転機6
「え、援助というのは、どのような?」
ティケが恐る恐る聞いてみると、
「研究塔が所蔵する、あらゆる紋章の閲覧と筆写を許可してやる」
という、望外の答えが返ってきた。
「ほんとうですか?」
これは学問探求者として喜ぶべきところだった。すべての紋章を閲覧出来るばかりか、筆写して良いというのは、そうそう許されるものではない。至高本だろうが私家版だろうが、やりたい放題と言う奴だ。
一方、戦いに勝ち残るという点では、攻撃に特化した紋章や回復に使える紋章が役に立つはずなのだが、ティケの頭の中にそう言う算段は入っていなかった。すべての紋章を閲覧できる、その一点に目がくらんでいた。
「ただし、条件がある」
「何でしょう?」
「必ず、勝ち残れ。そして紋章学の素晴らしさを世に知らしめるのだ!」とギムル師は珍しく嬉しそうに告げた。
ああ、目的はそこですか……。と、ティケは呆れて言いそうになるのを抑えた。セツェンにおいて紋章学は割とマイナーな魔術だ。その現状を打破したいというのが師の思いなのだろう。
しかし、ティケは賛同する気にはなれなかった。
「えーと、善処します?」
ティケとしては紋章学の知名度なんて、この際どうでも良い。
「何を言っている、ティケトス。勝ち残らなければ死ぬかもしれないんだぞ⁈」
「勝ち残る努力はもちろんします。死にたくないですし。でも、紋章学を世に知らしめることが出来るかはわかりません。というか、そう言うことに心を砕く余裕はないかと」
「なに、勝ち残れば、自ずと知れ渡るさ」
「そういうもんですか?」
「そういうもんだ」
というわけで、その日からティケの〈千年紀戦争〉対策が始まった。
〈千年紀戦争〉という、いわば世界の統治者の立場をかけた殺し合いについては、世の中には全くと言って良いほど情報が無かった。ギムル師もその存在を知っていると言う程度で、詳しい話は知らないらしい(たがら『秘匿されし世界録』を読めるサトゥラヒンにあれこれ聞いていたというのが実情)。
一方、なんでも知っているはずのサトゥラヒンは〈世界体系〉から規制が入ったとかで、『秘匿されし世界録』にアクセスはできても、なんでもかんでも開示する訳にはいかないらしい。ただ、制限がある中でもサトゥラヒンが説明してくれた限りでは、次のことが判った。
選出される10人は『王』と呼ばれる。地水火風が、それぞれの属性毎に二人の合わせて8人と光と闇を合わせて10人。なお、地水火風の8人にはさらに『是』と『否』という属性があり、それぞれ4人ずつ。つまり、地には『是の地王』と『否の地王』がいるといった具合。
ティケはこの内の『否の風王』に相当するらしい。『風』の属性なのは、ティケの持力が『風』だからだそうだ。そして『否』である理由はティケが魔術士だからとのこと。逆に『是』の王は戦士系の者が選出されるらしい。
そして〈千年紀戦争〉の現状だが、すでに先代の〈世界の管理者〉は死亡しており、10人の選出が進められている。今のところ、ゲイルゴーラ国に1人、クヴァルティス国に2人、そしてセツェンに1人。残りはまだ未確定らしい。




