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処刑6

「何故ですか?」

「処刑が執行されている時間だからです」

「なんだってっ⁈」

マルティンも思わず声を荒げる。しかし、すぐに我に返って「失礼しました」と謝罪した。

「処刑は明日ではなかったのですか?」

「表向きはそうなのですが……」と公爵は言い淀む。

「そのような横暴、まかり通るとは思えない。臣民への影響が心配です」

「それはどういう意味だ?」と皇帝が訊く。

「バルミス将軍に対する臣民の人気は絶大なものがあります。英雄として名の知れたバルミス将軍が不正に処刑されたと知れれば、臣民がどのような行動に出るか判らないという意味です。陛下に対する不信感が増大し、反乱の火種となるのは確実でしょう」

「暴徒は鎮圧すれば良い」

「最悪、帝都の臣民のほとんどが加わったとしても? 帝都防衛軍と近衛だけで対処出来る数ではありません」

皇帝の顔がさっと青ざめる。事の重大さは伝わったようだ。

「そんなことにも気付かなかったのですか? どうして……いや、理由は後でお聞きします。まずは今日の処刑を止めます。よろしいですね、陛下?」

「ま、間に合わないかもしれんぞ?」

「やれるだけをやるだけです」

失礼しますと会釈し、マルティンは王座の間を飛び出した。

王座の間の外にはリーズ子爵が待っていた。

血相を変えて出てきたマルティンに、リーズ子爵もただ事ではないと感じ取る。

「何があったのですか?」と子爵。

「リーズ子爵、バルミス将軍が捕らえられている牢へ案内して欲しい……本当の処刑は今日これからなのだそうだ」

「なんですと?」

「執行を止める。陛下の許可は頂いた」

そこまで言うと、リーズ子爵は頷いて、「こちらです」とマルティンを促す。


地下牢に着くとそこはもぬけの殻だった。番をしていた衛兵に訊ねると、バルミス将軍は少し前に引き立てられて行ったという。

「場所は?」

「判りません」

ちっと舌打ちし、マルティンは踵を返す。

「おそらく、いずれかの中庭でしょう。秘密裏に行うことを考えれば、場所は絞られます。ご案内します」とリーズ子爵が先導する。

「頼む」

マルティンはそれに従った。

間に合ってくれ。

マルティンの頭の中はそれでいっぱいだった。


ーー。

その庭は王城の西の外れにあった。

西日が強く差し込むその庭に、マルティンが入った時、まず目に映ったのは、濡れた地面だった。ただ濡れているのではない。ぬめりとした赤い液体が、ゆっくりと這うように地面を広がっていた。

遅かった! 直感はそう告げているにも関わらず、感情はそれを拒絶し、理性が感情を優先する。

さらに歩を進めて庭の奥へ目を向ける。

そこにはバルミス将軍が座っていた。

ただし、その頭は胴の上にはなく……無残に地面に転がっていた。

その光景を目にした途端、マルティンは力が抜けたように膝を地面についた。

「は、は、は」

辛うじて口をついて出たのは、笑いだっただろうか?

しかし、頬を伝う熱いものも同時に感じる。

マルティン自身、自分が怒っているのか悲しんでいるのか、喜んでいるのかさえ判断がつかなかった。

この事態が、悲しくないわけがない。

だが、悲しみ、怒り、諦め、焦り……多くの感情が同時に沸き起こっていて、それに対処できないのだ。

マルティンは意外にも冷静に、そんなことを考えていた。

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