第197話 ナンパ男を求めて町の居酒屋へ、ですわ。
孤児院には20人程の子どもがいると聞いていたが、思いのほか数が少なかった。20人というよりは10人と言ったところで、持参した食べ物が余ってしまいそうだ。とりあえず、日持ちするものは明日以降食べるようにと伝える。
「こんなにたくさんの食べ物を子どもたちにお恵み下さりありがとうございます」
「久々のご馳走で、子どもたちも喜びます」
孤児院の経営者も兼ねている教会の神父と思しき男性と、子どもたちのお世話役を担当しているらしい女性がお礼を述べてくる。
それにしても、この神父と女性、どことなくギラついていて世俗臭がする。孤児院の子どもたちと比較して、着ているものや身に着けているアクセサリーの質があまりにも良いのだ。
二人の大人には違和感を覚えつつも、子どもが喜び、夢中になって食べ物を食べる様をみられただけでも上々である。
市場の店主たちにも孤児院の子どもたちにも喜んでもらえて、ジュスティーヌは大満足だった。しかも、アルフォンスのお金で善行を積んだことが悪女としてはポイントが高い。
どうよ、腹黒皇子、やってやったわ、わたし!
ジュスティーヌは心底満足していますという顔でアルフォンスを見上げた。向こうもこちらの意図を見抜いているのか、胡散臭いほどの笑顔を返してくる。
「ジュティ、俺の金で随分と好き放題してくれたね」
「だって、好きなものを食べていいって言ったのはあなたでしょ? それにいい行いをしたわけだから、ネチネチ文句言わないの」
「それはそうだけど。俺の金を使った分、君の体で返してもらおうかな」
「えっ……」
ルンルン気分でスキップをしていたジュスティーヌはその場で立ち尽くすと、ダラダラと冷や汗を流した。
「はははっ、冗談だよ」
「もう! そういう冗談は言わないでよ!」
ジュスティーヌは怒ってアルフォンスの胸をドンドンと叩いた。
「それじゃあ、冗談じゃなくて本当にしよう。キス3回でどうだろうか?」
「はあっ? アルのエッチ! アルの意地悪! アルのドケチ! もう知らない!」
それだけ文句を言うと、ジュスティーヌは顔を真っ赤にして怒りながら、行先のホテルとは反対方向に走り去った。
「ジュティ、陽が沈む前に戻ってくるんだよ! ホテルはこっちだからね」
「知らないんだからー!」
アルフォンスが追いかけてくるかと思ったが、意外にも声をかけられただけで放置される。
アルフォンスとしても追いかけたいのは山々だったが、そろそろ待ち合わせの時間だった。さすがに相手を待たせるわけにもいかず、声をかけるにとどまったのだった。
なによ、なによ! キスするとかいいながらも、わたしを知らない町で一人にするなんて! ふんっ、超イケメンにナンパとかされちゃっても知らないんだからね!
完全に逆ギレ状態のジュスティーヌ。もうこうなったら、ナンパされてやると思い、辺りを見回す。
が、通りにはそれほど人はおらず、市場の商人たちもすでに店じまいのための片づけをしていた。
この商店の店主たちが、気前よくお金を使ってくれた超絶イケメンと買い物をしていたお嬢様をナンパなんてするはずがない。
うーん、さすがに酒場にでも行けばナンパされるかしら?
ナンパされたら……腹いせにその男をボコボコに殴ってやろう。
ジュスティーヌは、彼女にボコられる哀れな犠牲者を求めて、酒場を訪れることにした。
一方、ホテルのロビーにあるラウンジでは、すでに町長と警ら隊長がアルフォンスを待っていた。
「この度は、ご助力いただきましてありがとうございます」
「で、具体的にどういった状況なのだろうか?」
グリフォンが巣を作っている場所は未確認ながら、登場する場所は、街道の分岐点の手前らしい。そして、目撃者の証言を集めると、ヨーデルベルク側の山の方へ戻っていくらしい。
そして、グリフォンが登場したのと前後して、街には別の問題が発生していた。
街道を利用する冒険者が減ったからか、ガラの悪い連中がこの町にたむろするようになってしまったらしい。彼らは酒場を拠点にしているとのこと。
このならず者たち、今のマールツァイトの町には自分たちを排除できるほどの力がないことを知りつつ、随分とやりたい放題やっているようだ。
町長と警ら隊長としては、できることならば彼らも追い払ってもらいたいのだ。が、まずはグリフォンさえいなくなれば、また冒険者がやってくるようになる。そうすればあの悪漢たちも自然といなくなると踏んでいるようだった。
「お連れ様が酒場の方に立ち寄らないとよいのですが……」
「先にお迎えに行かれた方がよろしいのでは? 我々はここでお待ちしておりますので」
「確かに、少し心配だな……(酒場でたむろしている悪漢たちが……)」
ジュスティーヌはかなりご機嫌斜めだった。こういう時、彼女は悪い男に思いっきり八つ当たりをする癖があることを、アルフォンスは見抜いていた。
そして、アルフォンスの予想は的中していた。ジュスティーヌは獲物の匂いを嗅ぎつけて、すでに酒場の前に来ていた。中は随分と賑やかだ。店の中で男女が上げている乱痴気騒ぎの声が外まで聞こえてくる。
まだ夕方だというのに、この酒場にいる男たちは酒を飲んですでに出来上がっているのかと思うと、腹立たしさが増幅される。
こうなったら、ナンパ男と言わず、昼間から酒場で飲んだくれている男はすべからくお仕置きしてやろうと決意し、扉を引いた。
すると、ジュスティーヌの目には、数十人の男と数名の女性がとても健全とは言い難い姿で肌を寄せ合っている光景が飛び込んでくる。
数秒間、お互い固まったまま静かに時が過ぎた。そして、ジュスティーヌは開いた扉を黙って閉じ、店に背を向けた。
いやいやいや、なによなによなによ! 良い子はぜっっったい見てはいけないものを見た気がするのだけど……! 落ち着け、落ち着くのよ、ジュスティーヌ!
悪女たるもの、男女の淫らな乱痴気騒ぎを目撃してしまった程度で動揺してはならないのだ。
そうよ。よくよく考えてみたら、女性たちは娼婦ではなくて、男どもにかどわかされた被害者かもしれないわ。
だとしたら、助けなければならない。
悪女だけど、正義の味方だから。
もう一度、店に入って女性たちに確認するのだ。
「あなたたちは被害者ですか? それとも自ら率先して楽しんでいる売女ですか?」と。
ジュスティーヌは再び店の扉を開けるべく、そちらに体を向けた。
すると、自動でドアが開く。
当然、本当に自動でドアが開いたわけではなく、中の男が開けたのだ。そして、先ほどの男たちがゾロゾロと外に出てきた。




