第202話 悪いことなんてしてませんから、いいことしかしてませんから。
「ジュティ、君の言うように、子どもは本当にかわいいね」
「あなたが言うと、まったくもって言葉通りに聞こえてこないのはなぜかしら?」
「さあ、なぜだろう?」
アルフォンスに微笑みかけられ、ジュスティーヌは一歩だけ横に遠ざかった。
今夜は子どもたちのためにホテルの部屋を追加で借りて、子どもたちを寝かしつけたジュスティーヌたち。泊まり込みの女性スタッフが一部屋につき一人付き添い、何かあったら声をかけてくれることになった。
思いのほか、今日は長い一日になってしまった。
パックスウルブスを出て、ここまで来て、ナンパ男を殲滅し、悪徳神父に鉄槌を下し、お母さんのようなまねごとまでしてしまった。ジュスティーヌだって、母の愛情なんてほとんど知らないのに。
そして、今、腹黒どエロ皇子と部屋に二人きり。
さっきこの人なんて言ってた? うん、覚えてないことにしよう。
「さてと、明日に備えて今日はお風呂にでも入ってゆっくり寝ましょう!」
「お先にどうぞ。のぞいたりしないから、ゆっくり湯船につかってくるといいよ」
そう言われると、この人、のぞく気、いや、堂々と入ってきたりするんじゃないかと不安になる。
が、とりあえず湯船につかって疲れを取るように足を伸ばした。
湯船に入れたラベンダーオイルの香りを嗅ぎながら息を吸うと、今度はふぅっと大きく息を吐く。こうすると、リラックスしつつも、頭がスッキリとしてくるのだ。
それにしても、子どもたちをどうしよう。
買われていった子どもたちは手分けして探すとして、今残っている9人の子どもたち。彼らが今まで受けてきた心の傷を考えると、やたらな相手には託せない。
かといって、自分一人で何とか出来るほど、今のジュスティーヌに力があるわけでもない。
学校のある時期だったら、PJLの仲間たちの力を借りられるのだけど。
この後、ジュスティーヌは国に帰って、さらにその後はアルフォンスとブリオントクロヌ帝国にも顔を出さないといけない。そこまでこの9人の子どもたちをゾロゾロと引き連れていっていいのだろうか?
でも、考えようによっては、子どもたちがいる分、アルフォンスが自分に対してエッチなことをしてきにくいんじゃないかという気もする。
さらには、9人も子どもがいる自分を、あの王妃だって誰かに嫁がせにくいだろう。そうだ、先手必勝で、この際だからあの子どもたちを自分の子どもにしてしまおう。
考えもまとまったことだし、ジュスティーヌはお風呂を出て部屋に戻った。アルフォンスは教会から持ち帰った帳簿などの資料に目を通していた。
「さーてと、明日はグリフォンと対決しないといけないから、それに備えて早く寝ましょう」
アルフォンスがチラッとこっちを見てくるが、無視無視!
さっさとベッドに入ると布団を口元まで被り、目を閉じて寝たふりをする。
「ジュティ」
アルフォンスが近づいてくる気配がして、痺れるような甘い声で呼びかけてくる。
「もう寝ちゃったから」
目をつぶったまま寝返りを打って、アルフォンスに背を向ける。
「ジュティ、君は今日、3つ悪いことをしたよね?」
「はあ? 何を言っているの? 3ついいことをしたの間違いでしょ!」
もう寝たと宣言したばかりだが、そんなことを言われて寝ていられるわけがない。
ジュスティーヌは飛び起きる。
「確かに、3ついいこともしたが、悪いことも3つしたから、お仕置きが必要だな」
「なんでそうなるの! 悪いことなんてしてないから。したけど、裏を返せばあればいいことなの!」
ナンパ男をボコボコにして、生臭神父に一発食らわせた。あともう一つの悪いことってそもそも何?
「俺が言っているのはそのことじゃない」
「じゃあ、どのことよ!」
プンプンしながら、アルフォンスを詰問する。
「一つ目は……ジュティ、君、ごろつきの最後の一人にパンチラキックをしただろう? あれは俺専用の必殺技なんじゃなかったのかな?」
「してないから、あいつにしたのはスペシャルドリルキックだから」
何という言いがかりだろうか!
「本当に?」
「本当だから!」
「信用できないなぁ」
「もう、信じるしかないの、これは!」
実際に、あれはスペシャルドリルキックなのだ。
なぜならば、今日、ジュスティーヌは寒さ対策も兼ねて、かなり厳重な厚着をしていた。
当然、スカートの下にも厚手のドロワーズを履いていたので、パンチラするわけがないのだ。だが、お風呂に入り、寝巻に着替えてしまった今となってはその証明のしようがない。
「そうだなぁ、じゃあ、今度、俺に真のパンチラキックを見せてくれないかな? そうしたら、あれがスペシャルドリルキックだったと信じることにするから。そうしたら、その分のお仕置きはなしにしよう」
「おうともよ!」
見てなさい、腹黒エロ皇子! お望み通りの真のパンチラキックを食らわせてやるんだから! そうしたら、あなたなんてもうボロボロのメロメロよ!
「楽しみだな、ジュティのパンチラキック。何だったら、今してくれても構わないよ」
んっ? あれ? ちょっと待って。何かおかしくない?
アルフォンスのまぶしい笑顔を見ると、またしても罠にはめられたことに気が付く。
アルフォンスも、ジュスティーヌが罠にはめられたと悟ったことに気が付く。
「今更やっぱりなしはなしだよ。下着の色はなんでもいいからね。とにかく、期待している」
それだけ告げると、アルフォンスは白い歯を見せてニコッと笑い、浴室へと消えていった。
がーーーん、がーーーーーん。わたしのバカバカ、マヌケ、ポンコツ、おたんこなすぅ!
またしても腹黒皇子に一本取られてしまったジュスティーヌだった。
あの人、わたしが悪いことを3つしたと言ってたわよね。あと2つは一体何なのー!? ううっ、先が思いやられるわ……。
この先、しばらくの間、あの腹黒皇子と行動を共にしないといけない。最大限、警戒をするつもりだが、今までのことを考えるとまるで勝てる気がしない。
よし、こうなったら、明日、何が何でもグリフォンを仲間にして、あの腹黒皇子からわたしを守ってもらうしかないわ。
そう思ったら、急に気持ちが大きくなって、すんなりと寝落ちするジュスティーヌだった。




