非物理的存在の物理化
昨日更新しそびれた分です
まずは準備が必要だ。
発動対象となる紋章の用意はもちろんのこと、そこに発動条件を書き加えるための筆と黒インク。黒インクは、紋章を描くのに使用されたものと同じであることが望ましいが、どんなインクが使われたのか判らないので、とりあえず高級な物を用意する。
それから、いざという時に発動取り消しを実行するための白インク。発動部に書き加えた箇所を消すのに使用する。
そして、真新しい羽根ペンを2本。
紋章によっては月や星の位置が関わってくる物もあるが、今回は関係ない(とティケは解釈している)。
蝋燭一本の明かりを頼りに、『ファルマロス私家版』本を書棚から取り出し、発動させようとしている紋章のページを閲覧用の大きな机の上に広げる。
深呼吸で一息入れてから、ティケは羽根ペンを手に取り、黒インク壺につけてから取り出すと、おもむろに紋章に向き合った。
書き加えるのは『草紋』と呼ばれる種類の紋章パーツの一部分。
その作業はものの1分程度で終了する。
すると、どうだろう。
紋章全体が淡く光を発したと思うと、ちょうど紋章の上の中空に白い靄がわだかまるように出来上がった。
発動した紋章による効果であることは間違いないので、ティケはそれを注意深く見守る。
靄は次第に濃くなっていき、やがて球体として確かな存在感を持つようになった。と思うと、うっすらと光を帯びる。
次に、球体の周囲にもいくつもの靄が出来上がってくる。どうやら球体は魂に相当し、その周囲の靄は肉体になるらしい、とティケは推測した。
想定通り、球体の周囲の靄は物理的存在感を増していき、やがて球体を覆い隠すように結合して1つの存在となった。
その頃には、顔、胴体、腕などが、はっきりと見てとれる。
ただし、足は無かった。
上半身だけが形成されていくそれは、一見して人間のように見えた。だが途中から頭に突起が生え始め、背中には二枚の羽根。肌の色が青黒いと判断がついた時には、それは明らかに人間ではない存在となっていた。
近い物を挙げれば、それは、悪魔。
やばいかも……とティケが思ったときには既に遅い。
悪魔がゆっくりと瞼を開き、金色の瞳をティケに向けた。
『礼を言う』
形成されたばかりの唇から、低い男の声が発せられた。それはセツェン語だった。
『感謝のしるしに3つだけ、なんでも願いを聞こう』と悪魔は言葉を続けた。
ティケは、この台詞を聞いたことがあった。




