第三十話 まだ何も始まっていないから
最終話です。
「あはは、つまりリッちゃんも『ユニユニ』が好きだったんだ?」
「う……まぁ、ね」
ひとしきり絶叫したのち、クロワッサンからの質問に魔女リティは答えた。その顔は未だ赤みが引かない。
そもそも、魔女リティがこのゲームを始めようと思ったきっかけは、魔法少女ユニユニとのコラボイベントの開催だ。
個人で上位に食い込むのは難しい。しかしチーム戦に出ようにもメンバーがいない。どうしたものかと悩んでいたところに誘いをかけてきたのが、クロワッサンだった。
「私の誘いにすぐ乗ったのもそういうことかー……それはちょっと悔しいかな」
「? 悔しいって何が?」
「それは秘密です。でも、ちょっと違和感はあったんだよね。『ユニユニ』を一緒に見てたとか言ってたけど、お姉さん……星子さんって、昔からアニメとかあんまり興味ない人だったし」
「……とっさの嘘はクオリティが足りないねぇ」
苦笑する魔女リティに、なおもクロワッサンは訊ねる。
「で、なんで『ユニユニ』好きなこと黙ってたの?」
「……クロワッサンにばれるのが恥ずかしかったかんね」
「ふーん……別に私は気にしないのに。っていうか、あの子たちに協力してる時点で気にしない側の人間だと思わない?」
「三人娘はリアル女子じゃん。僕男子だよ。しかも見た目女子並みに華奢だし」
「私は、それも気にしないからね」
「……ん? それってどういう」
「ななな、何でもないんじゃないかな、うん!」
思わず口が滑り過ぎたかと焦るクロワッサンが、言葉を連射することで魔女リティの質問を向こうへ追いやる。
「とと、とにかく! こうやってバレたからには、リッちゃんはもう何も隠す必要はないってことだよね!? あの子たちにも話してあげたら?」
「え……でも流石にちょっとためらうかな。いいとこのお嬢様たちが、男子が『ユニユニ』シリーズ全部つぶさに確認してるって聞いたらどう思うと思う?」
「真顔でそれを報告されたら流石に引くかな……」
「でしょ? だからもうちょっと様子見して――」
言い切る前に、どばんと開くアトリエのドア。ラピッドたちがまとめて帰ってきたのだ。
「ただいまーっ!」
「ちょっと待たせたかしら!? 色々買ってき何その恰好! ちょっとリティあんた抜け駆けしたわね!?」
「や~ん、可愛えやん! それ今回の報酬なんやろ!? うちらも着てみよ!」
「あっ、こ、これはね――」
魔女リティが言い訳をしようとしたその隙を突いて、クロワッサンが魔女リティの脇に手を突っ込んで持ち上げた。ぎょっとする魔女リティを三人に突き出しながら、クロワッサンがさらっと口にする。
「みんなー、実はリッちゃんもユニユニシリーズ大好きなんだってー」
「ちょっ!?」
「ちょっとあんた、それ本当なの!? もっと早く言いなさいよね!」
「も~、なんで隠しとったん~?」
「好きなキャラは!? 好きなシリーズは!? 好きなセリフは何!?」
魔女リティが文句を言う前に、三人娘に詰め寄られてタジタジになる。
「ぼ、僕男子なんだけど……」
「は? それがどうかした?」
ラピッドが何を言ってるんだコイツはと言いたげに眉を吊り上げる。
「全然いいと思うってのは、あんたが言ったことでしょうが――別に男子が『ユニユニ』見ちゃいけないってことでもないでしょ」
「せやね。うちらにとってリティちゃんは、今回の絶望的なイベントを勝たしてくれた立役者やもん。それがユニユニ好きなら納得もするし嬉しいだけやなぁ」
「文句があるとするなら、『もっと早く教えてくれてたら、もっと早くお話しできたのに!』って感じかなー! っていうか、知らずに布教してたわたしってもしかしてすごく間抜けじゃない!?」
「シャンディはいつでも間抜けでしょうが……でもま、そういうこと。つまんないことでうだうだ言ってないで、ほらさっさと『ユニユニ』について話すわよ」
次々に掛けられる肯定の言葉に、魔女リティは二の句を継げなかった。
「ね? 意外と大丈夫だったでしょ」
「うん……うん、そうだね」
ゲームの中なのに、ちょっとだけ泣きそうになるのを堪えながら、魔女リティは頷く。
床に下ろされた魔女リティは、三人娘との『ユニユニ』談議に花を咲かせるのだった――
◆◆◆
「よかった、リッちゃんが楽しそうで」
三人の可愛い後輩たちと実に楽しそうに話す幼馴染を見て、クロワッサンが微笑む。
恐らく、今まで誰かと『ユニユニ』について話す機会など無かったのだろう――その口からは「あのシーンが良かった」「あの二人の関係性がいいよね」「敵でも好きなキャラが結構いて」など、『ユニユニ』の感想がとめどなくあふれ出ている。
が、それはそれとして。
「……楽しそうなのはいいけど……」
その談義の輪に加わることが出来るほど、クロワッサンはユニユニシリーズに詳しくない。せいぜい第一作~第三作あたりまでを見たぐらいで、それだってそう詳しく覚えているわけではない。
思い人と三人の後輩の距離がぎゅんぎゅん縮まっていくのを見ているのは、なかなかにジェラシーな気分であった。
「――ねえ、クロワッサン!」
「えっ!? あ、どうしたの?」
「せっかくだから、これ着てみんなでポーズ決めようよ!」
「わ、分かった!」
やたらテンションの高い魔女リティの提案に否と言えるはずもなく。
「えっと、こうして、こう……?」
「あーだめだめクロワッサン、もっと手の角度はこうして……」
「クロワさん、セリフ覚えた? はい復唱!」
「クロワさんの色の子はなぁ、こんな動きで変身しとったんや」
「いいよクロワさん! だんだんよくなってきたよーっ!」
ユニユニオタクたちから散々指導を受けたクロワッサンは、羞恥に顔を赤くしながら『魔法少女ユニユニ』の変身とポーズ、セリフを完璧に叩きこまれたのだった。
そしてプレイヤーの基本機能である、水晶を使ったスクリーンショット機能を使って、イベント一位記念写真の撮影を敢行した。
タイマーを入れた水晶をテーブルの上に置き、全員揃って決めポーズ。
「「世界を恐怖に陥れる!」」
「「悪い揺らぎを止めるため!」」
「ユニティ・ユニゾン――略してユニユニ!」
「「「「「参・上!!」」」」」
◆◆◆
「――ところでリッちゃんは、これからどうするの?」
宴も一段落と言ったところで、『ユニユニ』コスチュームのクロワッサンが訪ねてきた。期待半分、不安半分と言った表情で。
「元々助っ人として呼んだわけだし、一応目的は達成したことになるけど……その、私はもうちょっと一緒に――」
「――なによ、リティWCOやめちゃうの?」
横からグラス片手に割り込んできたのはラピッドだ。
「やめるのは勝手だけど――その前にもう少し付き合いなさいよね」
「!?」
「報酬でもらった魔法陣、あるでしょ。あれ育てるための魔法陣を獲得するの、結構骨が折れる気がするのよね。あんたみたいなブレーンがいた方が色々効率がいいと思うわけ、あたしは――せっかくの合体魔法陣も一回ぐらい見てみたいと思わない?」
「色々言うとるけどなぁ、要するにラピッドちゃんは、せっかくできた『ユニユニ』仲間と離れとうないんよ」
「だだだ誰もそんなこと言ってないでしょ!?」
「あはは、ラピッドちゃんお酒飲んだみたいに真っ赤っか」
「とにかく! やめるにしてももう少し先延ばしにして! あたしからは以上!」
素直じゃないけど素直なラピッドの言葉に、魔女リティの頬も緩む。
そもそも、ここで抜けるつもりはそんなになかったのだが――魔女リティは、続行宣言をしておくことにした。
「……ふふっ、うん、そうだね。確かに合体魔法陣も見てみたいかも。それに――このゲームもかなり面白くなってきたところだから、もう少し続けてみるよ」
正直なところ、最初はコラボイベントのついでだと思っていたが――魔法陣の合成や遭遇クエスト、まだ踏み込んでいないフィールドなど、思った以上に魔女リティはこの世界に興味を持ち始めていた。
そもそも、コラボイベントに注力するあまり、WCOそのものの物語にはまるっきり触れていない。始まってすらいないようなものだ。
「……ん」
それを聞いたラピッドは短く頷き、くいっとグラスを空にした。その横顔が、ちょっとだけ嬉しそうに見えた。
「あ、ごめんクロワッサン。さっき何か言いかけてたよね?」
「えっ、あー……うん、何でもないよ!」
「なんでもないってことはなさそうだけど?」
クロワッサンに詰め寄ると、むむむと少し唸ってから――
「せっかくだから、もうちょっと一緒にここで遊びたいって言おうと思ってたの! 先にあんなこと言われちゃったら言い出しにくいでしょ!」
「なるほどね、うん、ごめんごめん」
魔女リティは笑いながら、クロワッサンのグラスに飲み物を注ぐ。
「でも、ありがとね。クロワッサンが誘ってくれたおかげで、しばらくは退屈しなさそうだよ」
「それは、どういたしまして?」
「うん。だから、これからもよろしくね」
「こっ……こちらこそ!」
何度目かの乾杯をして、魔女リティは明日の予定に思いを馳せた。
「さて、まずはレベリングからだね。クロワッサン、明日も付き合ってもらうよ」
「ひゃひゅっ……ふぁいっ!」
付き合うというワードに一瞬で頭が沸騰したクロワッサンは、噛みながら頷くと言う器用な真似をした。
VRモノが書いてみたいなぁと思って書いてみたんですが、想像以上に難しかったです。
他にもゲームのことやらなにやら色々と設定してはいたんですが、ストーリーが読み切りっぽくなったのでここでいったん一区切り。
その他諸々の感想というか所感というかは、活動報告あたりにその内投稿するかもしれません。
一か月弱という短い間でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。




