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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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33/60

33.あんなのは姉ではない、はず

 ただ、あの姉さんが必要ならやりたがるだろうことは想像に難くない。

 一応貴婦人だから、暴力的だったり、はしたない真似はしないって節度はあるはず。けど、誰か下男に指示してやらせるくらいは考えるかも。


 そうやって人を急かせば、仕事は進むがミスも多くなり、人が死ぬ事故にも繋がるだろう。


 けど、たぶん実際にはやってない。


「それにしては、労働者たちは楽しそうだ」

「ええ。無理やり働かされてるわけではなさそうね」

「じゃあ、自発的に頑張るように褒美を出させてるとか?」

「あの姉さんがやるかしら」

「見た感じ、やらなさそうだよな。見下してるし」

「労働者への給金自体は、そんなに悪くはなさそうだけどね」


 活気の良さはそれが理由かも。


「金はどこから出てるんだろうな。王都か公爵領か」

「王都の人間を雇ったんだから、公爵はお金を出したがらないでしょ。財がよその領に流れるんだから」

「王都が出すなら、それなりに金払いはよさそうだよな。で、ネドルとルイの姉ちゃんは他人が雇ってる労働者をこき使う」

「合同事業っていうのは、そんなものよ。領民に経済を回してもらいつつ村を街に発展させる王都と、自分でお金は出さずに金鉱山の分け前を得られる公爵領。お互いに利のある関係なの」


 テントから離れながら、あれこれ話し合う。答えは出ない。


 これ以上テントに聞き耳を立てても、聞こえるのは姉の醜い声だけ。聴いてて気持ちのいいものでもないし、退散させてもらおう。


 労働者の死が相次いでいることを、開発の首脳陣は気にしている様子だ。ここで言う首脳陣とは、ネドルの夫婦以外だ。

 公爵領から他に人員が来てるだろうし、王都からも派遣されてるはず。労働者のまとめ役というか、現場の偉い人もいるはず。


 なぜそうなっているのか、対策を話し合う会議が開かれているんだろう。


 労働者の命について何の感慨もない上に、話し合いでなにか発言をすることを求められてるわけじゃない、お飾りのお姉様はそれが気に食わないわけだ。


「お飾りなりに、役に立つことすれば早く仕事を終わらせられるだろうに」

「そういうこと、したがらない姉なのよ」


 レオンの真っ当な指摘に、私はありえないと断言した。

 あの女が庶民たちに、嫌味っぽい文句を言う以上の施しをするとは思えなかった。それは間違いない。




 ところが翌朝、私は間違っていたと思い知らされた。


「皆さん。今日もお仕事頑張ってくださいね!」


 あの姉が、わがままで庶民を気遣うことなどしようとしなかったルチアーナが、山へ向かう労働者たちにパンを配っていた。


 朝、労働者たちが仕事に向かう様子を見ておこうと早起きしたところ、こんな光景を目にすることになったわけだ。


 テント村や村の建物からぞろぞろと出てくる労働者たちは、朝食を摂った様子はない。

 なぜなら、山の入り口で配られるからだ。半日働けるように、大きなパンをひとりひとつずつ。それを、姉は笑顔で手渡していた。


「案外、心遣いのできる人だったんだな。少なくとも本人の前で、労働者を見下したりはしない」

「いやいやいや! ありえないから! 姉さんよ!? ルチアーナよ!? あ、あんなこと、するはずが!」

「ルイが学校に行って会えてない間に丸くなったとか」

「ない! 前の休みに帰省した時だってあの性格だったんだから! 半年の間に変わるわけないでしょ! あのパーティーの時も少ししか会ってないけど、いつも通りだったし! あいつは性悪女よ!」

「でも、ああやって愛想を振りまいてる」

「ありえない! なにか裏があるはず! なにか! 絶対に何かが!」

「ルイが壊れた」

「人間、見たくない現実を見るとおかしくなるんだよ。俺たちは気を強く持とうな」

「うん」

「失礼ね! 私はおかしくなったりしてないわよ!」


 おかしくなったのは姉さんの方だ。断じてそうだ。


「あれが、開発を短く済ませるための策略なのよきっと!」

「美人に声をかけられると、仕事のやる気が出るとか?」

「違うから! いやそうかもしれないけど! 確かに姉さんは美人だけど! 私に似て!」

「ユーファ。美人なのを譲らないあたり、ルイはまともだな」

「うん。まだ頑張れる」

「こら! ふたりとも馬鹿にしない!」

「馬鹿になってるのはルイだろ」

「そうかもしれないけど!」


 実際、姉さんがあれをやることで、労働者の士気が上がってるのは間違いないかもしれない。


 起きがけで眠そうな顔をして足取りも重い彼らだけど、パンを受け取って齧っているうちに足取りが軽くなっているようだった。


「朝食は大事だな。元気が無くても、無理にでも食べるべきだ。食べないと一日の気力が湧いてこない」

「それはわかるけど、あんな劇的に変わるもの?」

「どうだろうな。劇的って言うほどでもないし」

「でも、食べた途端に足取りが変わってるわよ」

「ねえ」


 ユーファが小声で、私とレオンの手を握って話しかけた。

 いつも無口だけど、今回は特に口に出したくないという様子。周りに聞かれたくないことか。


「どうしたの、ユーファちゃん?」

「ここの狩人と早く話したい」


 話して尋ねるのは、ここの山の特徴について。けど、ユーファにとっては特に知りたい情報があるらしい。


「わかった。行こう」


 なにか心当たりがあるのだろうな。自分で確かめるまでは、間違ってるかもしれないから口にはしないけど、なにかある。

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