31.テント村の、ひときわ大きなテント
積まれすぎていて、置き場に困っている様子だ。想定より早く仕事が進んでいるせいだろう。あるいは、売り先が見つかってないか。
さすがに、輸送業者が遺体を運ぶことに使われるのを優先しているからではあるまい。
「見張りは、木材を盗まれないためにもいるんだろうな。簡単に盗まれるものではないけど」
「そうね。大きすぎる。ひとりで盗むのは無理があるし、大勢で盗みに入れば目立ちすぎるわ」
木を一本切り倒したものは、邪魔な枝を切り落とした上で横向きにして積み上げられている。
枝は乾燥させた上、労働者たちが囲む焚き火の薪になっているのだろう。
積み上げた木は、勝手に転がり落ちないように縄で縛ってまとめられている。つまり重量も大きさも相当なもの。
一山まとめて盗むと仕事が大掛かりになりすぎるし、縄を解いて一本ずつ盗もうとすれば、解いた瞬間に轟音と共に山が崩れる危険がある。
「悪いことはするものじゃないわね」
「そうだな。明日、俺たちはこの中に忍び込むわけだけど」
「ユーファちゃん、山に入り込めそう?」
「それはできる。普通に入れる」
「そっか」
大事業が行われていたとしても、村の狩人の生活がすぐに変わるわけじゃない。当たり前に山に入って、狩りをする者もいる。
坑道に続く道は監視があるし、私たちみたいな女子供が入れば咎められる。たぶん道の作られる予定の範囲はロープで区切るとかして、立ち入りが禁止されているはず。
でも、そこ以外は普通に山に入れるか。
「明日の朝、山に詳しい人に話を聞こう。それで昼から様子を見ながら山に入る」
「うん」
「テント村の方も見ておくか?」
「ええ。とりあえず行ってみましょう。慎重にね」
多くの労働者を寝泊まりさせるためにテントが大量に設営された一角。元は、持ち主が前年に亡くなって使われなくなった農地らしい。
数多くの労働者が集まっているから、彼らの様子を見るには重要な場所ではある。
けど、それ以上に警戒しなきゃいけない点として。
「姉さんがいるのよね」
「そうらしいな」
さっき教会の神父から、責任者夫婦の所在は聞いておいた。
テント村の中心らしい。
「まあ、ルイのことはわからないだろ。変装してるし」
「そうだけど。顔が変わったわけじゃないし。やっぱりこの格好、浮いてないかしら。眼帯して堂々と歩いてる、ショートなのにサイドテールにしてる美人とか」
「落ち着け。美人なのを強調する余裕があるなら大丈夫だろ」
「ルイーザ。あんまりキョロキョロしないで。怪しい」
「はい!」
ちびっ子ふたりに両側からたしなめられる。それから。
「ユーファ。ここではルイって呼んでやれ。向こうに聞かれるとまずい」
「うん」
「ううっ。その指摘は私がしなきゃいけなかったのに……」
動揺しすぎて頭から抜けていた。
私、本当に大丈夫なの?
テント村は、五、六人ほど収容できる広さのものがいくつも並べて建てられているという構成。
画一的な白い布のテントが並んでいるのは異様だけど、今の時間はそれぞれの中からランプの灯りが透けて見えてロマンチックである。
ちなみに収容人数とは、中に置けるベッドの数を言う。それが各労働者に割り当てられたパーソナルスペースであり、仕切りなんかはない。
そこに、これまで縁もゆかりもなかった男たちが定員の数だけ押し込められているというわけだ。
宿屋や村人の家をあてがわれた者は幸運だな。たぶん、監督やまとめ役みたいな立場の人から優先されて入れられたのだろう。
じゃあ、なんで姉さんは村長の家とかで特別待遇を受けるのではなく、テント村の真ん中で肉体労働者に混じって寝泊まりしてるのかは謎だけど。
テント村の住民は余所者ばかりだし、女子供が入ってきても地元の村人かと思われるだけで怪しまれない。
眼帯をしてるのは珍しいけど、別にことさら奇妙なことでもない。
姉さんの存在だけ気をつけてテント村を歩けば、目的地はすぐに見えてきた。
周りと比べて大きなテント。具体的には三倍くらい。十五人分くらいのベッドが入れられそうなそれが、姉さんとネドルがこの鉱山開発の間住居とする宿だ。
もちろん、中にベッドが敷き詰められているわけではないだろうけれど。
入り口には見張りがいて、中を覗くのは容易ではない。まあ、ベッドが狭い間隔で並んでいるわけじゃないのは予測がつく。
周りのテントと比べれば、かなり贅沢な空間なんだろうな。ベッドがふたつしかない夫婦の寝室であって、姉さんとネドルが居心地よく過ごせるためのものが集められている。
中から光は透けて見えなかった。夫婦が既に就寝しているか、まだ帰ってきていないかだ。
何から帰ってきてないかは知らない。仕事か、それか飲みの席か。
「ルイ、こっちだ」
レオンが私の手を引いて、近くのテントの影に連れて行く。レオンがそうしなきゃいけない理由があるのはわかるから、特に抵抗はしない。ユーファも素直についてきた。
「まったく! 遅くまで会議会議で! 嫌になる!」
「耐えてくれ。君のお父さんが決めた方針だ」
「私が出席する意味ないじゃない! 何も話さないのに!」
「お父さんが出ろって言ってるんだ。仕方ないだろ」
声を荒げてずんずん歩く女と、それを宥めながら何の解決にもならないことを言う男の声。
姉さんとネドルだ。




