第195話 恋バナの行方はどこにいくんですの?
やっぱり女子会は楽しいわ。男がいない世界最高!
と、恋バナで男の話をしながらも、真逆のことを思っているジュスティーヌ。
「けけけっ、で、最後はわれらが愛しの姫君の番ですよぉ」
「聞かなくてもわかっていますが、聞かせてください!!」
「最近、殿下とはどうなんです!?」
「次のデートの予定は?」
「というか、年末年始はやっぱりお互いの実家に挨拶に行っちゃったりするんですかー!?」
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。ジュスティーヌはアルフォンスとの仲を問われて、完全に挙動不審になる。
「え、えええ、べ、別に、婚約するための挨拶に来るわけじゃないし。ただ、同級生のうちの兄に会いたいみたいだけだし」
何かを誤魔化すように、お茶をごくごく飲みながら返答する。
「おおっ! ということは、お二人で姫様の国に帰られるのですねー!」
「同級生の兄に会うというのは、殿下も素晴らしい口実を考えましたね!」
「さすがは姫様が愛する”腹黒皇子”ですね!」
「キャーーー、楽しみですわ! 土産話、お待ちしておりますね、姫様」
「だーかーらー、そういうんじゃないってばっっ!」
「はいはい、わかっていますよ、姫様」
なんだかPJLのみんなにも弄ばれている気がしてくるジュスティーヌだった。
好き放題おしゃべりして、食べて、満足した女子たちは、日も傾きだしたのでそろそろ帰る時間だ。
お会計のために店員を呼ぶと、「お代は結構です。殿下からもそのように伺っておりますので」とのこと。
このまま相手の好意に付け込んで無銭飲食するのと、意地でもお金を払うのとどっちが悪女っぽいだろうかなどと真剣に考える。
ああ、非常に悩ましい問題だわ。
ジュスティーヌは目を閉じると、天を仰いだ。
そして、数秒間、葛藤した末、無銭飲食することを決意する。
仮に、ジュスティーヌがお金を払うとなると、きっとファンクラブのメンバーたちは自分たちもお金を払うと言い出すだろう。ちまちまお金を集めてお会計をするなど、ちょっと小物感がぬぐえない気がしたのだ。
贈収賄をおおっぴらにしてこそ、大物悪女といえるのではないかという結論に至ったのだ。
「わかったわ。では、今日の飲食代は遠慮なく踏み倒させていただくわね」
「はい、承知しました!」
そう返答する店員さんはなぜか嬉しそうだった。
この人、飲食代を踏み倒すと言われて喜ぶとは、さすが変態皇子の店の店員ね……。
そして、PJLのメンバーたちも目を輝かせているような気がした。
ジュスティーヌは気が付いていない。彼女が行おうとするちっちゃな悪事を、あえてする大げさな表現でもって極悪非道な行いのように見せようとすることを周りは結構面白がっていることに。
階段を下りて、店のエントランスに向かおうとすると、なんと厨房からアルフォンスが姿を現した。こんな所から出てくるなんて、アルフォンスの大好きな裏口から入ってきたに違いない。
「やあ、ジュティ。今日は楽しめたかい?」
「当然よ。女子会はとーっても楽しかったわ。あっ、そうだわ、今日の飲食代、一銭も払っていませんから、どうもご馳走様でしたわ」
「この店は君のために作ったんだ。それくらい全然構わないよ。ところでジュティ、今、少し時間いいかな? 冬休みの話を少ししたいんだけど」
「姫様、私たち先に帰っていますので、どうぞごゆっくり」
PJLのメンバーたちはジュスティーヌが何か言う前に気を利かせて帰って行った。
待ってよぅ、みんなああ、腹黒皇子と二人きりにしないでぇ!
「は、話って何かしら?」
「立ち話もなんだから、上で座って話そう」
「人に聞かれて困る話でないならば、そこに座って話しがしたいわ」
二人きりになったら何をされるかわからない。特についさっき飲食代を踏み倒したばかりだ。お礼にキスを要求されるかもしれない。
「構わないよ。じゃあそこで」
ちょうど会計を済ませて出ていった客が座っていたテーブルが一つ空いていた。店員たちはそこを急いで片づける。アルフォンスとジュスティーヌはそこに腰を下ろした。
周りの客にしてみるととんでもないサプライズである。パックスウルブス一の有名人カップルが近くに座ったのだから。これは追加注文をしてでも、今のこの座席を死守するしかない。
「それで、お話って何?」
「うん、ジュティはグランソード王国へは転送ポータルを使って戻るつもり?」
「そのつもりだけど?」
転送ポータル、転移魔法によって特定の場所と行き来が可能な設備である。パックスウルブスにある各国の公邸には、たいていこのポータルが備え付けられている。これがあることで、要人が迅速に本国とこの街とを短時間で行き来することができるのだ。
「休みは長いんだし、せっかくだから、冒険しがてら戻らないか?」
「冒険! 行きたい! あっ」
しまったわ……思わず、本音が出てしまったわ。このままだと二人で旅行をするはめになるじゃないの! くぅー! わたしの弱点を熟知しているわね、さすがは腹黒皇子だわ。
「あ、でも、冒険には行きたいけど、早く帰らないとお兄様たちになんて言われるかわからないし……」
「今回の依頼なんだけど、ここからグランソード王国に向かう時に通る山脈があるだろ? その街道沿いにグリフォンが巣を作ってしまったみたいでね」
「えっ、グリフォン!?」
伝説級の生き物の名に、ジュスティーヌは目を輝かせた。
「そうなんだよ。お陰で、人出が欲しいはずのヨーデルブルクやターヘル共和国に移動しにくくなっているようなんだ。そのグリフォンを追い払って街道の安全を確保することがギルドからの依頼でね。でも、ジュティが難しいというのであれば、やむを得ないな。ほかのヤツに頼むしかないかな……」
くっー! 腹黒皇子めーー! なんというエサをぶら下げてくるの!! グリフォンなんて、会いたいに決まってるじゃないの!
「ごほんっ、そういうことであれば、仕方がないわね。祖国と世界の平和のために力を尽くすことは、王族の務めだわ。いいわ、このわたしが直々に赴いてグリフォンを追い払ってみせるわ」
「そうか! それはよかったよ。ジュティは動物たちと親しくなるのが得意だろ? 君ならば、上手くいけば、グリフォンを使役することもできるんじゃないかと思って」
「グリフォンを使役!?」
ちょっとちょっとちょっとおお! そんなことしちゃったら、もうわたしってばウルトラ級のモンスターテイマーを名乗れちゃうじゃない!
「任せて! あー、今から楽しみだわー! 名前は何にしようかしら♪」
ドンと胸を叩く。すでにグリフォンを仲間にしたつもりのジュスティーヌだった。




