テトラルカ
「へえ……あなた達が『テトラルカ』? 思っていたのとずいぶん違うけど、自分で言うんだから間違いないよね?」
そう言って少女は笑みを浮かべる。それは、言いようのないほどに酷薄な笑み。
カタリノフォラはぞっとしてそれを見た。広間への侵入の仕方を見ても、ただの少女と言うことはないはず。『銀と蒼の水聖』デクステリウスも考えは同じだったようで、カタリノフォラと2人、視線を交わして頷き合った。
もう1人の『銅と碧の土聖』ソフィステールはというと、ペトロニウスの勇姿に見とれているようで、状況がいまいち飲み込めていない様子。ソフィステールは歳も若く、『四聖徒』に就任したばかりだった。
「あ、言い忘れた。わたしはイエッタ。カヴァリエリの徒の1人、光のイエッタよ。わたしはあなた達との戦いを所望します」
「戦いだと? その前に、まずはテーブルの上から降りたらどうだ?」
「それもそうね」
イエッタがそう答えた瞬間、その姿が光の中に消える。次の瞬間には、イエッタは光と共にペトロニウスの前に立っていた。
通常ではあり得ない瞬間移動に、誰もが度肝を抜かれる。
ペトロニウスもその内の1人ではあったが、動揺をなんとか押し隠した。
教皇へ視線を送ると、「己の領分を果たせ」とケレスティヌスから言葉がかかる。ペトロニウスは跪いて、「御意に」と応じてからすぐに立ち上がり、イエッタに向き直る。
「我らとの戦いを望む理由は、なんだ?」
「敵勢力の排除」
イエッタは簡潔に答える。簡潔すぎて、ペトロニウスにはその意味が伝わらない。
「我らがいずれ、汝の敵になることがあるかもしれない、と言いたいのか?」
「だって、『テトラルカ』なんでしょ、あなた達」
『四聖徒』が自ら率先して戦闘行動を起こすことはない。彼らの領分は本来『防衛』であり、戦闘は『四聖徒』にとって他に方策がない時の最終手段に当たる。ゆえに『四聖徒』がイエッタの敵に回るとするならば、それはイエッタが先に仕掛けてきた場合以外、考えられないのだ。今、この時のように。
もちろん、イエッタが『テトラルカ』を『敵勢力』とみなすのには理由があるが、それは後に語ることとして。
「……良いだろう。では、勝敗はどのように決める?」
ペトロニウスはイエッタの申し出に同意した。『四聖徒』の名にかけて、生意気な小娘を懲らしめてやるつもりになっていた。
「死ぬまでよ」
「なに?」
「どちらかが死ぬまで、戦うの。死ぬのはあなた達の方なんだけどね」
ペトロニウスは沈黙してイエッタの様子を窺う。
冗談で言っているのではないことは、すぐに理解できた。
「本気で言っているのだな?」
「『テトラルカ』とは思えない台詞ね、それ。あなた、本当に『テトラルカ』?」
ペトロニウスはその言葉を侮辱と受け取った。ペトロニウスは『四聖徒』の中でも武に秀でた存在だ。得体の知れない所はあれど、少女に後れを取るつもりは全くなかった。
「場所を移そう」
ペトロニウスはそう言うと広間を後にする。
「わたしはどこでも良いのだけど」と言いながらも、イエッタはそれに従った。




