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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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29.死体を運んでいた馬車

 とにかく、これで準備は整った。


 翌朝には、レオンが見つけてくれた馬車に乗って、三人で北部へ向かう。


「お気をつけて! レオンさんユーファさん、ルイーザ様をお願いしますね!」

「おふたりに神の御加護があらんことを」


 リリアとエドガーが見送ってくれた。ふたりとも、お留守番は得意なんだよな。


 ちなみに私たちが乗る馬車は、簡易的な荷台を持った粗末なもの。

 私たち以外に荷物はない。北部からやってきた時には荷物があったのが、帰りは空というわけだ。これはつまり。


「昨日亡くなった労働者の遺体を運んでたんだな」

「……ええ」


 さらにその前日にも同じことをしていた運搬業者に、レオンが声をかけてお願いしていたというわけ。


 聖職者見習いという肩書とエドガーの名前を出せば、あっさり乗せてくれることになった。教会の力はすごいな。

 王都の広い範囲から労働者は集められているけど、人口密度が高い分、中心部からの人間が多い。そして中心部に住む彼らの家族へと遺体が届けられる回数も多くなる。

 ここのところ毎日遺体が来ているから、明日も来ると予想したわけだ。


 統計学というやつだ。人の死を数字と確率論で語る、冷たい学問。考え方それ自体に罪はないし、そのおかげで私たちは楽に北部へと向かえるのだけど。



「おじさん。鉱山で死人が相次いでる理由、なにか知ってる?」


 レオンが荷台から身を乗り出し、御者に尋ねた。


「さあなあ。竜の呪いだって噂はあるけどなあ」

「竜……」


 またそれか。誰かが見つけた正体不明の竜が、多くの人間を惑わせている。目撃情報も、きっと見間違い。噂なんてただの幻。けど、人を恐れさせる。


「なんというか、不注意になってるらしいんだよ。木こりも鉱夫も」

「不注意?」


 毎日遺体を運ぶなんて嬉しくない仕事をしている御者も、今回の件について気になっているのだろう。

 彼なりの見解を口にした。


「仕事をやる気はあるらしいんだよ。だから開拓はどんどん進んでる。木材が山の麓に山のように積み上げられていて、穴掘りも進んでいるそうだ。金が既に採られ始めてるという噂もある」

「それは……早いね」

「だろう? 労働者が金を持ち逃げしないように、監督が大変だそうだ」

「そっか。その苦労もあるんだね。けど、死者も出ている」


 子供っぽい話し方に努めているレオンが、話題を死人に強引に戻した。


 これはこれで、年上相手にタメ口をきくクソガキだ。それでも普段の話し方と違いすぎて違和感がすごいし、なんならレオン自身も気に入ってはない様子。


「そうなんだよなあ。はりきりすぎて、注意が疎かになった奴が多いって話だ」

「なんでやる気が出る人が多いの?」

「さあなあ。俺にもわからん。早く仕事を終わらせて、家族の元に帰りたい、とかかなあ」

「そっか……」


 レオンは、遺体を運ぶための荷台の底をそっと撫でる。

 家族から離れた場所で亡くなって、遺体として家に帰らされた者たちがいた。


 早く帰りたいがための結果がこれなら、皮肉にしても悪趣味だ。




 中心部から遠ざかり、北部に向かうにつれて建物は少なくなっていく。王都の北には山か他の領しかないから、人が住む理由はあまりない。

 広大な農作地や、それを所有する農家が集まる村がある程度。人の代わりに家畜の数が増えていく。


 これが、金鉱山が本格的に稼働を始めれば人が増えていくことだろう。


 多くの鉱夫と、そこで採れる金、そして輸送する業者を目当てに飲食店や宿屋が作られ、彼らが日常で利用する商店も立ち並び、住民がそこで恋をして子供を産んで土地に定着することで街ができる。

 どれほど栄える街になるかな。この鉱山のために流れた血の量ほどの価値がある街になるのだろうか。



 街の原型は既にあった。


 元々この山と森を生活の糧としていた地元の狩人や、山の麓で農耕を営んでいた人たちが集まっている村は、やってきた大量の客人に浮足立っていた。ここを拠点にしているらしい。


 王都側が集めた人材だし、この村にも事前に話はいっていたはず。

 王都の官僚の手助けによって受け入れ準備はなされているらしく、使われていない土地に大量のテントが建てられていたし、宿屋は当然満員。


 村人が住んでいる民家にも労働者を泊める措置が取られている。


 そうやって寝る場所は確保できたものの、食料や生活品なんかは村では賄えない。

 王都がそれもある程度用意している一方で、商機と見た者たちが物品を運び込んで屋台を建てたり、簡易的な商店を作ったりしていた。


 これが定着して、やがて街になるわけだ。


「にぎやかだな」

「ええ」


 街に降り立った私たちは、そんなにぎやかになった街の中で目立っているわけではない。

 村人だと思われているのだろうな。公爵令嬢がいると気づかれるより、ずっといい。


 姉さんとネドルの姿もなかったし。


 とりあえず、眼帯を装着して髪型を変えた。大丈夫かな? 眼帯サイドテールの美人って、村人の中で浮かないかしら。


「気にするな。堂々と行動しろ。挙動不審になったら、逆に怪しまれやすい」

「はーい」


 堂々とね。うん、わかってる。私はいける。

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