ペトロニウス対イエッタ
ペトロニウスが導いた先は、正門前大広場。大勢の信民が訪れる、活気あふれる場所である。もっとも、戦争に負けた直後の今は往時と比べれば人通りは少なめである。それでも『四聖徒』が姿を見せたことで野次馬が群がる程度には人の行き来があった。
ペトロニウスがこの場所を選んだ理由は2つある。
1つに、広い場所であれば、存分に戦えるということ。
2つに、イエッタを衆目の面前で負かすことで、『四聖徒』の体面を保つこと。
「では、まず私がお相手しよう」
信民たちが遠巻きに見守る中、ペトロニウスはそう告げ、腰に佩いた剣を抜いた。装飾の施された剣身が昼の光を浴びて輝く。その剣は代々の『金と紅の炎聖』が継承してきた由緒ある宝剣だった。
おおおっ、と群衆からどよめきが上がる。その中から「『四聖徒』様が宝剣をお抜きになったぞ!」「いったい、何が始まるのだ⁈」と言った声が聞こえてくる。
イエッタは首を振った。
「いいえ、4人同時で良いわ」
平静を保っていたペトロニウスの肩が怒りに震える。イエッタの台詞はそれだけ屈辱的に彼には聞こえていた。
「思い上がるな、娘……!」
ペトロニウスは剣を前に突き出したまま、イエッタに向かって突進する。狙いは心臓への鋭い突き。その所作に迷いは微塵もなく、相手が少女であってもぶれることは無かった。
イエッタは為す術も無く死ぬものと、誰もが思った。ペトロニウスはそう確信していたし、群衆もそう思っていた。
突如、ペトロニウスの剣の先からイエッタが消える。先ほどと同じように、イエッタは光に包まれ一瞬で移動していたのである。
しかし、ペトロニウスは全く動じた様子も見せず、右側に気配を感じた刹那、その方向へ剣を横一文字に振り抜いた。
ペトロニウスの直感は正しく、そこにイエッタは居た。だが、ペトロニウスの刃がイエッタを切り裂くことは無かった。
ペトロニウスの宝剣が中程から折れていたのである。半分になった剣の先の方はくるくると回転しながら飛んでいき、だいぶ離れた場所で地面に突きたった。
「な、に?」
起きたことが信じられないペトロニウスは、折れて短くなった宝剣を見つめた。
「剣術は悪くないわね。でも30点。魔術は使わないの? 得意なのでしょう?」
「き、貴様!」
ペトロニウスにはイエッタの言葉は侮辱にしか聞こえない。頭に血が上ったペトロニウスは、宝剣を投げ捨て、武器も持たずにイエッタに襲い掛かった。実はペトロニウスは体術にも心得があったのだ。
しかし、その拳が届くことはなかった。
天から降り注ぐ、複数の光条。
光を凝縮したかのような光の槍は、その全てがペトロニウスに突き刺さる。それも一瞬のことで、光はすぐに消え去った。
見た目もそのままの『光槍』。
後に残されたのは、鎧ごと穴だらけになったペトロニウス。彼は断末魔の叫びを上げる間も与えられず、立ったままで絶命していた。




