契約2
「うん。……ところで、なんだけど、サトゥラヒンはこの後どうするの?」
『どうする、とは?』
「えと、あなたがあたしの僕ということは、いつもあたしに付き従う、と言うことよね?」
『そう言うことになるな』
「それが困るのよ」
『ふむ、つまり、こういうことか? 一つには悪魔と間違えられるこの姿を周囲の人間が良く思わないだろうこと。そしてもう一つに見習いの立場のティケトスが、大の男を従えるのが体面が悪いということ。そんなところか』
「よくお判りね」
『その点に問題はない』
「そう言いきるからには、何か策があるのね?」
『いつもは、こうしていれば良い』
その言葉と同時にサトゥラヒンの姿が掻き消えた。
『完全体の俺はマテリアル界とアストラル界を自由に行き来できる』と声だけが空間から聞こえてくる。
つまり、姿を消している=アストラル界に身を置いている間は質量を伴わないということを意味する。これはもちろん、人間に出来る芸当ではない。
「すごいのね、あなたって。そんなこともできるなんて。でも、お陰であなたとは上手くやって行けそうな気がするわ」
『奇遇だな、俺もだ』
姿を現したサトゥラヒンが手を差し伸べてくる。ティケはそれを握り返した。彼の手は大きく厚く、ごつごつとしていた。
かくして、紋章士の卵ティケトスと、異世界からの放浪者サトゥラヒンは主従となった。
だが。
事はそれだけで終わらないのが世の常と言うものである。
サトゥラヒンが姿を消し、『ファルマロス私家版』の発動を停止して本棚に戻した後、自室に戻ったティケはベッドに潜り込んだ。
興奮冷めやらぬ感じで、なかなか寝付けない。
あれは本当に起こった出来事だったのだろうか。そんな気もしてくる。
しかし、「サトゥラヒン」とティケが呼べば、『なんだ? 願いが見つかったか?』と声が返ってくる。つまり、あれは現実であり、けして夢などではない。
「何でもない、呼んでみただけ」
『……意味の無いことをするものだな。まあ、それも人間という種の特徴の一つのようだが』
人間ではない彼の発言はどこか冷めている感じがする。それでいて、不思議とユーモラスな印象を受ける。
ふふっとティケが笑うと、『よく判らない奴だ、なぜそこで笑う?』とサトゥラヒンの声。
「なんでだろうね」
『ティレリアの秘匿されし世界録を紐解いても、人間の行動は不可解なものばかりだ。こんな存在をはたして知的生命と呼んで良いのか判断に苦しむ。だが、一方で、それが人間という種の面白さでもあるようだ』
「興味が持てたのなら、良かったんじゃない?」
『俺も今はティレリア圏の一構成要素となったし、時間は人間以上にある。ゆっくりと理解していくさ。お前のことも含めてな』
「そうね」
これから、サトゥラヒンとどう付き合って行くべきなのか。ギムル師に明かすべきなのか。など、問題はいくつもある。だが、それらもこれからゆっくりと対応して行けば良いのかもしれない。
そんなことを考えている内、ティケは眠りに落ちていった。




