第十六話 天啓に曰く、「汝、その獣を乱獲せよ」
「ねぇ、リティ! ユニユニに興味ない!? あるよね!?」
魔女リティとクロワッサンを、シャンデリアが先導する。
ひとまずやることとして、初心者組の二人は装備を整えようという話になった。イベント以前に、レベリング効率のためにも装備を刷新するのは急務と言える――特に急ぐのは、攻撃魔法の威力や防御魔法の耐久力に直結する“杖”だ。
そこで手を挙げたのがシャンデリアだ。曰く、「いいお店知ってるから案内するよ!」とのこと。シャンデリア基準の『いいお店』に若干の不安要素はあったものの、ひとまず二人は案内してもらうことにした。
が――
「ユニユニシリーズは面白いよ! 世代ごとにテーマとかがあるから、全部とは言わないまでも気に入るシリーズがきっとあるはず! ぜひぜひ見てほしいなぁ、どうどうどう!?」
「あ、あはは……」
「しゃ、シャンデリアちゃん、ちょっと落ち着こう?」
――案内中、シャンデリアからのユニユニ布教が止まらない。
布教してくるのは知っていたが、まさかここまでゴリ押ししてくるタイプだったとは……と魔女リティは冷や汗が止まらない。
「ラピッドを沼に引きずり込んだだけのことはあるね……! 油断してると心を持っていかれそうだよ」
「うーん、ここがリアルだったらアニメ視聴から始めるんだけど」
「シャンデリアちゃん? とりあえず部屋に招くのは怖いからやめた方がいいと思うな……」
そんなやり取りを交えながら向かったのは第三ツリー、通称『マーケット』。NPCやプレイヤー問わず、多くの店が軒を連ねる商店街のような大樹だ。
先導するシャンデリアの後に続きながら、売り物のラインナップをざっと眺めていく。
「武器、防具、回復アイテム……あっ、魔法陣まで売ってる」
「このゲームだと、魔法陣も売買可能だからね!」
「へぇ、交信用のアクセサリーか……! バトルロイヤルって考えるとちょっと欲しくなるけど……お値段的に手が出ないなぁ」
お値段、実に五万マージ(通貨)。対して魔女リティの所持金は二万マージだ。全然足りない。
「お金が貯まったら買いに来ればいいと思うよ! じゃあ、もっと下に降りるよー!」
シャンデリアを追った先――第三ツリーの根元近くで、一つの店が看板を掲げていた。店名曰く、《総合装備・昼行灯》。
賑わっていた上層~中層と違い、霧すら立ち込めている下層はアンダーグラウンドな雰囲気が漂っており、目の前の店はその雰囲気にこれ以上なくマッチしていた。
薄暗い店内と、入口から雑多に並べられているわりに威圧感の強い品物の数々。値段を見れば最低でも十万マージを越える代物だらけ。魔女リティとクロワッサンが尻込みするのも構わずに、シャンデリアは実に慣れた様子で中へ踏み込んだ。
「たーのもーっ! アンドンさんいるー?」
「ンン? あらスピード狂いのシャンデリアちゃん、いらっしゃい」
「ごきげんYO! アンドンさん、この二人の装備を見繕ってほしいんですけど!」
来客を悟って奥からやってきたのは、コーンロウと褐色の肌がパンクな店長だった。
「あらかわいこちゃんお二人。初めまして、アンドンよ」
(……また個性的な人が出てきたなぁ……)
顎に手を当てながら名乗ったアンドンは、魔女リティとクロワッサンを見る。
「ンン、まだ初期装備じゃないの。レベルもそこまで高くないし、この二人なら上のお店の方が合ってるんじゃない? ウチ連れてくるほど急ぐことでもあるの?」
「コラボイベントのバトルロイヤルに参戦するんですけど、ミドルランクに出ることになっちゃって!」
「……ああ、そういうコト」
シャンデリアのレベルを見て粗方察したのか、同情するような目を向けられた魔女リティとクロワッサンである。
「それに、二人ともすっごい腕前だから! 装備に頼り切りなんてことにならないと思いますよ!」
「ンン……まあ、話は分かったわ。それで、今日は何をお求めかしら?」
「ひとまずは、レベリングのために二人とも杖が欲しくて」
「ふんふん。じゃあ二人の基礎属性と……プレイスタイルを教えてもらおうかしら」
プレイヤーが装備できる杖には、魔法攻撃力と魔法防御力の二つの補正値が設定されている。扱う素材だったり杖を作るプレイヤーの技術だったりでバランスは変わってくる。
魔女リティは攻撃寄り、クロワッサンは防御寄りであることを伝えると、店の中をごそごそと漁り始める。
「はい、この辺なんてどうかしら?」
持ってきた二振りの杖をそれぞれ受け取り、その性能を見る。
魔女リティの杖は、指揮棒にも似た細い短杖。柄の部分に、トパーズを思わせる黄色の宝石がはめ込まれている。
一方クロワッサンの杖は、いかにも魔法使いが持っていそうな背の高い杖。頂点にはダイヤモンドのような宝石がはめ込まれていた。
――――――――
○召雷杖エル・トール
装備種:杖
魔法攻撃力:+285 魔法防御力:+15
特殊効果:雷属性魔法の威力15%上昇
――――――――
○守護の堅杖ランバート
装備種:杖
魔法攻撃力:+40 魔法防御力:+260
特殊効果:防御呪文の耐久力20%上昇
――――――――
「わっ、装備補正値すごい……」
「あ……でも、このレベルだとかなりお高いんじゃ? 僕らそんなにお金ないですよ」
「そうねぇ、シャンデリアちゃんの紹介とはいえタダってわけにはいかないわね」
アンドンが取り出したのは紙の束。書かれているのは素材の名前と、その相当単価だ。
「ウチは手持ちが足りないときは、素材を納品してもらってるの。不足分に見合う対価ってことね。今回は全部素材払いでいいわ――シャンデリアちゃんの紹介ってことで後払いでいいのと、ちょっと割引してアゲル。二本で二十万のところ、十五万マージにしておきましょうか」
「わぁい、ありがとございます、アンドンさん!」
「……これは中々……」
「厳しい素材が多いね……!」
無邪気に喜ぶシャンデリアの隣で、魔女リティとクロワッサンが唸る。書かれているのはほぼ上級素材、最低でも中級素材だ。
中には翼殴竜の翼膜(上)も書かれているし、魔女リティはそれを持っているが、単価は一つにつき一万マージ。これ一つでは全然足りない。
「ンン、すぐに支払う必要はないのよ? それを狩りこめるぐらいに成長したらでいいワ――ま、一種の先行投資ってやつね」
「うーん、確かにこれはかなり……ん?」
魔女リティが、一つの素材に目をつけた。
「スケイル・カメレオンの鱗……これ、中級素材にしてはかなり高くないですか?」
他の中級素材は、単価がいいところでも二千マージなのに対し、スケイル・カメレオンの鱗は単価で五千マージ。三十個も納品すれば十五万マージに到達する。
「ああ、それね……シンプルに入手難易度が高いのよ。鱗をドロップするスケイル・カメレオンは、強さ自体は中級の魔物の中でも弱い部類よ? ケド、種族の特性として気配に敏感で臆病だから、プレイヤーや格上の魔物が近づくとすぐに姿を消しちゃうワケ」
「見つからないから倒されず、素材も手に入りにくいってことですか……」
「そういうコト。でも素材はスッゴイ有用だから、欲しいって人も結構いるのよ。だからお高めに設定してあるってわけ」
「…………」
それを聞いた魔女リティは、閃いてしまった。
(それはつまり、近づかなければいいということなのでは?)
スケイル・カメレオンを狩るコツ
・近づかない
・悟らせない
・できる限り少ない手数で仕留める
なお範囲攻撃でめぼしい部分を吹っ飛ばすのもありですが、びっくりしたカメレオンが周囲から逃げ出すので乱獲はしにくい手法と言える。一日一回ぐらいしか使えない手段。




