契約
「それで、別の世界から流れてきたあなたは、あたしの僕になるということで良いのね?」
『しもべという言葉の意味にはいささか引っかかるものを覚えるが……良いだろう、想天体に二言はない。お前が命を終えるその時まで、お前の意思を叶え続けよう』
「よしっ!」
ティケは小さくガッツポーズをする。
『それで、ティケトス、我が主よ。お前の願いはなんだ?』
「その前にあなたの名前を教えて? 聖獣って呼ぶのもなんだし、さ」
彼の姿は聖なる者と呼ぶにはあまりにもかけ離れていて、違和感があることこの上ないのだ。
『我が名は、無理に〈ティレリア〉風に発音するならば、サトゥラヒンと言ったところか』
「ちょっと、呼びにくいわね」
『そう言わず、略さずに呼んで欲しい』
「判ったわ」
ティケがそう頷いた途端、サトゥラヒンの周囲に再び靄が生じた。それは凝縮し始め、やがて物質化し、彼の下半身を形作った。
『うむ、こんな物だろう』
テーブルの上から降りたサトゥラヒンは足を動かし、木製の床を何度か確かめるように踏みしめた。
立ち上がった彼の身長は2メートルを優に超えており、均整の取れた筋肉質の身体をしている。服を着ていないため、ティケは目のやり場に困ったが、こっそり盗み見た限りでは、アレは付いていなかった。それにほっとしながらも少し残念なティケであった。
サトゥラヒンは頭に生えた角が天井にぶつかりそうになっているのをしきりに気にしている様子だったが、しばらくしてあきらめたようだった。
『これで、契約は成された』
「え、今のでいいの?」
『我が肉体はこのティレリアに固定された。では、次の願いを聞こう』
「え、願い?」
『そうだ』
ティケは顎に人差し指をあてて「う〜ん」と唸ったきり、考え込む。
『沢山あって困っているのか? 仕方の無い奴だ。〈ティレリア〉の知的生物は欲深なようだからな。よく悩むと良い』
サトゥラヒンの台詞は人間を蔑んでいるようにも解釈できるが、本当のところは、彼にそんな意図はない。むしろティケを微笑ましく思っているようだった。
「違うのよ、その逆」
ティケは思い切って本音をぶつけることにした。
『逆とは?』
「そのまんまの意味よ? お願いが思い付けないで困ってる」
『ほお?』
サトゥラヒンは興味をそそられたようだった。
『欲深な人間という種にも例外はあると言うことか。面白い』
「ま、思いついたらその時にお願いすることにするわ」
『それで良かろう。人間の時間は限られているが、それでも願いを思いつく位の長さはあるだろう』




