第196話 腹黒皇子との新婚旅行、じゃなくて冒険旅行に出発ですわ。
年内の授業もすべて終わり、明日からはいよいよ冬休みとなった。学園の生徒たちも慌ただしく寮を後にして、土産を片手に次々と国に帰って行った。
事情を説明して、セドリックと侍女のメリーには先にポータルで戻ってもらう。
「姫様、では私は城でお待ちしておりますね。お気をつけてハネムーンをお楽しみくださいませ」
「ハネムーンではないのだけど……」
本日のジュスティーヌの装いは、冒険者風ではなくお嬢様風だった。
クラシカルなデザインのAラインロングコートを羽織り、アルフォンスとおそろいのマフラーを首に巻いていた。この辺りは雪こそ滅多に降らないが、12月の山越えとなると、かなり寒さが厳しい。
お嬢様風にしたのには、ジュスティーヌなりの訳があった。
というのも、これから会いに行くのはグリフォン――いわば神獣である。討伐すべき魔物ではない。
そして、グリフォンの特性を考えたとき、高貴なお嬢様風のほうがいいだろうという結論に至ったのだ。
グリフォンは神の守護者とも言われている。彼らは神聖な場所や貴重な宝を守っていることも周知の事実である。
だから、お金持ち風であれば、グリフォンの宝を狙っているならず者ではないとアピールできると考えたのだ。
よく考えた作戦と高評価すべきか、そんな単純な……と冷評すべきか微妙なラインではあるが。
「ジュティ、今日は随分とかわいい恰好をしているね。いや、君はいつだってかわいいのだが。もしかして、俺のためにそんなおしゃれをしてくれたの?」
「まさか! これは、グリフォン対策なんだから」
「なるほどね……」
そういうアルフォンスも今日はいつもよりもしっかりと着こんでいて、ファー付きのマントを羽織っていた。
正直なところ、超絶カッコいいのでじっとみていたいが、そう思っているのがバレるのは悔しいのでチラ見程度で我慢することにした。
「それじゃあ、行こうか。なるべく早く、今日の目的地に着きたいからね」
二人はいつものようにアルフォンスの馬に跨り、街道を東へと進んだ。
思っていた以上に12月の風が冷たく頬に吹き付ける。それだけに背中に感じるアルフォンスの体温が妙に温かかった。
パックスウルブスから東に進み、山沿いを北に行くとヨーデルベルクに、南に行くとグランソード王国に、そしてそのまま東に進み、峻厳な山々を越えるとターヘル共和国たどり着く。
ということで、この山脈地帯は三国とパックスウルブスをつなぐ大動脈なのだ。そこの通行が妨げられてしまっている現状は、三国にとっては相当な痛手と言えた。
それにしても、今までただの街道にすぎなかっただけ場所に、急にグリフォンが巣を作ったのはなぜだろうか。
「ジュティ、寒くはない?」
「うん、大丈夫」
「こんな季節に馬で移動させてゴメンよ。もう少し暖かい時期だったらよかったんだが」
「仕方がないわ。冒険者は季節なんて気にしてられないもの」
「そう言ってもらえてよかったよ」
街道を行くだけであれば、移動は馬車でもよかった。ただ、途中で街道を反れて山道に入り、グリフォンの巣を探さないといけない。となると、馬車だと不便なのだ。だから、二人は馬で行くことを選んだのだ。
普段であればもう少し馬車が通ってそうな場所だが、グリフォンを恐れてこの道の利用を避けているのか、冬景色の街道は随分と静かで淋し気だった。
二人は途中の町で昼食を済ませると、すぐに騎乗し、今日の目的地である麓にあるマールツァイトの町を目指した。
ここは、街道の分岐点手前にある最後の町だったので、普段は行商人や冒険者などの旅人が多く訪れる比較的賑やかな町なのだ。だが、この日に限っては閑散としていた。といっても、今日だけでなくここ最近はずっとこのような調子のようだった。
二人は町の奥、少し高台になっている場所に立つ豪商御用達の高級ホテルに行くと、馬を預けた。夕方に町の町長と警ら隊長と約束があるようだが、それまで少し時間があったので、町を歩いてみる。
人通りが少ない町中を歩く二人の姿は、今日ばかりは完全に浮いていた。
見るからにお嬢様然としたジュスティーヌと立派な騎士風の装いのアルフォンス、しかも美男美女ときたら目につかないわけがない。
「そこのお嬢さんと旦那! どうだい、うちのアップルパイ買って行かないかい? うちのアップルパイはシナモンが効いていてスパイシーで熱々だよ! 冷えた体も温まるよ」
広場の一番手前にあった店の店主が声をかけてきた。すかさず隣のドリンク店の店主の声を張り上げる。
「ちょっとそこのお二人さん! うちのココアもどうかね? ホットでとろける甘さだよ」
「甘いものばかりでもなんだろう! うちの香ばしい焼き鳥は町で人気の一品だよ!」
「揚げたてのフライドポテトはいかがかな? シェアすれば二人の仲もさらに深まりますよ!」
「クレープはいかがですか、お嬢さん。やっぱり女性はスイーツでしょう!」
「うちのフルーツのチョコがけを買って行っておくれよ。食べて損はないよ!」
通り沿いにある市場の店主たちに次々と声をかけられ、あれこれ勧められる。
自分の店の品を必死に勧めてくる様は、まるで彼らの嘆き声のようだった。というのもここ最近は、買い物客も物資も両方不足しがちで、商売あがったりなのだ。彼らの目には、ジュスティーヌたちは久々の上客に映ったのだろう。
ジュスティーヌは隣にいるアルフォンスの顔を見上げた。
「どれが食べたい?」
「全部」
「そうきたかー、さすがはジュティだ」
アルフォンスは少し苦笑いをする。
「でも、一人じゃ食べきれないわ」
「そうだなぁ、じゃあ、いろいろ買って、近くの孤児院に持っていくのはどうだろうか?」
「それは名案ね。ねえ、おじさん、この町の孤児院にはどれくらいの子どもがいるのかしら?」
ジュスティーヌはちょうど目の前にいたフライドポテト屋の店主に声をかけた。
「ここはそれほど大きな町ではないので、20人前後ですかねぇ」
「そう、じゃあ、この辺りのお店で売っている子どもが喜びそうな食べ物を全部買うわ。お金はこの人が払うから。あと誰か孤児院まで一緒に行ってくれないかしら。二人じゃ持ちきれないわ」
「おおおおっ!」
「なんともありがたい!」
「感謝します、お嬢様、旦那様!」
こうしてジュスティーヌたちはたくさん食べ物を買って、孤児院を目指したのだった。




