第200話 美人のお姉さんが子どもたちを救っちゃいますわ。
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ジュスティーヌたちは再び孤児院のある教会の前に来ていた。
神父たちが騒動を聞きつけて、証拠隠滅を謀る前に言質を取る必要がある。それに、売られた可能性のある子どもたちの救出のためにも少しでも早く動く必要があったからだ。
「あの……どういったご用件でしょうか?」
応対にでた神父は随分と警戒しているようだった。
「わたくし、見ての通りのお金持ちのお嬢様なんですの」
「は、はあ……」
「先ほど、こちらの孤児院の状況を目にして、少し胸を痛めておりますの」
「は、はい……」
「お金持ちのお嬢様のわたくしができることといったら、子どもたちのために寄付をすることかと思い、もう一度戻ってきましたの」
それまでは面倒くさそうな態度だった神父が、急に水を得た魚のように生き生きとし出す。
「おお、それはありがたいです」
「子どもたちと一緒にお食事をさせてもらってもよろしくって?」
「え、ええ、どうぞ、こちらです」
孤児院ではちょうど夕食をとっているところだった。先ほど、街の名物をたらふく食べた後とはいえ、食卓にあった料理は具のないスープに固いパン一切れと、あまりにも粗末なものだった。
「子どもたちはいつもこのような食事をしているのかしら?」
「え、ええ、そうなんです。グリフォンが出るようになってから、町の皆さんからの寄付も随分と減ってしまって……」
「やっぱり、気が変わったわ」
「えっ?」
「寄付をするのはやめるわ」
「えっ! そ、そのようなことをおっしゃらず。子どもたちのためにもどうかお嬢様のご温情をくださいませんか?」
神父は露骨に残念そうな顔つきになると、必死に食い下がってきた。
「だけど、安心なさって」
「は、はい。やはり寄付をしていただけるのですね!」
「いいえ。でも、ここの子どもたち、全員もらい受けるわ、わたくしが」
「えっ!」
「さあ、みんな、ここにいる美人のお姉さんと一緒に行きましょうね。今日はホテルで豪華でおいしいお食事をしましょう」
「わーい」
「やったー!」
子どもたちは、神父様とかわいいお嬢様の会話の内容はよく理解できなかったものの、おいしい食事というパワーワードに喜び立ち上がった。
「ちょ、ちょっと待ってください! 急に全員もらい受けると言われましても!」
「えっ、ダメかしら?」
「あ、その、普通は子どもをもらって行かれる方というのは、ご結婚なさっている貴族や商家の方などで、養子や養女に迎えられるケースがほとんどなのです」
神父は、急に厳しい口調で目の前の令嬢を諭し出した。
「そうなの、それで?」
「ですので、私どもも子どもたちのこの先の福祉を考えるとですね、もらっていくと言われてどうぞというわけにもいかないわけでして」
とにかく寄付を! という言葉を神父は飲み込んだ。
「そうなの? でも、わたくしとくれば、この子たちはお腹いっぱい食べられるし、綺麗な服も着られるわよ。もちろん、責任をもってわたくしが教育するわ、この子たちを。ここにいて具のないスープを啜る日々よりもずっと幸せだと思うけれども?」
「その……食事はそうかもしれませんが、きちんと愛情をもって育ててくれる方でないと、私どもとしても安心できませんので」
だからまずは寄付を! という言葉が喉から出かかったが、こちらも耐えた。
「そう、じゃあ、子どもたちに決めてもらいましょう! みんな、ここにいる口うるさいしょぼくれたおっさん神父と超美人でかわいいお金持ちのお姉さんどっちがいいかしら? ちなみに、美人のお姉さんを選んでくれたら、もれなくイケメンのお兄さんもついてくるわよ」
子どもたちは「美人のお姉さんがいい!」と言いたそうな顔をしていた。が、それなりの年齢の子どもはチラチラと神父の顔色を伺っている。
すると、一番小さな、まだ3、4歳ぐらいの男の子がジュスティーヌの脚にペタッとくっついた。
「あら、あなたは美人のお姉さんがいいのね、よくわかっているわ、偉い子ね」
ジュスティーヌはその男の子を抱き上げた。すると、今度はその子よりももう少し大きい女の子もジュスティーヌの脚に抱き着いてくる。
「まあ、あなたも見る目あるわ。次はイケメンのお兄さんに抱っこしてもらいましょうね」
ジュスティーヌは反対の腕でその女の子も抱き上げた。かわいいお嬢様の割にはなかなかに力強いジュスティーヌ。子どもたちは次々とジュスティーヌにくっつきだした。
「残念ながら、わたくしの圧勝のようね!」
「皆、席に戻りなさい!」
神父は急にきつい声で子どもたちを叱る。
何人かの子どもたちは神父の厳しい声に、怯えて固まっているようだった。子どもたちの反応を見るに、神父たちに日常的に虐待を受けているのかもしれない。
「大丈夫よ、みんな。こんなおっさん生臭神父なんぞ、恐れるに足らずよ! なんせわたくしは、かの有名なパックスウルブスの大悪女にして平和の使徒・大魔女マジカール様なのだから!」
何を言っているのかいまいち理解できなかったものの、自分たちを保護しに来た美女はすごい人なのだということはわかった子どもたち。
「さあ、みんなホテルに行きましょうね」
ジュスティーヌが子どもたちを部屋の外に出そうとすると、神父は退路を塞ぐようにドアの前に立ちはだかった。
「このまま行かせるものか!」
神父は子どもに手を伸ばし、捕まえようとした。が、ジュスティーヌは素早くその手を押さえると、そのまま下に引き、バランスを崩した神父を投げ上げた。
「ぐはああっ」
神父は縦に一回転すると、背中を床に強打して、悶絶していた。
「はい、いっちょ上がり。じゃあ、みんなおいしいご飯を食べに行きましょう」
ジュスティーヌは子どもたちを連れて、再び歩き出そうとする。
「ま、待て! このようなことをしてただで済むと思うなよ。子どもたちを置いて出ていけ、そうすれば命だけは助けてやろう」
床に転がりながらも、神父は聖職者らしからぬ捨て台詞を言った。
「命だけはって、わたしに手も足もでずに床に這いつくばっているあなたが一体どうするというのかしら? もしかして、酒場にたむろしている男たちにでも襲わせるつもり?」
「なっ! なぜそれを!」
神父は、考えを読まれたことに驚いた。
「だったら、残念でした。そいつらは全員、まあ、数名はアルがやったんだけど、このジュスティーヌ様が完膚なきまでに成敗してやったわ! お前も、あいつらと一緒に大人しくお縄につきなさい!」
「くっ、クソ! もはやこれまでか……」
生臭神父は、随分と物わかりのいい悪党らしい。
「ところで、他の子どもたちはどこに売り払ったのかしら?」
「そんなもん知るか。私は言われた通りに子どもたちをあいつらに渡しただけだ」
「で、見返りにその時計やら指輪やらを受け取ったと」
「悪いか!」
生臭神父は、完全に開き直っていた。
「ということで、やっぱりこいつもグルだったわ」
さっきまで自分と会話をしていた悪女が急に誰か別の者に向かって声をかけた。
「えっ?」
「お手柄だったね、ジュティ」
アルフォンスに町長と警ら隊長が部屋に入ってきた。
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