第2話 悪役令嬢らしく華麗に舞ってみせますわ!
「その光栄を是非、私にお与えください!」
微妙な空気が立ち込める中、仕方なくセドリックは立候補した。
「なんですって! お前、まさか自分が大魔王級の美貌と財力と実力の持ち主だとでも思っているのかしら? このわたくしにぶちのめされたくなかったら、潔く身を引きなさい!」
「身の程もわきまえず、とんだご無礼を! 失礼いたしましたあああ!」
セドリックは大げさなまでに身を縮めた。そして、ペコペコしながらジュスティーヌの傍を離れた。
「ふぅ、これで俺の今日の仕事も無事に終わったぜぃ……」と、柱の陰で安堵のため息をつく。
ああ、見て! この会場の荒んだ空気! さながら、魔王城のようじゃないの! 皆、悪役令嬢ジュスティーヌ姫様に恐れおののいているわ! うわっはっはっはっは!
ジュスティーヌは、会場にいる若い男女をジロジロと見ながら、大魔王――いや最強の悪役令嬢になった気分で会場内を闊歩した。
思いのほかイケメンぞろいでなかなかに眼福である。そんな男たちが自分を恐れ、目を逸らし、どことなく首を垂れているのだ。何とも小気味よい光景ではないか。
が、悪役令嬢としては、まだ何かが足りない。悪役令嬢たるもの、こういった公の場ですべきことはただ一つ!
そう、断罪されることだ。
愛し合う恋人同士の仲をこれでもかというぐらい邪魔しまくるのだ。悪役令嬢たるもの、断罪されてこそ本物なのだから。
ジュスティーヌは、婚約者のいる適当な王子を物色することにした。
ふむふむ、まあまあの優良物件ね。大魔王級とまではいかないけど、そこそこなセドリックよりはずっと格上ね。
その王子の隣にはキュート系で思わず守ってあげたくなるような雰囲気の令嬢がいた。おそらく、二人はかなり親密な間柄だ。
ジュスティーヌはある紳士の前にゆっくりと進み出でると、右手を相手に向かって差し出した。会場中がジュスティーヌに注目する。
さあ、悪役令嬢、ジュスティーヌ姫の本日最大の見せ場よ! 武士が男らしく切腹するように、このわたしのあっぱれなフラれっぷりを見なさい!
「わたくしの初めての相手はあなたにしてあげるわ」
ジュスティーヌがそう告げた男は、ブロンドヘアーにブルーアイとお決まりの王子様仕様で、見目の良い男たちの多いこの会場の中でも一際目立つ優美な容姿をしていた。
さらに彼の服には、大陸一の大国・ブリオントクロヌ帝国の紋章が付いていた。これは最優良物件だ。
皇子は案の定、申し訳なさそうな顔をして断りをいれてきた。
「申し訳ない、ジュスティーヌ姫。せっかくご指名いただいたのですが、すでに先約がありまして……2番目ではダメでしょうか?」
「はあー? 2番目ですって! 世界中の男たちが夢中になるこのジュスティーヌ姫様が2番目ですとおおおお!」
……まあ、いいわ。断られるのも当然織り込み済みよ! よしっ!! これで罵詈雑言の限りを尽くして、愛し合う二人を邪魔する悪役令嬢になれるわ!
「このわたくしよりもそちらのご令嬢を選ぶということですの? そこのご令嬢! わたくしと違って、かわいらしくて清楚でドレスも洗練されていて、わがままを言って男を困らせることもなさそうなお嬢さんだこと! 殿下はこの方のような淑女がお好みというわけですのね! このわたくしと違って! ま、顔はわたくしのほうが圧倒的に格上だけど、ああ、そうですの! お二人は強い愛の絆によって結ばれているから、わたくしの陰険ないびりなんぞにはめげないということですのね! あなたがたは、嫉妬に狂うこのわたくしを断罪なさるってことですのね! ええ、ええ、わかりましたとも!」
中身はともかく、長セリフを一気にまくしたてられ、二人は完全に気圧されていた。
成り行きを見守っていた令嬢たちが冷ややかな目を向けてくる。紳士たちは顔を背け、見てみぬふりをする。
ふぅ、言ってやったわ! 完璧だわ。これで悪役令嬢ジュスティーヌ姫様の断罪劇、成功よ! さーてとっ、後は痛い姫として壁の花でもやって、さらし者になろうっと。
そう自己満足して、ジュスティーヌは華麗に踵をかえすとスキップしながら壁に向かった。
――完
「キャーーー見てーー!」
「ステキ!」
と、ジュスティーヌが生み出した空気感をぶち壊すかのように、急に女性たちが歓声を上げた。
見ると、輝く金色の長い髪をなびかせた見目麗しい長身の騎士風の男が、彼の周りの背景をキラキラさせながら、黄色い悲鳴のBGMと共にこちらに向かってくるではないか。
えっ……あれは、伝説の勇者様!?
今朝見た夢と被る、伝説の勇者を彷彿とさせる華麗なる容姿に、思わず目を奪われる。
男はジュスティーヌの目の前で止まると、白い歯を見せて笑った。
今朝の夢の中で、ジュスティーヌは純白のドレスに身を包み、神殿の中にいたのだ。
祭壇の前には、割とイケメンな王子Aの姿があった。
とその時――
「その結婚、待った!」
教会の扉が勢いよく開け放たれる。そこに、一人の男が姿を現した。それなりにイケメンな王子Bは手袋を投げつけた。
「姫の夫の座を賭けて、決闘だ!」
「それならばこの僕も姫の夫に立候補させてもらおう!」
今度は、参列者の中から、かなりのイケメン王子Cが立ち上がり、姫を巡る戦いはついに三つ巴に!
「危ない! 姫様、こちらに!」
セドリックがジュスティーヌをかばうように前に立った。
「もしかして、セディ、あなたも、わたくしのことを……!」
「いえ、違います。一応護衛騎士なのでかばうフリをしただけです。俺は命がけで夫に立候補なんてしませんからご安心を!」
「はあ!? 護衛騎士になりたいんだったら、むしろ命を賭けなさいよ!」
ガッシャーンッッ!
急に神殿の高窓が割れたかと思うと、もう一人男が飛び込んできてジュスティーヌの前に軽やかに下り立った。
光の帯のように煌めく長い金の髪をなびかせた男は、目を奪われるほどの美貌の持ち主にして、世界最強の男――
――伝説の光の勇者ではないか!
男は一刀のもとに三人の王子たちを吹き飛ばした。その姿に見とれるジュスティーヌを、伝説の勇者は軽々と抱き上げる。
「さあ、姫、私と参りましょう! 大魔王討伐の旅に!」
「ああ、勇者様!」
みたいな?
「……勇者さま?」
ジュスティーヌは無意識のうちにそうつぶやいていた。
「姫君、先ほどは弟が大変失礼いたしました。代わりと言ってはなんですが、ブリオントクロヌ帝国の第二皇子アルフォンスに姫君の初めてをいただけないでしょうか」
美形皇子は、バサッと赤いマントを右腕で薙ぎ払った。恭しく挨拶をして、ジュスティーヌの手を取り、勝手に口づけをする。
ちょっ、まさかの帝国の第二皇子!? 明らかに会場一、いえ地上一、ううん、宇宙一の美形よ! さっきの弟皇子でさえスッポンに見えるわ!
今、この会場内でもっとも注目を集めているこの男と行動することで、最高の見せ場を演出できる!
悪役令嬢だったら、こんなときどうするかしら?
ジュスティーヌはほんの少し思案した。
ふふふふっ、思いついたわ!
「……よろしくってよ!」
ジュスティーヌは明らかに悪巧みをしている顔つきになった。アルフォンスはその表情をじっと見つめた。
(この顔は……このお姫様は一体何を企んでいるんだ?)
アルフォンスは一瞬だけ真顔になった。
(面白い……何を見せてくれるのか、期待しているよ、ジュティ)
すぐにまた最高の笑顔になる。
アルフォンスに手を取られ、ジュスティーヌは広間の中央に向かった。しばらくすると弦楽器の艶やかな音色が、二人のために最初のワルツを奏でだした。
さあ、始めるわよ! 悪役令嬢による悪夢のダンスパーティを!!
今日も読んでくださり、ありがとうございました!




