遭遇ーー白い少女3
「まさか人間を殺してしまうなんて」
「確かに、我々の間でそれは御法度だな」
イエッタはびくんと肩を振るわせる。
「だが、そう取り決めたカヴァリエリはもはやこの世の人ではない。咎める者はいない。後悔しているのなら、2度と同じ過ちは犯さないことだ。そして命を奪った者たちのことを忘れないことだ。その責任がお前にはある」
「……うん」
「まったく。お前は早とちりなところがあるからな。気をつけないと」
レーイはふう、と呆れ半分にため息をつく。
「……う、ん? ……早とちりですって? このわたくしが?」
「違うのか?」
「う。……違わないけど」
「だろう? だったら、さあ、もう泣き止め。人目もあることだし」
レーイの言葉にイエッタははっと我に返り、周囲を見回す。2人の男性が居合わせていることに今更ながら気付いたイエッタは、かあっと顔を赤らめた。しかしそれも束の間、涙を手で拭うと、顔は赤いまま、
「あら、初めてお会いする方達ね」
と、気取った口調に変えた。
エライアスから見れば、素を見た後なので『今更』なのだが、イエッタのそういう性格は嫌いではなかった。ケルスも、イエッタがけして殺人狂の類ではないと判断し、警戒を解いた。
「初めまして、お嬢さん。まずはわたしが自己紹介しましょう」
まず男性が自己紹介する。エライアスが取った行動は初めて会う女性に対しては礼儀に適ったもの。
「わたしはエライアス・ノーン。セツェンはツの出身で、職業は年代記作家です。麗しき乙女にお目通り叶い、大変光栄でございます」
エライアスはイエッタの手を取って、その甲に接吻する。
驚いたイエッタは、すぐに手を引っ込め、慣れない扱いにどぎまぎしながらも挨拶を返す。
「わたしの名前はイエッタ・ルキス・カムネリアと申します。お見知りおきを」
優美さを含ませたイエッタの挨拶に被せるように、
「俺はケルスだ」
と、ケルスも自己紹介するが、その所作にはもちろん優雅さの欠片もない。しかもケルスの巨体は、イエッタにしてみれば突如、目の前に立ちふさがる壁が現れたのに等しかったので、一歩後ろに引きながら「よ、よろしく」と応じるのが精一杯だった。
それからイエッタは精霊の2人の存在に気付き、「2人も元気そうで何より」と言葉をかけたが、その声はどことなくよそよそしい。
「イエッタ様もお元気そうですな」とイグニクルス。
「再びお目にかかれて光栄です」とアレーナ。
イエッタはあからさまに視線を2人から逸らしてみせた。
その態度にエライアスは、イエッタと精霊2人の間に気まずい何かが横たわっていると察したが、具体的なところは判らないし、訊くことも躊躇われたので黙っていることにした。
イエッタは以前、この精霊2人に自分の眷族になるよう依頼して断られたという経緯があり、それがイエッタにとってのわだかまりになっていた。
「さて、イエッタさん。あなたにとっては言われたくないことだと察しますが、あえて訊きます。……あなたは、『四聖徒』殺害事件に関わっていますね?」
そう問うエライアスの表情が真剣そのものだったので、イエッタも、相応に応対する必要を感じた。
「そうですわ。すべては魔族が十王候補だったことが原因なのです」
と、イエッタはノルンという同胞が魔族だったことに始まる事の次第を、レーイたちに話して聞かせた。




