第201話 悪女だけど、聖母になってしまったわ、わたくし。
ジュスティーヌはかねてから、自分がかわいすぎることが少しだけ不満だった。悪女の風貌はかわいいというよりは、もっとどぎつくなければいけないと思っていたのだ。
だが、最近その考え方を改めつつあった。
純真無垢な天使と見せかけて実はあくどいほうが、見るからに悪女面をしているよりもずっとたちが悪いと気が付いたからだ。
今日もまさにその好例である。か弱いお嬢様と見せかけて悪漢たちを自らに地の利があるホテル前まで誘導し、天使のように哀憐れみ深い聖女と思わせて神父の化けの皮を剝いだのだから。
アホな男どもをだまくらかす生まれながらの素質を持っていると同義である。
ジュスティーヌは飛び跳ねたい気分だった。だが、今飛び跳ねると抱っこしている小さな子どももろとも屋根の上に上ってしまいそうだから、少しだけ我慢することにした。
子どもたちを連れて、ひとまずホテルへと戻った。
ご馳走すると約束してしまった手前、それを反故にするわけにはいかない。ジュスティーヌは悪女だが、正義の味方でもある。特に、罪のない子どもたちには優しいのだ。
保護した子どもは全部で9人だった。
最年長の女の子の話によると、1月ほど前までは孤児院には22人の子どもがいたらしい。子どもがもらわれていくのは、それまでは数か月に一人いるかどうかぐらいだった。
それが、ここ1月で13人もの子どもがいなくなったことになる。随分とハイペースで子どもを連れ出したようだ。13人目の子が連れていかれたのは、つい先日のことだったらしい。
「お面をつけたお金持ちのおじさんがくると、お兄さんやお姉さんが一人ずついなくなっていったんだ」
「神父様は、お兄さんたちはお金持ちの子どもになって幸せになっているって言ってた」
子どもたちが口々に見聞きしたことを語ってくれた。
「子どもたちをどこに連れて行ったのか、昼間捕らえたやつらに拷問して聞き出しましょう」
すでにかなりの拷問を受けた男たちだったが、さらなる拷問の危機にさらされる。もっとも、拷問されるに値するだけの悪人だとわかったので、容赦する必要はない。
「今までのお食事はどうだったの?」
「食事はいつも同じような感じだったよ。でも、たまに、お姉さんたちがしてくれたみたいに商店街の人や冒険者さんが食べ物を寄付してくれることがあって、その時は美味しいものが食べられたな」
「そうなのね。ということは、そもそもドケチだったんじゃないの、あの生臭神父たちは」
「神父さんやお世話役のおばさんは、君たちに優しくしてくれていたかい?」
子どもたちは、お互いの顔を見合わせるとうつむいて黙ってしまった。
「わかった。思い出したくないことは思い出さなくてもいいさ。君たちのことは、俺たちが責任をもって育てていくから安心してほしい」
なんと腹黒皇子は父親になるらしい。
「ありがとうございます。カッコいいお兄さんに美人なお姉さん」
「お兄さんとお姉さんは結婚しているんですか?」
「うん、結婚はまだだけど、ほぼ結婚しているようなものかな」
「ちょっと、勝手なことを言わないで!」
純粋な子どもに適当なことを教えるアルフォンス。
「さ、どんどん食べて。君たちは今まで大変な思いをしてきたんだ。今は楽しいことだけ考えよう」
「ちょっと、いい人ぶって誤魔化さないで!」
「美人なお姉さんは、僕たちにはやさしいのに、カッコいいお兄さんには厳しいね」
子どもが素朴な感想を口にする。
「うん、そうなんだ。このお姉さんみたいな態度をツンデレっていうんだ。お姉さんはお兄さんのことが好きだから、つい厳しくなってしまうみたいでね」
「ちょっと、子どもたちに変なことを教えないで!」
「あっ、またツンデレだー!」
「違うからーー!」
ジュスティーヌがプンプンしていると、一番小さな男の子がやってくる。
「ママ、だっこ」
「ママじゃなくて、美人なお姉さんだけど、抱っこしてあげるわ。あなたはとってもかわいい子だからね。どっかの誰かと違って!」
子どもには聖女の笑顔を向け、アルフォンスには悪魔のように牙をむくジュスティーヌ。
「ジュティ、君がそこまで子ども好きだとは知らなかった」
「子どもと動物は腹黒くないからね、どっかの誰かと違って! だから、すっごくかわいいわ。よしよし」
ジュスティーヌは膝の上にちょこんと座っている男の子の頭をなでなでする。
「ぼ、僕も、美人なお姉さんによしよししてもらいたい!」
「いいわよ、こっちにいらっしゃい」
これまた小さな男の子が近くにやって来たので、よしよししてあげる。男の子は満足そうに微笑む。すると、次々と、今度は男女問わずによしよししてもらいたい子どもたちが押し寄せてくるので、ジュスティーヌは順番に頭を撫でてあげた。
子どもたちはよほど愛情に飢えていたのだろう。このような純真な子どもたちを金儲けの道具としか思っていないクソ神父たちのことをもっと虐げておけばよかったと後悔する。
よし、次顔をみたら、まずはあの神父に顔面パンチを食らわせて、歯をへし折ってやるわ。
アルフォンスは、ジュスティーヌが子どもたちの頭を「よしよし」と撫でる様を、組んだ両手の上に顎を乗せた状態で、黙って見守っていた。
「ジュティがそこまで子ども好きだったとはな……」
アルフォンスは先ほど口にしたのと同じ言葉を、もう一度意味深な様子でつぶやいた。
腹黒皇子、わたしが子どもたちをよしよしする様を、随分と羨ましそうに見ているわね。いい気味だわ!
「うん、ジュティ、俺は決意したよ」
「えっ、何を?」
「君が卒業するまでは我慢しようと思っていたけれども、そんなに子どもが好きなんだったら、今すぐ結婚して、子作りしよう!」
「は、はあー! あああ、あなたは何を言っているのー! 子どもたちの前でーー! アルの女たらし! アルの破廉恥! アルの色魔!」
ジュスティーヌは力の限り、アルフォンスを責め立てた。
「美人のお姉さん、結婚しようって言われて顔が真っ赤だよ! 本当にお兄さんのことが好きなんだね!」
「もう、違うからーーー!」
「わあ、またツンデレだー!
「「ツンデレ♪ ツンデレ♪」」
子どもたちは覚えたての言葉を、声を合わせて楽しそうに連呼するのだった。




