転機3
ティケの願いに応じて、サトゥラヒンがティケの隣に姿を現す。
『ティケトスの師匠、ギムル・ラージュ師、お初にお目にかかる。俺のことはサトゥラヒンと呼んで欲しい』
「悪魔……ではないな。見た目はそのままだが、そうではないはずだ」
『その通りだ。理解が早くて助かる』
「では訊こう、サトゥラヒンとやら。そなたは『秘匿されし世界録』を読むことは出来るか?」
サトゥラヒンはティケの反応を伺った。立場上、サトゥラヒンはティケの願いを叶える形でしかギムル師に応じることができない。
それを察したティケは、こくりと頷いて、サトゥラヒンが答えるのを了承する。すると、サトゥラヒンも頷きを返してからギムル師の方へ向き直り、
『出来る』
と返事をした。
「ならば答えてもらおう。これは『十王の紋章』で相違ないな?」
『その通りだ。その中の〈否の風王の紋章〉に相違ない』
サトゥラヒンの返答受けて、ギムル師は表情を硬くする。これ以降、ギムル師が質問し、サトゥラヒンが答える度に、師の表情はどんどんと硬くなっていくことになった。
「つまり、千年紀の終わりが近いということなのだな?」
『そうだ。先代の〈管理者〉は既に亡い』
「ティケトスが選ばれた理由は判るか?」
『〈ウラニア〉による選定だ。俺を僕としたことが大きな要因となっているようだ』
「……だいたい、思った通りか」
と、ギムル師は納得したようだったが、当のティケには何が何だか全く判らなかった。
「えっと、説明を、お願いします」
恐る恐るティケがお願いすると、ギムル師は硬くなりきった表情のまま口を開いた。
「お前は、とんでもない事態に巻き込まれたと言うことだよ」
「へ?」
「まあ、よく聞いておくんだね」と、ギムル師が教えてくれたのは、ティケにとっては初耳な上、あまりにも壮大な内容だった。
この世界〈ティレリア〉には、〈世界の管理者〉と呼ばれる存在がいる。
〈世界の管理者〉は、〈世界体系〉と呼ばれる、世界の根幹を秩序付ける役割を担うシステムを管理している。〈世界体系〉は、自転や公転といった星の運行や、精霊による事象の制御の他、精霊は素霊によって構成され、精霊が複数集まることで複合精霊(魂もその一種)が出来上がると言う秩序、さらにエーテルが時間と運動を支配し、マテリアルと結合することで、生物となるという秩序、世界法則への介入手段の単一化と厳格化などを行っている。要は〈世界体系〉とは、この世界がこの世界であるための根本要素を定義し、運用しているシステムということになる。
そして〈世界の管理者〉は、〈世界体系〉を管理しつつ、その世界に存在する知的生命の行く末を見守っている。時には人世に介入することもある。例えば、知的生命に影響を及ぼす大事変の裏には、たいてい〈世界の管理者〉が関与していると言われる。国々の興亡、気候の変動、時には英雄と呼ばれる人間の生死をも左右するのだとか。




