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代行統治者

「なるほど。面倒だな。それほどの人気があるのなら、逆に処刑する訳にもいかなそうだな」

これまでのティレリアの歴史で言えば、戦争の結果滅亡した国家の政治権力者は処刑されるのが常であった。民衆もそれを受け入れるため、新たな為政者を迎え入れることに大きな抵抗は生じにくい。為政者が変わろうと、民衆の払う税に変わりは無いからだ。

だが、宗教が関わってくるとなると話は一変する。宗教は人心を掌握して初めて成立する。ゆえに宗教権威者と信者の繋がりは、国王と国民のそれとは比較にならないほど深く、太い。

『四聖徒』は政治的権力こそないが、政治色も合わせ持つ役職であることから、扱いは慎重を期する必要がある。

慎重が必要と言う意味では、教皇の扱いは尚更のことだ。

そもそも、ダールバイという国は、その宗教性の観点から不可侵とされてきた。それを前将軍のバルミスが破ったという経緯がある。バルミス前将軍は、教皇と枢機卿が堕落、腐敗し、政治的にも宗教的にも機能を失っていたことを看過できなかったのだが、それでも彼の行動は一握りのの識者などからは批判を浴びている。

「ただ、時機を見て、教皇、枢機卿、『四聖徒』といった者には、これまでの役職を安堵するのが適当と考察します。ただし、政治権力は剥奪し、宗教上の権威のみ維持させます。政治の面では、その代わりの統治者を配置して対応します」とセラーニセン。

マルティンは嫌な予感がした。

代行統治者に任命されるのは、多くの場合、王族であり、ごくまれに公爵クラスが選ばれることがあるというのが実情だからだ。

つまり、自分にお鉢が回ってくる可能性が非常に高い。

「もしかして、代行統治者の候補に、おれの名前が挙がっていたりするのか?」

「それが最も妥当な道筋と思いますが?」と、セラーニセンは何を当然のことを問うのか? と言いたげな表情を見せた。その表情には、穏やかだが有無を言わせぬ迫力があった。

対してマルティンは渋い顔でセラーニセンを見たが、スルーされてしまう。マルティンはますますしかめっ面を作った。

「話を戻しましょう。今は反乱への対処が優先です」とディバイニスが話題を切る。

「そうだな。反乱軍と第一、第二大隊はすでに戦端を結んでいるのか?」

「旧首都タクラス郊外の平原で睨み合っており、時折、小競り合いが発生しているとの報告です」「それは幸いだが……この反乱、勝ってみせる必要はあるのだろうな……」とマルティンは残念そうに呟いた。

マルティンは、セラーニセンの提言のようにダールバイ教皇、枢機卿、四聖徒の身柄を安堵するつもりだった。だが、反乱軍と帝国軍が対峙している現状では、その策をそのまま実行に移す訳にはいかない。何故なら、反乱軍が健在なまま安堵すれば、それは帝国が反乱を恐れて譲歩したと侮られることにつながる。そうなれば、反乱は勢い付き、更に激しく抵抗するだろう。そんな状況は避けなければならない。

その一方で、マルティンは反乱軍に参加している民衆の存在が気がかりだった。いざ戦いとなれば、彼らの命をも奪わなくてはならない。軍人はその命を以て国を守る義務がある。だが、民衆はその軍人に守られるべき存在なのだ。ゆえにその命を奪うのは躊躇われた。たとえ、彼らが自分の意志で反乱に参加していたとしても、だ。

そんな思いがマルティンの胸を重くしていた。しかし、それに流される訳にはいかないことも判っていた。

「常駐の2大隊で問題なく勝てるのではないでしょうか?」と前髪をかきあげるサンクトゥレイ。

「戦いにならんと思うが?」と何かを嘲うかのようにグレイグス。

「兵を送ったとしても、到着するまでに決着がついているでしょう」とノイエンベルクも賛同した。「ならば、第一、第二大隊にすぐに伝令を送ってくれ。ただし、勝ちすぎるな。特に参軍している民は可能な限り命を奪うな、と付け加えてくれ」

「承知しました」

マルティンの意図を汲み取ったらしいセラーニセンが敬礼する。すると、他の者たちもそれにならった。

「そして、戦いが終わってから、ダールバイ教皇と枢機卿、四聖徒の身柄を安堵する。それから……気は進まないが、代行統治者としてタクラスに赴こう。そのための手続きと準備を進めてくれ」

「身柄安堵の件と代行統治者の件はすでに話を進めておりますので、ご安心を」とセラーニセン。

「早いな」と、マルティンはため息。すでにセラーニセンの中では確定事項だったようだ。

「『迅速を以て事をなす』は第三軍のモットーですよ」

「『拙速』と言う言葉もあるが、な」

ふ、とマルティンが笑うと、セラーニセンも、ふ、と笑った。

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