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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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14.アニエス

「ジャン! お客さん来たよー! あ、お茶淹れますね!」


 女性は私たちに微笑みかけてから、パタパタと家の奥の方に駆けていった。小柄なのもあって、動きがかわいらしい。


「あの。お気遣いなく……」


 礼儀として遠慮しようとした私の言葉も聞こえてなさそうだ。

 どうしよう。他人の家に取り残された。


「座って待とう」

「あのね。こういう時は、家主に勧められるまで椅子に座らないのがマナーなの」

「そうなのか?」


 レオンは気にすることなく、居間に向かって椅子に座る。


 普段から使っていると思しきテーブルには、椅子が四脚。

 ジャンと亡くなったという両親。そして、さっきの女性のものかな。つまり彼女がジャンのフィアンセだ。


 可愛らしい方で、幸せそうだ。


 それはそうと。


「レオン。早く立ちなさい。家族の誰かが使ってる椅子なんだから。定位置とかあるでしょ。そこに座っちゃってたらどうするのよ」

「マナーって面倒なんだな」

「あんたも客商売やってる身なんだから! 最低限の礼儀を身に付けなさい!」

「相変わらず、愉快なことしているな。気にするな。そこは親父の椅子だ」


 家の奥からジャンがやってきた。


 仕事をしていたのかな。薄汚れた白いシャツ姿の彼は汗ばんでいた。

 父親ということは、一応は家長みたいな立場の席なわけで。

 レオンはわかってて座ったのかな。雰囲気とかで察して。


 おいこら。得意げな顔をするな。


「ルイはここに座ってくれ」

「あ、はい。この席は」

「母の席だった」

「そうですか」

「お茶どうぞ!」


 女性がキッチンから出てきて、私たちの前にお茶を出した。


「ありがとうございます。ジャンさん、この方は」

「前に話した俺の恋人だ」

「アニエスです! ジャンがお世話になってます!」


 ハキハキとした声で挨拶をする女性、アニエス。


 元気のいい人だ。リリアほどうるさくはないし。活発でいい子なんだと思う。


「アニエスは、鍛冶屋のギルド長の孫なんだ」

「そうなんですか?」

「えへへ。それほどでもないです!」

「いや、その返事はおかしいでしょ。……でも良かったじゃないですか。ギルド長の家系と婚姻関係だなんて」

「そう! 少しくらい更新料を滞納しても、私がお願いすれば待って貰えるよって、いつもジャンには言ってます!」

「いえ。そういう意味で良かったと言ったわけじゃ……」


 鉱山開発で、鍛冶屋みんなで斧とか作ってたのに参加しなかったことで周囲から白い目で見られる雰囲気も、権力でなんとかできるかもと言いたかっただけだ。

 まあ、権力をかさに着るという意味では同じかもしれないけど。お金は払わないといけないな、うん。


「ギルド長は厳格な人だ。孫娘に頼まれたって、ルールを曲げたりはしない」

「うん。お爺ちゃん厳しいからねー。昔の職人って感じで」

「それより、作りかけの鎧を見たいのだろ? 工房はこっちだ」


 ジャンが家の奥、工房まで私たちを連れて行こうとして。


「その前に。父親が亡くなった場所を見せてほしい。俺は聖職者だから。親父さんの弔いをさせてくれ」

「ああ……こっちだ」


 聖職者だから、鍛冶よりもお祈りの方が得意。当然のことだし、レオンの訪問理由もそれが表向きだ。


 家の二階が、ジャニドと奥さんの部屋。


 体を壊すほどに仕事にのめり込んだジャニドは、ある日限界を迎えて倒れたかと思えば数日間ベッドの上で寝たきりになった。

 見る見るうちに衰弱していき、帰らぬ人になったという。


 よく整理された部屋だった。突出した腕を持っているわけではないが、几帳面で当たり前のことができる職人か。


 彼が寝ていたベッドに何があるというわけではないけど、レオンは瓶のまま塩を供えて祈りを唱えた。

 見れば、ジャンもアニエスも瞑目して死者を悼んでいる様子。


 子も真面目なんだ。


 私に憑いている父がこのまま冥界まで行ってくれればいいのに。そうならなかったらしい。

 祈りを終えたレオンは、私にだけわかるように否定の仕草をした。


 やはりジャニドは去ってくれなかったか。


「ありがとうございます! ジャニドさんも、喜ばれていると思います!」

「ええ。そうですね……」


 年下の私にも、アニエスは礼儀正しく接してくれる。こういう人の場合、レオンはすぐに心を許しそうな気がする。


 その後、私たちは工房に案内された。鉄を熱する窯を中心として、様々な工具や設備が置かれている。

 何に使うものかは知らない。


 工房の隅に、作りかけの鎧が置かれていた。

 厚めの鉄板を曲げて形成された部品を組み合わせて、人の形にする。


 特に胸部の装甲が目につく。これを幅広く作ることで、胴全体を守りつつ見た目も大きく見せる。さらに立派な鎧だと示すための装飾を加える余地も広がる。


 同じく肩を覆うパーツも、横幅を広げるのに有効だ。


 実用性をある程度削ぎ落としてでも、派手さを追求するにはこういう鎧が必要になる。


「でもこれじゃあ、奥さんからの要望には応えられないな」


 レオンが、見たままの感想を口にした。


「そうなんだ。正直、動きにくすぎる」

「動きやすくするには、軽さを追求すればいいのか?」

「ああ。その通りだ。各パーツを小さくすればいい。あとは関節部の干渉を抑えるために、端を削るとかだな」

「なるほど」

「だが、実のところそれも難しい。父親の方は、もっと大きく派手にしろと考えている」

「マジか。これだから金持ちは。見栄しか考えないんだから」


 最後のやつは、レオンの金持ちへの偏見が十分すぎるくらい見える感想だった。

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