西の遺跡へ2
3人がさらに歩を進めると、次第に光景の中に樹木が増えていく。それと同時に、明らかに建造物の一部と判る石製の遺構も現れるようになった。それは何かの壁であったり、天空へと長く伸びる柱であったり、石畳であったり。
「かつては大きな都市だったのだろうか?」とレーイ。
「そうだね。この辺りは『ラテリス・シュトルス』と呼ばれる遺跡だ。遺構から察するに住宅街だったんだと思うが、いつの時代のものか、どんな民族が住んでいたのか、よく判っていないんだ」
珍しくエライアスは歯切れが悪い。
「ふうん。イグニクルス殿は、何か知らないか?」
レーイが誰もいない空間に呼びかけると、「そうですな、いくらかはお話できると思いますぞ」と年老いた男の声がかかる。
「では、お願いする」
すると、何もなかった空間に、ローブを羽織る老人が現れた。
「おお、イグニクルス殿。お久しぶりです」とエライアス。
「うむ、エライアス殿も相変わらずお元気ですな」
「ええ。今はレーイと一緒に居ることで毎日が楽しいですよ」
「それは重畳」
「またイグニクルス殿にも……」とエライアスが口を開きかけたところに、ケルスが割って入る。
「失礼、あなたは好戦性精霊の〈イグニクルス〉様でいらっしゃいますか?」
いつもの雑な口調が影を潜め、その言葉遣いには明らかに敬意が読み取れる。
エライアスはケルスの豹変ぶりに、驚きを通り越して笑いがこみ上げてけるのを必死に我慢した。イグニクルスは、挙動不審なエライアスのことは置いておき、ケルスのの頭髪に目を移す。
「その赤髪。そなたはフェルマイルの一族か。ならば儂を知っていてもおかしくはないな。いかにも、儂がそのイグニクルスじゃ。今はレーイ様の眷族をやっておる」
「火炎系第2位階第2位のお立場のあなたが、どうしてこんな小娘の……」
「それだけこの子の存在が重要な意味を持つということじゃ」
「それは人間の身では預かりしれぬこと、ですか?」
「魔術に関わりを持つそなたなら、時期が来れば知ることとなろう」
「判りました。それまで待つことに致します」
「うむ」
「それはそうと」
ケルスはおもむろにエライアスに向き直り、憮然とした様子になる。
「……エライアス……何か言いたそうだな」
対するエライアスは「いや、なんでもない」と誤魔化し、込み上げる笑いを奥底に押し込めた。
「ところで、ケルス。きみが今言った〈ケルビム〉と言うのは、天使の位階か? なぜ精霊に使うんだ? それから、イグニクルス殿って、そんなに高位の方なのか?」
ケルスは『何を言っているのだ、こいつは』と言いたげな蔑みと呆れが混じった表情をしたが、質問には答えた。




