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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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25.ドヴァンとユレーヌ

 女の結婚相手は家が決めるもの。そして家であるユレーヌは、アニエスはドヴァンと結婚するべきだと言っている。

 父、ギルド長がどんな方針かは知らない。仕事人間である彼は、既に跡継ぎがいる以上の望みを家族には向けなかった。


 だから妻の方が、娘の結婚相手を決めている。



 よく知らない零細の工房よりも、太い家に嫁がせるべきだと考えるのはわかる。

 お互いに利害が一致しているから、ドヴァンとユレーヌは手を組むことになった。


 ユレーヌの方が少し年上なくらいでドヴァンと年齢が近いのも、彼女の側から親しげに接触してきた理由らしい。


 もっとも、ドヴァンの方はこの女には嫌悪感しか抱いていなかったが。


 少しでも物事がうまくいかなければ、途端に不機嫌になるのだから始末に負えない。

 仕事人間で家庭をあまり顧みない旦那のおかげで、結婚してからも好き勝手に暮らしていたそうだ。あからさまにはなっていないが、結婚後も男と派手に遊ぶこともあったらしい。


 今の姿では、言い寄る男はいないだろうけど。


「ちょっと。聞いてるの? アニエスは、あの男の家にいたのかって聞いてんのよ!」

「い、いませんでした」

「ったく。使えないわね。どこにいるのかしら、あの馬鹿は……」


 短い返事に、ユレーヌは途端に興味を無くしたようだった。

 相変わらず苛立たしげに膝を揺すりながら、娘に対する不満を口にする。


 嫁入り前の女が外をほっつき歩くなとか、勝手な行動は許せないとか。

 ちゃんとお説教をしなければとも言っていた。これはドヴァンにも利のあることだ。


 アニエスが旦那の言うことに大人しく従う嫁になるように、この女にはちゃんと教育してもらわなければ。


 それ以外に、この気持ち悪い女と手を組む理由などなかった。



――――



「ええ。鉱山の方で死者が続発しているのは、私も耳にしました」


 アルディス地区の教会にいるエドガーを訪ねたところ、彼にお願いをするまでもなく情報は得られた。


「元々鉱山開発は危険の多い仕事です。大規模になれば、それだけ死者の数は増える。しかし始めて数日で、既に十数人が亡くなっているというのは異常だと、神父の仲間と話していました」

「竜の噂は?」

「見た、という人がいるのは聞きました。その時のことを、はっきりと覚えているわけではないそうですが」

「その時のことを?」


 それはおかしい。


 竜の姿が、木の陰や暗闇に紛れてはっきり見えないのは、まだわかる。

 けど見た時のことを覚えていないというのは。


「仕事をはりきりすぎて、意識が遠のきかけた時に見たそうですよ。木こりのひとりだそうです」

「木こりが……」

「ええ。山の奥深くまでのぼって、どの木から切っていくか選定する作業の途中だったそうですよ。数人で固まって仕事をしていた中で、竜を見たのはひとりだけです」

「見間違いのように思えるな」

「ええ。そうかもしれません。彼は竜を目にしたのに驚き、足を滑らせて怪我をしました。命に別状はありませんが、頭を打ったそうです。朦朧としながら、竜がいたと、うわ言を言い続けた」

「頭を打った、か。単に足を滑らせて転んで、その時のショックでありもしない記憶が事実のように浮かんだのかもしれない」

「ええ。神父たちの中にも、そう考える者は多いです」


 竜の生き残りがいたと考えるよりは、ずっと合理的な理由だ。

 けど、そのうわ言と死者が多く出ているという事実が労働者の中で結びつけられてしまった。


 この山には何かいる。そう誰かが囁けば、噂を止めることはできない。

 逃げ出す労働者がいるんだっけ。噂を気にしすぎて、竜に殺されることを恐れて、とかかな。


「竜はいないのかもな。けど、多くの死者が出てるのは事実だ。原因を突き止めて、排除したい」

「ええ。わかったわよ。竜が好きなレオンじゃなくて、ネクロマンサーのレオンとして調べたいのよね」


 付き合うって決めたんだから、行ってあげるわよ。


「ありがとう。エドガー、引き続き調査をしてくれ。あと、ジャニドが死んだ時の様子も詳しく知りたくなった。霊の未練に関わりそうなんだ」

「仕事が多いですね。いいでしょう。死者の安寧のためです。多少は頑張りましょう」


 知り合いの教会に行って話をするだけだもんな。エドガーにとっては十分すぎる労働かもしれないけど、かなり楽な仕事だ。


 そして私たちもまた、準備をしなければならなかった。




「ユーファ。知らない山を案内してくれって言われたら、困るか?」


 その日の夜。仕事終わりのユーファに尋ねることに。


「どこの山?」

「王都の北にある山だ。ラングドルフ領とジルベット領と王家直轄領の境目」

「困らない」


 寡黙な狩人は店の後片付けをする手を止めないまま、短く答えた。

 森に入るわけだから、森に詳しい人の同行が必要だ。

 その山と森の専門家に頼むのが一番だけど、それはそれで面倒だ。こっちの素性や、レオンの能力。あとは公爵側の人間に存在を知られたくないとか、そういう説明をしなきゃいけないのだから。


 ユーファに頼むと、その手間を全部省ける。


「木の生え方は、家の周りと同じはず」

「そうだな。植生も動物の分布も、似たようなものだと思う。もちろん初めて入る山だし、準備は必要だろうけど」

「大丈夫。なんとかする」

「そっか。必要なものがあれば言ってくれ」


 なによ。私には普段、そんな気遣いしないくせに。まあ必要だから言ってるんだろうけど。

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