第198話 ナンパなクズ男たちには正義の鉄槌を下してやるわ!
男たちは男たちで、普段誰も開けない扉が開いたので驚いた。
さらに、その扉を開けたのが、とびっきりの美女だったものだから、余計に戸惑った。少し前に、下っ端が報告してきた美人のお嬢さんとは彼女のことに違いない。
獲物の方が自ら罠に飛び込んできたのだ。
悪漢たちの方も、すぐに事態を飲み込んだ。
そう、下っ端の情報によると、この超美人のお嬢様には連れがいるのだ。いけ好かない騎士風の金持ちイケメンが彼女のお相手らしい。
悪漢らの中では、騎士風の金持ちイケメンは、金があるだけの優男と変換される。この手の男の頭の中というのは、実に都合がよくできているのだ。
その男が連れの美女にいいところを見せたくて、露天でちょっと大盤振る舞いをして、いい気になっているというのだ。
そんなの絞めるしかないだろう。そして、イケメン優男のなけなしの金を奪い、女も奪ってやるのだ。
決行は、二人が町を出るタイミングだと思っていた。
それがどうしたことか、獲物の一部である美女が自ら自分たちの懐に飛び込んできたのだ。男の方は後回しにして、とりあえず美女のほうから、有難くいただこうではないか。
男たちは下卑た笑いを浮かべていた。
「へへへっ、こりゃ、驚いたぜ、想像以上の上玉じゃねえか」
リーダーらしきぶっさいくな男がいやらしい目つきで舐めるようにこちらを見てくる。そして、自他ともに認める美人のジュスティーヌにしてみれば、しごく当然のことを口走る。
「わたくしに何か御用かしら?」
「なあ、お嬢さん、俺らとイイことしねえか? 連れの優男よりずっと楽しませてやるぜ」
あなたのような不細工が、何をどう楽しませてくれるというの? わたしにボコられてもっと不細工になって変顔を見せて笑わせてくれるということかしら?
「もしかして、それはナンパなお誘いですの?」
「あ、ああ、まあ、そうだな。ただ、俺らは結構本気だぜ、お嬢さんよ」
「わかったわ。ただ、ここではあまり楽しめないわ。わたくし、丘の上のホテルに泊まっているの。そこまで来て下さらないかしら?」
イケメンとは程遠い暴漢たちは、少なく見積もっても30人はいる。さすがにここで一人ずつ殴り倒すのは効率が悪い。
「それからわたくし、一人では到底満足できないと思うの。せっかくだから全員にお相手していただきたいわ。皆さんでホテルまでいらして」
意外過ぎる答えが返ってきて、男たちは少々拍子抜けした。
「いやーん、助けてー、やめてー!」と泣き叫ぶ美女を無理やり手米にするのも一興だと思っていたからだ。
見た目にそぐわず、なかなかツワモノな美女のようだ。自らホテルに誘ってくるとは。しかも、一人では満足できないから全員来いとは……。
「へへっ、いいだろう。じゃあ、そこまで行こうぜ」
男たちはあっさりとジュスティーヌの提案を受け入れた。
あの丘の上の高級ホテル。本当であれば、彼らもそこを占拠したいのだ。しかし、さすがは高級ホテルなだけあって、セキュリティがなかなかに厳しい。
ホテルのエントランスにも、ただのドアマンとは思えないような屈強な男たちが、最新鋭の魔道具を片手に、常に陣取っているのだ。
だが、客である美女の招きであれば、彼らも堂々とあのホテル内に足を踏み入れることができる。
美女ついでにホテルの占拠してやろうじゃないか。男たちは息まいていた。
ジュスティーヌの後にごろつきが30人ほど続き、ホテルまで行軍する。
なかなかに異様な光景だったが、目にした住人は見てみぬふりしかできない。あの美女を助けてやりたいが、口を出したところで暴漢たちに敵いっこないからだ。
ジュスティーヌと30人の暴漢たちはホテルの前までやって来た。
エントランスを守る屈強なドアマンは、明らかに戸惑いを見せていた。本日宿泊予定のお客様が、町で問題となっている暴漢たちをゾロゾロと引き連れてやって来たからだ。
「さ、着いたわね。じゃあ、思う存分楽しみましょうね」
ジュスティーヌは振り返り、笑顔で後ろの男たちに告げた。そして、パスカル湖で救ったそうちゃん譲りのジャンプ力を発揮し、2階のテラスまで軽々と飛び上がった。
「はあー!?」
「お、おい!」
暴漢たちは今までしずしずと歩いていた美女がいきなり2階まで飛び上がったので完全に度肝を抜かれる。そして、一瞬だったがいろいろな判断が遅れる。
ジュスティーヌはその隙を見逃さず、コートの中からスティックを取り出すと呪文を詠唱しだす。
「炎と再生を司りしフェニックスよ。我が呼びかけに応じ、その力を顕現させ、悪しき力から衆生を守護せる正義の防壁と為れ! ファイヤーウォール!」
30人の暴漢たちの後ろに、突如として炎の壁が出現する。
暴漢たちはあっさりと退路を断たれてしまった。
エントランスの前には屈強なドアマンが二人いる。
そして、左手前方の2階にはスティックを持ったジュスティーヌがまた呪文の詠唱を始めていた。
「お、おい! お嬢さんよ、一体どういうことだ!」
リーダーらしき男が怒鳴り声を上げた。
「だから、楽しむのよ。あなたたちをけちょんけちょんにして、わたしが。楽しませてくれると言ったのはあなたたちよ。さあ、楽しい拷問の時間よ!」
「ま、待ってくれ、俺らはあんたに何もしてねえだろう!?」
「そうかもしれないわね、でも、そんなこと関係ないの。これはナンパ男に対するただの八つ当たりだから。さあ、誰から痛めつけようかしら」
「ま、待ってくれーー!」
「助けてくれーー!」
男たちは逃げ場のない空間の中で必死に逃げ場を探した。
「天上に召します父なる神ユーピテルよ。我が呼びかけに応え、悪しきものに天の裁きを与えたまえ。ライトニングパラリシス!」
「ひいーーー!」
悪漢の一人が一筋の雷の直撃を受けると、悲鳴を上げ、地面をのたうち回った後そのまま動けなくなる。
そこから先は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
ジュスティーヌは次々と男たちに狙いを定めて、一人ずつ雷を落としていった。
エントランスを守るドアマンたちも唯一の逃げ場であるエントランスへと突っ込んでくる男たちと交戦していた。
当然、この騒ぎは中にいたアルフォンスたちにも聞こえていた。
「い、一体何事だ?」
「外で何が起きているんだ? この炎は? 雷は??」
戸惑う町長と警ら隊長。ホテルのスタッフが事情を説明する。
「それが、町の酒場にたむろしている男どもが襲撃してきたようなのですが、こちらが迎撃する前に何者かが魔法で攻撃しているようでして……」
「一足遅かったか……どうやら、俺の愛しの君が外で暴漢たち相手に大暴れしているようだ」
「えっ?」
町長と警ら隊長は顔を見合わせた。
アルフォンスはゆっくりと立ち上がるとその場を後にして、外に向かった。




