第3話 いきなり物語が終わってしまいそうな展開で大ピンチですわ!
さあ、踏むわよ! 粉骨ステーップッ!
そう思い、ジュスティーヌが繰り出した必殺の粉骨ステップの着地先は、床だった。
あら? わたしの足技をかわすとは、偶然にしてはなかなかね。きっとわたしの踏み込みが甘かったのね。相手がイケメンだから少し手心を加え過ぎちゃったみたいね。でも、次は外さない!! 食らえ、渾身の複雑骨折ステーップッ!
コツンっ。
次の一足も床に着地する。
クッ、この男、脚が長すぎよ! イケメンだからってこの脚の長さは反則だわ! こうなったら、ステップのタイミングをずらしてでも、わたしのプライドすべてかけて踏んづけてやるわ! 今だわ!
クルンっ。
今度は予想外のターンでかわされる。
キーーーっ!! なんなのお!!
この男、予想した500倍はリードが上手い。しかも、運動神経がいいうえにそもそも脚が長いので、ジュスティーヌが足を踏もうと奮闘してもまるで踏ませてくれない。涼し気なまなざしでこちらをみて微笑む余裕すらあるのだ。
「ダンスを踊るのは随分と久しぶりで、少し自信がなかったのですが、姫君はファーストダンスとは思えないほどお上手だ。とてもリードがしやすいですよ」
ほぉー、このわたしにそんなこと言っちゃうワケ? 命が惜しくないようね、イケメン皇子!
「まあ、そうですの。皇子殿下も、とぉぉぉってもお上手だわ! ふまれそうになるのをさけるの」
ジュスティーヌも胡散臭い笑顔を作りながら、相手を褒め返す。ふまれそうになるのをさけるの、は心の中でだけつぶやくつもりが、小声で早口でゴニョゴニョと、めちゃくちゃ不満そうな顔で口にしてしまった。
「お褒めにあずかり光栄です、姫君」
「おほほほほっ……ぜんぜんほめてないけど」
「えっ、何でしょうか?」
「いえ、何でもありませんわ。おほほほほほっ」
一方のジュスティーヌは最初こそ、高慢で余裕しゃくしゃくといった表情をつくっていたものの、何度も必殺ステップをかわされるうちに、少し上がった口角がわなわな震えだし、微笑んでそうで笑っていなかった目は血走りだした。
「ああ、姫君は本当にダンスがお上手だ」
まだ言うか、それーーー!
次第に二人の足技の掛け合い――ではなくダンスのステップは激しくなっていく。
普段から相当な鍛錬を積んでいるジュスティーヌだったが、激しい足運びの応報に、ワルツを一曲踊り終わるころには不覚にも息が上がってしまっていた。それなのにこの男ときたら、にこにこと平然としていているではないか。
「皇子殿下、お見事なダンスの足……いえ腕前でしたわ。わたくし、鍛え……いえもっと練習を積み重ねて参りますので、ぜひともまた今度、再戦をお願いしたいですわ……」
ジュスティーヌはメラメラと闘志を燃やしていた。次にこの男に会うまでに厳しい鍛錬を積み重ね、必殺足踏みステップに磨きをかけて、この男の足を完膚なきまでに踏んでやるのだ!
「姫君こそ、素晴らしいダンスのお足……いえお手並みでしたよ。こんなに楽しいダンスは初めてです。今度といわず、ぜひ今、もう一曲、お相手願います」
はあー!? ちょっと待って! この男、わたしが足を踏もうと躍起になっていたことに完全に気が付いているじゃない。その上でもう一曲って、どんな変態よ!? こんなに顔がいいのに! 天使の皮を被った悪魔とはこういう男のことを言うのだわ……。この男とこれ以上関わるのは危険極まりないわ。
駆けだしのひよっこ悪役令嬢に、真正変態悪魔皇子の相手はさすがに荷が重い。
「こ、婚約者でもないのに続けてダンスを踊るのはマナーに反するのでは?」
「そうですか? ふむ……確かに、そうですね」
そういうと皇子は片手を口元に当てて少し考えこむようなしぐさをする。
「では、婚約しましょう! 今ここで直ちに! ジュスティーヌ姫、どうかこのアルフォンスの妻になってくださいませんか?」
「はあっ?」
いやいやいや、今なんて言ったこのイケメン!? えっ、今のまさかのプロポーズ? はあー、ふざけてるの?
「おっ、ちょうどいいところに婚約指輪もあります。うん、ジュスティーヌ姫にピッタリだ」
男は自らの服の胸ポケットから、大きなダイヤのついた指輪を取り出すと、勝手にジュスティーヌの左手の薬指にはめる。
「ちょっと勝手なことをしないで!」
ジュスティーヌは慌てて指輪を外そうとするが、本当にピッタリすぎてなかなか外れそうにもない。
「ひとまず婚約しておきましょう。そしてもう一曲踊りましょう! 何も問題ないでしょう」
そこにあるタルトを一緒に食べましょう、おいしいですね、ぐらいのノリで何を言っているの、この男は!?
「いやいやいや、どー考えても問題ありまくりでしょう!」
思わず地がでてしまうジュスティーヌ。
「そうですか? 私はこれでも帝国の皇子です。お互いの身分もつり合いがとれている。今婚約しなくてもいつかあなたと政略結婚するかもしれないのだから、だったら今でもいいでしょ? うん、何の問題もありませんよ!」
「論理が飛躍しすぎです! ……あっ、そうだ! ほら、わたしたちは今会ったばかりでお互いのこと何もしりませんよね? あ、愛とか、そういうのも大事じゃないですかあ!」
ちょっと噛みながらも、愛が大事などと微塵も思ってもいないけれども、そもそも婚約も結婚もしたくないので、なんとかこの変態皇子を逆方向に口説き落とさないといけない。
「愛ですか……。それでしたら、私はすでにあなたの虜ですよ。姫君」
皇子は色気たっぷりの流し目でこちらに視線を向けてくる。
虜だなんて、嘘だ、ウソだ、うそだー! このど変態!
「それに、あなたは、私の瞳と同じ色のイヤリングと指輪を付けてくださっているじゃないですか! とてもよくお似合いだ。もうこれは運命としかいいようがないでしょう!」
イヤリングと指輪は完全に偶然だし! このペテン師! 詭弁男!!
「わたくしは他の殿方の瞳の色のネックレスや指輪もこーんなにたくさんつけているのですが!? ほら、この指輪なんてあっちにいるちょっと頭の薄いおじさまの瞳の色と一緒ですよ! ってことは、あのおじさまとも運命なんですかねぇ!? 揶揄うのも大概になさってくださいませ、アルフォンス殿下」
そういって、ジュスティーヌはカラフルな指輪をはめた指をアルフォンスの前に突き出す。アルフォンスは「はっ」とした表情になり、少し顔を赤らめると、恥ずかしげもなくクサイ台詞を吐く。
「ジュスティーヌ姫、今、私の名前を呼んでくださいましたね。その小鳥のさえずりのようなかわいらしい声で、もう一度私の名前を呼んでください。婚約者なのですから、敬称も不要です。アルフォンスとお呼びください」
「嫌です。絶対に! ぜえーったいに、いーやーでええす!」
顔を真っ赤にして小鳥のさえずりとは程遠い雄叫びをあげるジュスティーヌ。それをみてアルフォンスは白い歯を見せて笑った。
ダメだ……。何をしてもこの暴走男にダメージを与えることができない。悪役令嬢に全くひるまないなんて、変態を超えた真の変態、キング・オブ・変態だわ。
悪役令嬢デビュー戦にして、出会ったイケメン皇子にプロポーズされてしまうとは、いきなりの大ピンチを迎えるジュスティーヌであった。




