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間違いの代償

群衆から驚愕と嘆きの叫びが一斉に上がる。だが叫んだのは信民たちだけではない。ペトロニウスの同輩である『銅と碧の土聖』のソフィステールもその一人だった。

ソフィステールとカタリノフォラがペトロニウスに駆け寄り、その遺体を2人がかりで横たえる。ペトロニウスの身体に空いた無数の穴は完全に肉を貫通していた。それにも関わらず、血は一滴たりとも流れ出てはいない。その異様な傷にカタリノフォラは戦慄せずにはいられない。少なくとも、『四聖徒』が知る魔術の領域を超えている。

傍らでは『銀と蒼の水聖』のデクステリウスがイエッタに対峙していた。だが、彼の力量はペトロニウスに届いておらず、イエッタに勝てる見込みはほとんどない。それでも前面に出ているのは、残る2人よりは戦えるからだ。

ソフィステールはペトロニウスの遺体を見て、しばし放心していた。それも束の間、次第にイエッタに対する怒りがこみ上げ、それと共に憎悪が彼女の心に生まれた。ペトロニウスに尊敬とも愛情とも言える感情を抱いていたソフィステールにはイエッタが許せなかった。

カタリノフォラは冷静に状況を見ていた。

残された3人がかりでもイエッタには敵わないだろう。イエッタはカタリノフォラが見たこともない魔術を使う上、そのどれもが強力だ。しかし、だからといって負け認めて引き下がることも出来ない。大勢の信民を前に、尊崇の対象である『四聖徒』が敵前逃亡のような真似は出来ないのだ。

かと言って、このまま戦って全滅すれば、その場合も『四聖徒』の信頼は地に落ちる。

逃げるも不可。負けるも不可。かと言って勝つことは不可能。

カタリノフォラが考えあぐねている間に動いたのはソフィステールだった。彼女はデクステリウスの前に飛び出して行き、イエッタに向き合う。

「この、ペトロニウス様の仇!」

ソフィステールがイエッタに杖の先を向ける。

同時に、イエッタの周囲の地面がひび割れ崩れ始めた。

反射的にイエッタは『光槍』を発動させ、ソフィステールに向けて放つ。それを受け止める術も抗う術も無いソフィステールはペトロニウス同様、光に貫かれる。

「ソフィステール!」

デクステリウスが駆け寄り身体を支えるが、すでにソフィステールは息絶えていた。

群衆からは悲痛な嘆きの叫びが上がる。

イエッタは首を傾げた。

弱すぎる。

『四魔王』とは思えないほどに。

それに、群衆の反応は明らかにソフィステールの死を悲しんでいる。

イエッタは、嫌な感覚に囚われた。もしかして、何かとんでもない間違いを犯しているのではないか。

よくよく考えてみれば、おかしな点はいくつもあったのだ。

『テトラルカ』が人間と共に居ること。

民衆からは尊敬されている様子もうかがえる。

そもそも魔王がそんなことを望むはずも許容するはずは無い。魔族は人間の敵なのだから。

しかし、彼らは確かに『テトラルカ』と自ら名乗った。そこに間違いは無いのだが。

残念ながら、レーイ程ではなくともイエッタもまた、世情には疎かった。

「魔王……」とカタリノフォラが呟く。イエッタの理不尽なまでの力を目にして、思いつくのはそれだった。

驚いたのはイエッタの方。そして、嫌な予感が当たったのだと悟った。

「訊くけど、あなた達の方が『魔王』ではないのね?」

デクステリウスとカタリノフォラは、イエッタの質問の意味が判らず顔を見合わせる。

デクステリウスが、とにかく事実を伝えようと口を開く。

「そうだ、我々は魔王ではない。むしろ、それと敵対する側にある者だ」

イエッタの表情が曇る。困惑と悔悟がそこに見てとれた。つまり、自分が戦っていた相手は人間だったのだ。通りで弱いはずだ。イエッタはある意味では納得する。

しかし、問題はそんなことでは無い。

人間を守るつもりが、逆に人間を殺してしまった。

謝罪したところでどうにもなるまい。

逡巡するイエッタに向かって、石が飛んでくる。石はイエッタの後方へ大きく逸れた。それは群衆の一人が投げたものだった。その行為が呼び水のようになり、群衆の中かで石を拾う者が出始める。

「魔王!」「人間の敵!」「聖徒のお二人を返せ!」

群衆から怒りの叫びがイエッタにぶつけられる。

石はもちろん、イエッタに向けて投げられる。中にはイエッタに直撃するものもあったが、どれもイエッタに当たることなく光の障壁に阻まれる。

この場は去るしかない。イエッタはそう思った。

「待ってくれ!」と背後から声がかかり、振り向くと、若い男が近付いてくる。

ディバイニスだった。

イエッタはしかし、それを無視して光の中に包まれ、姿を消した。

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