34.そのふたり、そういう関係じゃないからね
労働者たちが山に行って、静かになった村を歩く。村人たちも自分の仕事があるのだけど、家を持ってる者は宿として貸すことでお金を得ているのだろう。
農家なんかのお休みできない仕事は、今日も働く者が当然いたけど、商店なんかはお休みしてのんびり過ごす者もいた。どうせ夜に忙しくなるのだから、今が休む時間帯のようだ。
その他、引退したと思しき老人なんかも、軒先に椅子を出して静かな一時を過ごしていた。
そういう暇な老人に話を聞くのが一番だ。
「こんにちは。狩人さんですか? わたしも」
狩人なのは見てわかるものなのだろう。ユーファが自分から、あるおじいさんに話しかけた。
「おや? かわいい狩人さんだね?」
おじいさんは少し驚いた様子ながら、ユーファの背負っている弓を見て同業者と悟ったのだろう。すぐに相貌を崩した。
「隣のラングドルフ伯爵領から来ました。北西の。そこの村の狩人です」
「おや。向こうから。どうしてわざわざ、こっちに?」
「神父様見習いの彼についてきて」
「ほうほう」
普段は無口だけど、別に話せないわけじゃない。やろうと思えばいける。落ち着いて、あらかじめ考えていたことを説明すればいいだけ。
両親の仇を討つために、自分も森に入りたいと言おうとして大人たちに止められた彼女は、間違いなく成長している。
レオンは神父見習いではないけど、聖職者なのは事実。レオンも堂々と、そして聖職者っぽい態度を見せているから疑われるわけではない。
この村の神父様とも繋がりがあるから、疑われても潔白は示せるし。おじいさんは信じたから、その手間は省けたけど。
それからユーファは私の方を目で示して。
「この人は、彼のお姉さん」
ついでみたいに説明するな。いいんだけど。それが自然かもしれないけど。
「山で人が死んでるって聞いたから、お祈りしたいって。それで、私に一緒に来てって」
「なるほど。仲がいいんだね」
「うん」
おいこら。
たぶんおじいさんは、レオンとユーファの仲の良さを誤解しているぞ。あっさり肯定するな。
彼は、レオンはユーファの村の教会にいると思っている。幼馴染とかの関係だ。
そして隣の領で痛ましい事件が起こっていると知って、敬遠な信仰心に突き動かされてここまで行くことに。
子供だけで移動するのは危ないから姉に頼りつつ、山の案内は幼馴染であるユーファに真っ先に頼んだ。そしてユーファも、躊躇うことなく頷いた。
ふたりはそういう関係なのだ。
と、おじいさんは即座に理解、そして誤解して笑みを見せた。
違うからね。ふたりはそういう関係じゃないから。けどちびっ子たちは、誤解された方が都合がいいからと否定しないどころか、お互いに一歩寄り添い合うように距離を縮めた。
いいんだけど。私にとっても有利な誤解だけど。でも、なんか、ムカつくというか。モヤモヤするというか!
「セレムの木は、ここにも生えてる?」
私の内心などお構いなしなユーファは、おじいさんに静かに尋ねた。
セレムの木? なんだそれは。山のことを尋ねるにしても、もっと全体的な、大まかな特徴とかを尋ねるものだ。特定の種類の木のことではなく。
けど、これがユーファが話を聞くのを急いだ理由だ。
「おやおや。お嬢さん、怪我人でも出たのかい?」
「怪我人なら、大勢出てる。死人も」
「確かにねえ」
「お、俺は死者を鎮めるために来たんですけど、ユーファは怪我人のことも考えて欲しいって言ってて。俺、聖職者だから医術の心得も少しは……ある……?」
ユーファから視線で話を合わせろと言われて、レオンは戸惑いながら言った。
でたらめを言ってるわけじゃない。こういう村では教会が診療所の代わりをするのは普通のことだし、レオンは人体について詳しい。
死体を扱ったり、人が死なないように痛めつける技術があるって意味だけど、医学の知識とも言える。
セレムの木が怪我人にどう役立つのか。どの部分をどう使えばいいのかなんて知らないようだから、曖昧に自己紹介するくらいしかできなかったようだけど。
おじいさんはそれで納得したようだ。
「この山でも、上の方に生えている。けど、あまり上に行くと猪が出るからね。住民でも滅多に奥までは行かない」
「それは、鉱山の穴が掘られてる箇所より、上?」
「上だなあ。それくらいまで行かないと、採れない」
「うん。登山と下山の目印は?」
「ある。上に登るルートがあってね」
セレムの木が何なのか説明がないままに、ユーファとおじいさんは話し込んでいる。
ユーファの村で森に入った時と同じ。林立する木の中を闇雲に歩けば迷子になる。だから決まったルートがあるし、自然と道になっていく。
公爵家が労働者たちを動員して作っている道も、途中までは狩人たちが山や森に入るルートと一致している。その道の左右の木を切り倒して太くしていってるわけで、道は様変わりしてしまった。
もちろんルートは他にもあって。そこを教えてもらうことに成功した。
ついでに、竜の噂についても尋ねてみた。
噂だけど、もしかすると死者が増えていることに関係するかもしれないから、一応調べたい。山に入るのもそのため。そう言ったところ、おじいさんは首をかしげた。
「竜の噂が流れているのは知っているとも。けど、この山には元々そんな伝承はなかったよ」
「そうですか……」
ちょっとだけ期待していたらしいレオンは、がっかりしたようだ。




