第二十九話 彼が誘いに乗った理由
「あーっはっはっは! お見事! まさか本当に防がれるとは思わなかったザマス!」
ヒバリービルズはハイトーンな呵々大笑に拍手を交えて、飛び去るフレーズヴェルグの背を見送った。
「いいのか? アレ逃がして――《グランデ・ライトニング》ぐらい撃てただろうに」
「構わぬザマス。あんな楽しい勝負にそんなケチはつけられないザマス。ええ、今回はわたくしの負け、それでいいのザマス」
「まあ、上位十チームには俺らも食い込めるだろうからな……あいつらもよっぽどヘマやらない限りは制限時間まで生き残れるだろ」
「フッフフ……んん?」
近づいてくるプレイヤーが一人。両手を挙げたので攻撃はひとまず待ってみた。
「なあ、あんたらもフレーズヴェルグを追わないか!? 今プレイヤーの大部分があいつらを倒すために同盟組んでて」
「《グランデ・ライトニング》!」
「どぐぁ!?」
詠唱破棄による上級魔法で勧誘に来たプレイヤーを灰にして、ヒバリービルズがぷんすかと怒りをあらわにする。
「まったく、余計なことしないでほしいザマス。とはいえ、バトルロイヤルとはそういうものザマスから、非難するのも筋が違うザマスか?」
「まーなぁ……ああ、あれが同盟軍ってやつか。フレーズヴェルグがこっから離れるのを見てまた追いかけようって感じだな」
「個人的には気に食わないザマスね――ところでわたくし、彼女たちとの勝負では負けを認めたザマスが、ランキング一位を諦めたわけではないザマスよ」
「ふむ……じゃあ、ぶっ放すのか?」
「もちろんザマス」
「んじゃ支援掛けなおすわ」
「んっふふ……これは餞別ザマス。次に会える時を楽しみにしてるザマス!」
三度放った《光条砲》はフレーズヴェルグの後方、同盟軍たちのど真ん中をブチ貫いて、その半数を灰に変えた。
◆◆◆
「また撃ってきたかと思ったけど……これは……外れたってことでいいのかな?」
「キルスコア稼ぎかもしれんなぁ」
「……何にしても、ちょっとは助かったわね」
「うひゃあ、よく生きてたねわたしたち」
後方のプレイヤーたちを薙ぎ払った光線を見て、四人が口々に言い合う。
「リッちゃん、まだ油断はできないけど、あとは制限時間まで逃げてるだけでいいんだよね?」
『うん、いいと思う。僕もできる限り潜伏することにするよ。もちろん危なそうなときは狙撃するけど』
「分かった。そっちも気をつけてね」
『はーい』
◆◆◆
「い、よっし!!」
フレーズヴェルグが飛び去ったのを確認し、魔女リティは拳を突き上げた。
油断するにはまだ早いと分かっているが、この山場を乗り越えることが出来たのは大きいだろう。
それを乗り越えるサポートをできたという事実が、魔女リティの内を確かな充足感で満たしてくれる。
《鷹ノ目》越しにヒバリービルズたちを確認したあと、《鷹ノ目》を解除して移動する。
「結果的には僕らを助けてもらったし――向こうも、これ以上僕たちを狙うつもりはないみたいだし、今は狙わないでおこうかな。これ以上やると返り討ちに遭いそう」
ラピッド、ハルル、シャンデリアという三人の少女たちをサポートして、勝たせる――そしてバトルロイヤルの上位報酬を得る。この二つの目的達成に、大きく近づいたことは間違いない。
「ふふっ――おっと、気を抜くにはちょっと早いか」
ミツメの視界に、明らかに森を探る動きをしている魔女を発見――フレーズヴェルグに乗っていない五人目を探しているのだろう。
「できる限り、スコアは伸ばしておかないとね。三人か……じゃあ何とかなるかな? 距離一〇〇、角度マイナス補正。照準良し」
《鷹ノ目》を発動。狙いを定めて詠唱し――当然のように、頭を撃ち抜いた。
◆◆◆
【九十分が経過しました】
【現時点を以てチーム対抗バトルロイヤル:ミドルランクを終了します】
【統計中……】
【生存チーム数 24】
【キルスコアによるランキングを算出します……】
【統計が終了しました】
【あなたのチームはランキング一位となりました】
【おめでとうございます!】
【上位報酬を贈与します】
――そんなアナウンスが魔女リティたちの視界に表示され、わずかな間を置いて魔女リティたちは特設広場へ転移した。
◆◆◆
「やっ……たわぁぁっ!」
「やったなぁ~、ラピッドちゃん」
「やったね、みんな!」
イベント終了に伴い、特設会場の広場に転移させられたラピッドたち。向こうのフィールドでバラバラの位置にいても、転移後はチーム単位で固められたらしい。
「お疲れ、みんな」
「リッちゃんもね」
「上位入賞できればいいって思ってたけど、まさか一位獲れるとは思ってなかったかんね……流石にちょっと現実味がないなぁ」
「何言ってんの! これが現実よ! あたしたちが勝ったの!」
いつになくテンションが高いラピッドが魔女リティとクロワッサンに抱き着いてくる。喜びに水を差すのも悪い気がしたので、魔女リティはされるがままだ――そして想い人と思わぬ急接近を果たして意識が飛びかけているクロワッサンだが、それに気づくことなく魔女リティは周囲に目を配る。
「さて……表彰式の類はないみたいだし、一度アトリエ帰る? ここだとちょっと落ち着けないかんね」
『……あいつらのこと、知ってるか?』『完全にノーマークだよ……』『ヒバビルの攻撃を真っ向から防ぐなんて……』『あれすごかったねー』『俺気づいたら死んでたんだよ、怖くない?』『私はみんなと一緒に吹き飛んでたよ』『ケモミミ……』『オオカミ……』『尻尾……』
終盤変なのも混じってたが、ともあれ思わぬダークホースが優勝をかっさらった話題で周囲は持ちきりのようだ。
「そうね――じゃあ、帰りがけにお菓子とかでも買って帰りましょ! どうせ仮想空間だもの、祝勝会でぱーっとやるわよ!」
「いいねー! わたしケーキ食べた―い!」
「うちは紅茶が飲みたいなぁ」
「あ、それじゃあそれぞれで食べ物買ってアトリエに戻る?」
「了解、じゃあそんな感じで」
「あ――リティ、ちょっと」
「へ?」
ラピッドに手招きされ、魔女リティは近寄る。
「……上位報酬取れたから、言わなきゃなんないことがある」
「あ、そういえばそうだったね」
ラピッドとレベリングに出た際、何かを言い淀んだ彼女がそう言っていたことを思い出すが、魔女リティの反応にラピッドはじろりと半目で睨む。
「ことのついでみたいに言わないでよね――その」
やや躊躇してから、明後日の方向へ目を向けて。
「来てくれた助っ人が、あんたでよかった。……それだけ」
「…………」
「……なんか言いなさいよ」
(可愛いところもあるんだねって言ったら、怒りそうだなぁ)
「いや……ハルルがからかう理由がなんとなく分かるなぁって」
「あんたもしかしてバカにしてる?」
「いや、ごめんごめん。それに僕の方こそ、ラピッドたちのチームで戦えてよかったと思ってるかんね」
「取ってつけたように……」
「いやいや、本気でそう思ってるかんね」
なぜなら、魔女リティは――
「ただーいまー……あっ、僕一番乗り?」
アトリエに戻った魔女リティは、テーブルの上に買って来たお菓子などのアイテムを置き、椅子に座って長く息をつく。
作戦をうまく運べてよかったと、一人になってようやく思えた。肩の荷こそ降りたが、代わりに疲労がどっとのしかかってくるようだった。
「……でも、その甲斐はあったかなぁ」
珍しく締まりのないにやけた顔でメニューを操作して、バトルロイヤルで獲得した上位報酬を確認する。
獲得したのは魔法陣、そしてアクセサリーの二種――共に第一作『魔法少女ユニユニ』シリーズを模したものである。
魔法陣は、イベント報酬仕様となっている特殊な物だ。『ユニユニ』たちが使っていた技を模したエフェクトと共に効果を発揮する。
効力は下級魔法相当。通常の魔法陣と異なり、レシピが付随している。そこに指定された魔法陣を合成することで、エフェクトはそのままに任意の能力へ強化されていくという魔法陣だ。
またもう一つの特徴として、他五つの『ユニユニ』魔法陣と同時に発動することでリンクし、超強力な合体魔法陣となるという点が挙げられる。
それを使う日も楽しみだが、魔女リティの本命はアクセサリーだ。
「ふふ……」
――――――――
○魔法少女ユニユニの契約晶
装備種:アクセサリー
一見何の変哲もないネックレスだが、小さな宝石は契約の証。
装備した状態で“同調変身”と唱えれば、コスチュームと共に異界の力を借りることが出来る。
変身後、一定時間のバフを獲得する。今日からあなたも魔法少女!
――――――――
「普通に装備してるだけじゃ装備補正値はなし、変身中の一定時間は強化されるってことかな……ま、効果なんて二の次ではあるけど。……………………」
まだ帰ってこないよね? と思いながら、契約晶を装備――一瞬の躊躇いを見せたが、こっちの体は幼女なのだ、何ら問題ありはしない。
記憶に焼き付いている『魔法少女ユニユニ』のポーズ。それを鏡の前で取りながら、精いっぱい可愛らしく言ってみた。
「“同調変身”! うわっ」
するとどうだろう、契約晶が眩しく輝いたかと思えば、ローブの下に着ている服に光が伝播し、光と化した服がしゅるしゅると形を変えていく。
やがて、光が『ユニユニ』のコスチュームへと変化。腕、胴、そしてスカート。順番にテンポよく変わっていったかと思ったら、最後にローブが弾け飛んだ。
色々疑問はあったが、魔女リティにとってここは外せないタイミング。変身後のポーズを取りながら、鏡の前で叫ぶしかない。
――しかし、やはり魔女リティは少し疲れていたのだ。いつ誰が帰ってくるとも知れないこのタイミングでそんなことをすれば、どうなるか分かりそうなものだったが。
「世界を恐怖に陥れる、悪い揺らぎを止めるため! ユニティ・ユニゾン――略してユニユニ! 参・」
「ただーいまっあっ」
「上ぅ!! ……………………」
鏡越しに幼馴染と目が合った魔女リティは、ポーズを決めたまま固まった。
共に動けぬまま少々の沈黙が流れ――それを破ったのはクロワッサンの方だった。
「えっと……懐かしいポーズだね。可愛い……よ?」
「んぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
あらん限りのやっちまった感をかき集め、魔女リティは絶叫した。
ちなみに、次で最終話です。




