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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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30.賑やかな村と静かな教会

 時間帯としては、そろそろ暗くなる頃合い。仕事を終えた労働者たちが、食事をしてそれぞれあてがわれた宿に戻ったり、束の間の憩いの時間を過ごしていた。

 これが昼間だと、みんな仕事で山に入るから静かになるのだろう。


 けど今は、元が村だから建物が小さく疎らであることを考えれば、活気がある様子だった。

 目ざとい商人が酒を入荷して売りつけているのだろう。外で焚き火を囲みながら酒盛りしている集団をいくつも見つけた。


「みんなのやる気があるのは本当みたいね」

「そうだな。だから、仕事は進んでいる……なんか調子が明るいんだよな」

「ええ。元気すぎるくらいよ」


 明日も仕事なのに、妙にテンションが高い。ハメを外しすぎではと思える男もいる。

 疲れが明日に残れば、体力も低下して注意力が散漫になり、ミスも増える。そして死に繋がる。


「どういうことなのかしら」

「さあな。とりあえず教会に行こう」

「ええ」


 レオンは教会の位置をわかっているらしい。私とユーファは彼の後ろについていく。


 小さい村ゆえに、教会も簡素なもの。小さな礼拝堂に、神父がひとりいるだけ。

 エドガーからの手紙は届いているらしく、神父は快く出迎えてくれた。


 ただし。


「この通りの状況なので、礼拝堂で寝泊まりしていただくことになります。申し訳ありません」

「いえ。それは構わない……です……」


 専用の部屋を用意しろとなどと言えるはずがない。礼拝堂に泊めてもらえるなら十分。

 けど、問題があるのは。


「遺体と一緒か」


 礼拝堂の奥に設置された台の方へ、レオンが歩み寄っていく。

 遺体が三つ、並べて置いてあった。いずれも優れた肉体を持つ、労働者のもの。


「みゃわー!?」


 霊も私の存在に気づいたのか、取り憑いて転ばせにきた。わかった。わかったから。そんなことしなくても、冥界まで行かせてあげるから。


「大丈夫ですか? 本当は、この礼拝堂にも鉱夫の皆さんを泊めることになっていたのですが……」

「大丈夫です。遺体と一緒に寝るのは気まずいって、みんな思いますよね」


 転んだ私を気遣いながら説明してくれる神父。


 死んだ余所者の遺体を置く場所は、この村には教会しかない。

 私たちは今日から、その遺体と一緒に寝ることになるのだけど。


「お祈りしたけど、冥界に行ってくれない」


 神父が教会の自身の部屋に行った後、レオンが伝えた。予想通りのことって感じの言い方だ。


 そりゃそうだ。遺体がここに運ばれた際も、さっきの神父は祈っただろう。そして遺体には花が添えられていた。霊が見えないとしても、そうするのが聖職者だ。

 その時点で未練があるなら、今レオンが祈ったところで冥界に行くわけがない。


「単なる事故じゃないってことかな」

「そうなのかもね。事故が起こりやすくなる、何かがあった」

「なにかって?」

「わからないけど」


 レオンも私も推測することしかできない。ユーファは会話を黙って聞いているだけ。


「実際に観察するしかないか。外が賑やかなうちに、ちょっと様子を見てみるか」

「ええ。そうね。姉さんたちの様子も見ておきたいし」

「こっちの姿は見せないようにな」

「ええ。こっそりね」


 というわけで、再び外に。そういえば夕食もとってなかったし。


 屋台が出ているから食べるものには困らない。労働者たちも同じで、その日の仕事で得た金で、美味しいものを食べているようだ。労働環境としては、そんなに悪くないのかも。


 山の入口まで近づいてみた。山に自生している木を切り開いていき、金が掘れる坑道までの行き来を楽にする作業が行われている場所だ。


 まずは坑道まで細い道を作り、その左右の木も倒して根も掘り返すことで道を広くしていく。

 坑道を掘り進める作業も並行して行われているようだ。坑道自体、何本も掘って複数の作業員が同時に採掘ができるようにする予定らしい。


 坑道の入り口にも作業員の休憩所や資材置き場なんかを建てなきゃけない。

 そのスペースを作るためにも、さらに木を切る必要がある。山の斜面に沿った斜めの建物を建てるわけにはいかないから、広い範囲を切り開いた上で整地しないといけない。


 坑道も、単に穴を掘っていけばいいわけではない。横穴が崩落しないように補強用の資材を入れたり、暗闇を照らす照明を用意したり。

 そういう物を作るためのスペースも作っていかないと。


 人手はいくらあっても足りないか。


 その入り口は、夜間は閉鎖されていて入ることはできない。


 不埒者が夜中にこっそり坑道に入って金を盗掘されるとか、もっと悪いと下手な行動をされて、せっかく作った坑道を崩落させられるとかを防ぐため。

 見張りもいた。たぶん公爵領で用意された人間。腕に覚えのある彼らは、普段は軍務に就いているのだろう。

 戦争とは無縁な時代だけど、不測の事態に備えるための仕事は今もあり、領内の治安維持やこういう形で役に立っている。


 彼らは知り合いではないけど、私の顔を知っている可能性もある。地元の狩人を装ったとしても、そこで揉め事を起こす意味も低い。

 隠れて観察するだけに留めた。


 入り口の向こう側にもスペースがあって、切り倒された木や掘られた土が山のようにあった。あれも資源ではある。木材の使い道は多い。

 土もレンガなんかの材料になるし。どこかに売りつけるのだろう。

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