転機5
『俺という存在は〈ティレリア〉においては異質である上に破格の存在として位置づけられる。〈秘匿されし世界録〉の読み取りができる存在は稀だし、戦闘力は人間を凌駕し、天使や悪魔に拮抗する。選出される10人はどいつも人間を逸脱した強さを持っているが、ティケトスはそれに対抗できる力を有してしまったということだ。俺と言う、な』
「あなたの力も含めて、あたしの力が10人に相応しいってこと?」
『そう言うことだ』
「サトゥラヒンの話振りからすると、競い合いというのは、戦って勝ち負けを決めるということなのね?」
ティケの質問に、一瞬、ギムル師とサトゥラヒンが視線を交わした。
「いいかい、良く聞きな」とギムル師。対してティケは「はい」と答える。するとギムル師が話を続けた。
「10人の競い合いとは、具体的には殺し合いのことなんだよ」
「はあっ? 殺し合いって……死んじゃうんですか、あたし?」
「最初から負けるつもりなのか、お前は」
「だって、あたし、弱いですよ?」
『そのために俺が居る。残る9人に対抗するためには、俺という力が必要になるだろう』
「というか、そもそもあなたを呼び出したから、こういう事態に巻き込まれてるのよね?」
『ま、そうだな』
ティケにとっては、なんとも納得のいかない状況だった。
確かに、自分が勝手に紋章を起動し、出てきたサトゥラヒンと勝手に契約したことは自己責任ではある。しかし。
「だからって、殺しあいに巻き込まれるというのは、ちょっと……」
殺すのも殺されるのも御免被りたいところだ。
『厳密には必ずしも命を奪う必要は無い。相手に〈王〉であることを諦めさせれば良い』
「どうやって?」
『それは判らん。ただ、前回の〈千年紀戦争〉では、〈世界の管理者〉の他に生き延びた〈王〉もいるということだ』
「それって戦わずに済んだってこと? それとも戦って生き延びたってこと?」
『戦った上で生き延びた方だな。だいたいが、〈王〉同士の邂逅は〈世界体系〉によって管理、支配されている。人間的に表現すれば〈王〉同士は運命的に出会い、戦うことになる』
「逃げる、放棄するっていう道は無いということね……」
ティケは気を落として俯いた。
殺し合いに参加することは、どうやら避けられない。だが、生き延びる方策は、一応あるらしい。だとしたら、殺さず、殺されずに何とか乗り切ることを考えよう。
でも、どうやって?
具体的な策は思い浮かばない。
「まあ、なんだ。できる限りの援助はしてやろう」
くっくっく、とギムル師は笑いながら言った。
ティケはギョッとしてそれを見た。ギムル師が笑うところを見るのは初めてだった。その笑いから受ける印象は『怖い』だった。何か企んでいるのは間違いない。




