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世界(ムンドゥス)

そうして、悪魔ならぬ聖獣は語り始めた内容は、ティケにとって、いやこの世界のほとんどの人間にとって荒唐無稽なものだった。それは、この世界〈ティレリア〉と、それ以外の世界の成り立ちの話。そして、複数の世界を結ぶ〈精霊脈スピリトゥス・リーニエ〉の話。


ティケの住む世界は〈ティレリア〉と呼ばれ、星1つで生態系を成している。アストラル界、エーテル界、マテリアル界の三界が重なり合い、それぞれに属する生物が存在している。この〈ティレリア〉のような世界(ムンドゥス)は無数に存在している。ほとんどの世界は〈ティレリア〉と同じ、精霊による世界基盤を有している。つまり、多くの世界が三界と精霊という存在を元にして構築されている独立体系である。世界は、それぞれが『空気も光もない空間』によって隔てられており、特殊な技術でも無ければその間を行き来することはできない。ただひとつ、〈精霊脈〉を通じる場合を除いて。

〈精霊脈〉は世界の間を流れる精霊の河のようなものだ、と悪魔ならぬ聖獣は言った。

世界間を流れる〈精霊脈〉によって精霊は循環しており、これによって各世界の精霊は保たれている。例えば、ある世界において何らかの理由によって精霊の大量消滅が発生した場合、〈精霊脈〉を通じて減少した分が補充されることで均衡が保たれる。

〈精霊脈〉によって精霊が循環しているということほ、つまり、各世界で構築された複合精霊ーー例えば、魂のような存在ーーまた循環の流れに乗ることがあるということを意味する。意思を持つ存在が不活性状態で長い年月をかけて別の世界に流れ着くことがあり得るのである。

悪魔ならぬ聖獣が言うには、彼はそういった魂の1つだというのだ。そして彼が生まれた世界は〈ティレリア〉的に解釈して名を付けると、〈光陰相成す涼泉の庭〉と呼ばれるのだそうだ。その世界は、精霊を基盤にした2種類の知的生物ーー〈想天体〉と〈倶天体〉ーーが覇権を争う世界。


「ええと、つまりあなたは、肉体を失った後、魂だけになって、精霊脈に乗って他の世界から流れてきたってこと?」

『そう言うことだ。ゆえに、俺は〈ティレリア〉における悪魔という存在とは別ものだ。外見は確かに似ているようだがな。第一、悪魔は人間が想像した概念上の存在で、実在しないではないか』

「実在しないかどうかは、人間の間では意見が分かれてるわ。それより、どうしてそんなに『〈ティレリア〉の悪魔』のことに詳しいの? あなたは別の世界の生物なんでしょ?」

『〈秘匿されし世界録(アカシック・レコード)〉を知っているか?』

「いいえ」

『そんなことも知らないのか?』

悪魔ならぬ聖獣は、憐れみの視線をティケに向ける。

「そんな目で見られても、知らないことの1つや2つ、あるわよ」

悪魔ならぬ聖獣は、『ふむ』と頷いた。

『〈世界録〉とは、その世界のあらゆる出来事、知識を記録したものだ。俺はそれにアクセスすることが出来る。ゆえに、そこから悪魔に関する記録を読み取ったと言うわけだ』

「その〈世界録〉には、どんなことでも記録されているの?」

『そうだ。例えば、お前の名前はティケトス・ケイルフォーン。生誕して××日が経過。種別は人間の女。父の名はジャンノ、母の名はカリーヌ。エディトという名の2つ上の姉がいる。種別が女なのに男の名前を付けられたのは、父親が男の子を欲したからで……』

「判ったわ。もういい」

ティケは聖獣の喋りを遮った。彼が言っていることは、どうやら本当のようだ。

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