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第2話 悪役令嬢らしく美貌の皇子と華麗に舞いますわ!

「この美しいわたくしと最初のダンスを踊れる幸運な紳士はどなたかしら? われこそはと思うものは名乗りを上げるといいわ!」


 その一言で、会場はざわついた。自ら美しいというなんて、虚栄心の塊としか思えないような発言に、痛い姫だと言わんばかりの空気が立ち込めた気がして、ジュスティーヌは「しめしめ」と思う。


 それなのに、決まった相手のいない令息たちはこぞって、


「その光栄を是非、私にお与えください!」


 とダンスの相手を申し出てきた。エスコートをしてきたセドリックも一応立候補してきた。平気で自画自賛するような尊大な姫かもしれないが、腐っても一国の王女であることには間違いない。


「よろしくってよ! そうね……では一番身分が高く、見目麗しい方と踊ることにするわ」


 こんなセリフを大勢の男たちの前で堂々と言うなんて、もはや悪役令嬢以外の何物でもないだろう。ジュスティーヌは己の悪役令嬢っぷりに酔いしれた。


 ジュスティーヌはじろじろと男たちを見て回った。結構イケメンぞろいで眼福である。正直、誰と踊っても心も小躍りしちゃいそうな気分だ。


 しかし、ここは悪役令嬢のデビューの場だ。立候補してきた男から選ぶなんて悪役令嬢としては(あく)どさが少々物足りないのではないか。このような際には、この場にいる一番の男を選ばなければ!


 純粋そうな婚約者がいる男であればなおよい。悪役令嬢になるからには、愛し合う恋人同士の仲を邪魔して()()されないといけないのだから。


 会場を見渡してみると、ローランド王国やノーザンベル王国の王子らしき人物が見える。誰なのかまではわからないが、彼らが身に着けている紋章からその人物の属性を判別することができるのだ。


 ジュスティーヌはある男の前にゆっくりと進み出でると、右手を相手に向かって差し出した。


「わたくしの初めての相手はあなたにするわ」


 ジュスティーヌがそう告げた男は、ブロンドヘアーにブルーアイとお決まりの王子様仕様で、見目の良い男たちの多いこの会場の中でも一際目立つ容姿をしていた。さらに彼の服には、ブリオントクロヌ帝国の紋章が付いていた。つまりは帝国の皇子というわけだ。この国周辺に帝国は一国だけであることからも、この場においてこの皇子は()()()()()というわけだ。


 彼はジュスティーヌのダンスの相手に立候補はしていない。さらに喜ばしいことに、その隣には清純派でいい子ちゃんっぽい雰囲気の令嬢がいた。おそらく、すでに最初のダンスを踊る約束をしているのだろう。二人は遠目に見てもかなり親しそうだった。


 皇子は案の定、申し訳なさそうな顔をして断りをいれてきた。


「申し訳ございません、姫君。せっかくご指名いただいたのですが、すでに先約がありまして……」


 よしっ!! これで罵詈雑言の限りを尽くして、愛し合う二人を邪魔する悪役令嬢になれるわ!


「このわたくしよりもそちらのご令嬢を選ぶということですの? そこのご令嬢! ()()()()()()()()、かわいらしくて清楚でドレスも洗練されていて、わがままを言って男を困らせることもなさそうなお嬢さんだこと! 殿下はこの方のような淑女がお好みというわけですのね! ()()()()()()()()()()! ああ、そうですの! お二人は強い愛の絆によって結ばれているから、わたくしの陰険ないびりなんぞにはめげないということですのね!」


 悪役令嬢と言えども、(おとし)めるのは自分の評判であり、無辜(むこ)なる他人ではない。「他人を必要以上に傷つけないこと」は悪役令嬢になろうと決めたジュスティーヌのいわば(かせ)であった。


 だからか、彼女の台詞は実際にはご令嬢と殿下へのストレートな悪口にはなってはいない。しかし、これだけのセリフを一気にまくしたてたからか、ご令嬢と皇子は完全に気圧(けお)されていた。


 これで、わたしの第一印象は最悪ね。なかなかやるじゃない、わたし。


 そう自己満足してジュスティーヌは(きびす)をかえす。


 すると、輝く金色の長い髪をなびかせた見目麗しい長身の騎士風の男が、彼の周りの背景をキラキラさせながら、黄色い悲鳴のBGMと共にこちらに向かってくる。


 あれ、誰?


「姫君、先ほどは弟が大変失礼いたしました。代わりと言ってはなんですが、ブリオントクロヌ帝国の第二皇子アルフォンスに姫君の初めてをいただけないでしょうか」


 美形皇子は、バサッと赤いマントを右腕で薙ぎ払うと(うやうや)しく挨拶をして、ジュスティーヌの手を取り、勝手に口づけをする。


 ちょっ、まさかの帝国の第二皇子!? しかも会場一の美形! これはウルトラレア級優良物件だわ!


 なぜ、この皇子がダンスの相手を務めようと思ったのかは不明だが、これは最高の見せ場にできる。断るのも悪役っぽいが、受けたうえで失敗したほうがより目立てるのでは?


「……よろしくってよ!」


 こうなったら、ダンスの間にこの皇子の足を踏みまくって、「ダンスもまともに踊れないダメな王女。さらにとんでもない悪女」の悪印象を広げるのよ。たったの20回ぐらい足を踏んだとしてもこの人だったらケガなんてしないわよね? 後でお詫びに苦い薬草でも贈れば完璧だわ。


 アルフォンスに手を取られ、ジュスティーヌは広間の中央に向かった。しばらくすると弦楽器の艶やかな音色が最初のワルツを奏でだす。


 さあ、踏むわよ!


 そう気合を入れてジュスティーヌは最初のステップを皇子の足めがけて踏み出した。

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