
「ひえーー!」
やっぱり、どう考えてもチートすぎるわ、この人! やっていることがもはや人間ではないものね……。
アルフォンスはジュスティーヌを抱きかかえたまま、岩山を軽々と飛び跳ねて移動する。
風の加護に加えて、ジュスティーヌと同じ蛙のそうちゃんからもらったジャンプ力をフル活用しているのだろう。
「ジュティ、怖くない?」
「まさか。あなたの大魔王っぷりにはもう慣れたわ……」
「それはよかった」
改めて、とんでもない男と恋愛バトルを繰り広げているのだなと切実に感じているジュスティーヌだった。




