ダールバイへ
〈雷光〉と言う名の好戦性精霊を送ってから、2カ月が過ぎていた。
その間、レーイは様々な情報収集に明け暮れていた。まず、自分が世間の常識にかなり疎いと悟ったレーイは、エライアスや宿の女主人フィリスから世間の一般常識についてレクチャーを受けた。それによって、貨幣による経済の成り立ち、宗教と結婚制度、家族制度、現存する国々と、その政治体制と状況などなど、生活に関係するレベルからティレリア大陸の国際関係に至るまで、多くの知見を得ることができた。それでも、細かな点で知識に穴があるが、それは生活しているうちに埋まっていくだろう、というのがエライアスとフィリスの見解だった。
そしてもう一つ、レーイが収集に努めた情報は、自分と契約を結んでくれそうな相手に関するものだった。
レーイの場合、契約相手は人間とは限らない。精霊、魔物、何でもござれである。というより、戦う相手がレーイと同じ『カヴァリエリの徒』であることを考えれば、人間でない者の方が都合が良いとも言えた。『カヴァリエリの徒』は魔術士、精霊使いばかりであり、並みの人間では太刀打ちできないからである。
そうなると、契約相手を見つけるのはなかなか大変なことになる。そもそも、絶対数が少ない。大都市に居れば、もしかすると人間の中に紛れ込んでいる者もいるかも知れないが、〈雷光〉のように目立つ動きをする者はいたって稀だ。逆に人の多さが災いして見つけにくいと考えられる。
ゆえに、契約相手の探索には都市を離れて田舎の方に行くことになるが、その場合どこに行けば良いのか、候補が多過ぎて見当も付けられない。
そんな状況下で有益な情報を提供したのは、ケルスだった。
彼が言うには、好戦性精霊は古代遺跡や古戦場に居ることがあるのだそうだ。
信用出来ないケルスの提案だったのでレーイは悩んだが、最終的にはエライアスの後押しにより受け入れることにした。
ケルスが提案したのは『シュトルス・タクラス』と呼ばれる場所。旧ダールバイ国の都タクラスのほど近くに位置する都市の廃墟である。
「タクラス市近郊にはいくつもの遺跡があるが、その内のどれがそうなんだろう?」
その周辺を探索した経験のあるエライアス。だが、ケルスの言う『シュトルス・タクラス』という遺跡の名前には心当たりがない。
タクラス市の周囲は、どこを掘っても遺物が出てくると言われるほどに遺跡が多く散在している。エライアスのように遺跡に興味を持ち研究するような人間はそう多くないこの時代、人々にとって遺跡は建材の流用元か、子供の探検の場くらいしか価値がない。そのためほとんどの遺跡が関心を持たれることも無く放置されている。
「現在のタクラス市の西側にあるはずだ」とケルスが答える。
「となると、ガルスト遺跡か、ムラウ遺跡の可能性が高いか。ケルス、他に特徴は無いのか?」
「『シュトルス・タクラス』では『石像が闊歩する』と言われている。何かしらの魔術的機構が存在していると思われる。そんなだから付近の住人は気味悪がって近付くことは稀だ」とケルスは妙な噂話を付け加えた。
「石像が……ほう、それは興味深い」とエライアスは一瞬、目を輝かせて、「それはやはり魔術による仕掛けか何かなのかな?」と訊く。
「そう考えるのが妥当だろう」と答えたレーイは、「都市の防衛機能である可能性が高い。つまり、都市はまだ生きている」と続けて言った。
「以前、調査した時には、そんな話は聞き出せなかった」
「現地に住む人間にとっては、『石像が動く』など、気味の悪い話だろうから、余所者には教えなかったのだろう」
「ふむ、調査が不足していたようだ。もう一度行ってみる必要がありそうだ」とエライアスは少し嬉しそう。彼はレーイに付いていくつもりなのだ。




