新たな出会い
バルミス将軍の遺体の傍には処刑人が、血に濡れた大剣を持って佇んでいた。突然、乱入してきたマルティンとリーズ子爵にどう対応して良いか戸惑っている様子だった。
マルティンは、しばらく放心したようになっていたが、我を取り戻し、処刑人を睨みつけた。
処刑人はびくっと肩を振るわせる。
バルミス将軍を殺した張本人であるこの男を殺してやりたい。そんな衝動に駆られそうになるのを、マルティンは必死に押さえ込んだ。
処刑人は皇帝の指示を忠実に守っただけだ。この男に罪はない。
「1つ訊かせてくれ。将軍の最後の言葉は、何だったのだ?」
「……ございませんでした」
処刑人は淡々と答えた。
「無かっただと? 一言も?」
「さようでございます」
「……そうか」
恨み言はいくらでもあるだろうに、全てを飲み込んで逝ったのだ。
いっそ、潔い。
そして、それこそが将軍らしい。
マルティンはそんなことを思った。
「ペーター・バルミスの扱いは留保となった」
「え? ですが……」
処刑人は愕然としてバルミス将軍の遺体に視線を落とす。マルティンの言葉に従うならば、処刑も一時中止としなければならなかったからだ。
「連絡が間に合わなかったのはこちらの落ち度だ。そなたに罪はない」
マルティンが処刑人にそう教えると、処刑人はほっと胸をなで下ろす。
「そんな訳だから、遺体は丁重に扱って欲しい」
「承りました」
急に、寂寥とした感覚がマルティンを襲った。しかし、それに抗って首を振る。
人生の師とも言える人物を、こんな形で失ったことはあまりにも悲しいが、そのまま悲しみの中にひたっていられる程、マルティンは子供ではない。
王族として果たさなければならない責務がある。
その思いが、マルティンを前に進ませた。
問題は2つある。
1つは、バルミス将軍の死を臣民にどのように伝えるかだが、これは皇帝とスティクトーリス公爵の仕事であって、マルティンには関わりが無いことだ。
伝え方によっては臣民の反感を強く買うこともありうるだろう。だが、マルティンはその緩和に協力してやる気は無かった。自分で蒔いた種なのだから、自分で刈り取れば良い。たとえそれが毒草だったとしてもだ。
ただ、リーズ子爵にできる限りの支援を依頼しておくことにした。
もう一つは軍部の動向だ。こちらにはディバイニスを初め、バルミス将軍の信奉者が数多くおり、しかも臣民と比べて圧倒的に戦闘力が高い。反乱を起こされると非常に厄介なことになる。
それに加え、臣民が蜂起した場合に備えて、軍部は引き留めておく必要があった。
マルティンは、いったん王座の間に戻って処刑執行を止められなかったことを報告し皇帝の前を辞した。
皇帝は青ざめていた。何か言いたげだったが、マルティンはそれを無視した。
そんなことよりも重要なことがある。




