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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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15/60

15.ジャンを好きな理由

「ジャン。客の夫婦に、ふたりで方針をよく話し合えとは言ったのか?」

「言った。そして同意はしてくれた」


 ここ数日の間に、ジャンは客に会ってレオンのアドバイスを実行したらしい。

 けど、彼の表情はすぐれない。


「ふたりの意見が合うことはなさそうだ」

「じゃあ、当主である夫の方に従うべきなんだろうな」

「そうだ。けど、あの様子じゃ無理だな。母の方が元騎士なだけあって、かなり苛烈で頑固だ」

「はっ! 意思の強い女は魅力的かもしれないが、それで他人に迷惑かけるようじゃ、わがまま言うガキと同じだな」


 あんたもクソガキだけどね。


 男ふたりが、あまり実のない会話をしてるのを、私はぼんやりと眺めていた。

 ふたりは馬が合うのか、ジャンは半分未満の年齢のレオンと楽しそうに対等に話していた。


 結局は、ヴィルオバル夫婦が家としてどうしたいかに掛かってるわけで。今の段階でこちらで出来ることはあまりない。


「ルイーザさんルイーザさん」

「はい?」


 すると、アニエスの方が話しかけてきた。


「ルイーザさんは、レオンくんとどんな関係なんですか? ルイーザさんも教会で働くシスターさんとか?」

「いえ。私はただの友人です。普段は酒場で働いています」


 本当のことを言うわけにはいかないな。

 もしジャニドの遺体を蘇らせる必要が出てきたなら、その時に他言無用を付け加えて話せばいいだけで。


「子供ひとりで出歩くのは危ないから、ついていってあげてるんです」


 本当は、私ひとりで出歩くと危ないからレオンがいるんだけどね。


「そうなんですね! 歳は離れていますけど、仲がいいんですね!」

「まあね。アニエスさんは、ジャンさんとどうしてお付き合いを?」


 せっかくの機会だし、気になったことを尋ねた。


 鍛冶屋ギルドの長といえば、上流貴族とは行かなくてもそれなりの権力者。社交界に出ることもあるだろう。

 その娘の結婚相手となれば、それなりに意味を持つ。


 街の有力な鍛冶屋が欲しがることもあるだろうし、家としても大きな鍛冶屋と関係を結んだ方が得。ジャンは誠実な人だけど、家としては弱い。


 と、貴族出身の私は婚姻をそうやって捉えてしまっていた。


「そうですねー。ジャンのことが好きなので! 家族みんなが良い顔をしたわけじゃないですけど、押し切っちゃいました!」

「そ、そう」

「頑張りました!」

「すごいわね……」

「えっへん!」


 てっきり、そういうのに厳しくない家柄なのかとも思ったけど、違うらしい。


 ちょっと乗りが軽い子だけど、確固たる意志を持っているようだ。


「それに、ジャンは約束してくれたんです。わたしに、鍛冶のやり方を教えてくれるって」

「え?」

「ほら。女って家庭の仕事をやらせられて、男の人の仕事に口を出さないものじゃないですか。けど、わたし憧れてたんですよ。鍛冶職人に。小さい頃から見て育ってきたので」


 女の役割というのは、鍛冶屋の界隈でも同じらしい。それに馴染まず、我が道を行こうとする女が稀に現れるのも。


「家族はそういうの厳しくて。女の役目を果たせって言ってきたんですけど。嫌だったんです。……お母さんも、それで嫁入りした頃は苦労したって聞いていましたし」


 アニエスの母親も、ギルド長の家に嫁いで来たのだろう。


「お母さんも小さい頃から鍛冶職人に囲まれて育ってきたので、仕事をしたかったって言ってました」

「だから同じになりたくなくて、ジャンさんとの結婚を強行した?」

「はい! あ、もちろんそれ以上に、ジャンのことが好きなことが大きいですよ! 人柄とか、頼りがいとか! そういうのに一番惹かれました! えへへっ」


 いいな。妬けるなあ。


「ジャンのこと、支えてあげてください。苦労を背負い込むタイプの人らしいし……って、そんなことはアニエスの方がずっとわかってますよね」

「はい! 頑張ります!」

「お前ら、さっきから何を話している」


 ジャンが振り向いて話しかけてきた。レオンとのお喋りは一段落ついたらしい。


「これからどうするか、方針は決まった?」

「両親が膠着状態なら、息子の方を説得するしかないかなって」


 レオンはそう言ったけれど、あまり芳しい口調ではない。


「俺は会ってないんだけどさ、なんか気弱な奴らしいじゃん?」

「そうなのね」


 ジャンたちの前で、リリアからの情報を口にするわけにはいかない。レオンはジャンから、息子ヘクトルの人となりを聞いたのだろうけど。


「親にも逆らえない種類の人間っぽい。けど、頑張ってもらうしかない」

「会ったことない人にする期待としては、ちょっと大きいわね」

「本当にな!」


 愉快そうに言うな。少しは悪びれろクソガキ。


 金持ちなんて、みんな似たような性格だから会ってなくてもわかるとか、そんなこと考えてるのだろうな。


「それでも、両親よりは息子に期待した方がいい。対立構造が崩せるからな。そこから先は、ジャンに頑張ってもらって――」

「おーい。ジャンはいるかよ!?」

「お? お客さんみたいだぞ」


 表の方から、知らない声が聞こえた。レオンは軽々しくジャンに話しを向けたけど、当のジャンは苦い顔をする。


「あいつ、何の用だ」

「嫌いな相手か?」

「ああ。ドヴァンだ」

「そっか」


 ジャンと同時に受注の依頼を受けた、大手の鍛冶屋だったか。

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