処刑4
マルティンはさらに歩き、広間の中央、謁見者が立つ位置で止まった。
真正面に座る皇帝は、年齢は40代前半。身体は細く華奢だが身長はある。その顔は、頬はげっそりとこけ、目の下にクマがあり、病気かと思わせるほど憔悴しているように見えた。だが、いつ謁見したとしても、この皇帝は、こんな容貌をしていた。ゆえに、憔悴した顔がこの皇帝の標準なのだとマルティンは理解している。
皇帝は心の病気のようなものだった。得体の知れない不安感と焦りに絶えず苛まされ、猜疑心の塊になってしまっていたのである。それは愚鈍であるが故の結果であるが、ある意味、憐れと言っても差し支えあるまい。
「マルティン・アル・クヴァルティス、ご相談があり参じました」と、見た目だけは恭しく礼をする。
すると皇帝は、ふふん、と鼻で笑った。
「相談というのは、明日のバルミスの処刑についてであろう?」
甲高く耳障りの悪い皇帝の声には、自信の色があった。
「その通りです、皇帝陛下」
マルティンは、はきはきとした口調で答える。
「マルティン、そなたは彼奴を救うため、どんな弁明を聞かせてくれるのだ?」
「……弁明、ですか?」
マルティンは質問で返す。
「そうだ。今までも、彼奴を救うために弁明に来る者があったが、どの者も余を説得することは叶わなかったぞ?」
「そうですか。必要があれば弁明も致しましょう。ですが、まずは、陛下のご存念をお聞かせ頂きたいのですが」
「余の存念?」
「はい。なぜ、帝国の英雄を処刑する決定を下したのか、そのご存念です」
「て、て、帝国の英雄だと? あの謀反人のことを言っているのか?」
皇帝はどもりながらも、口から泡を飛ばして叫んだ。
「謀反人……と仰るからには、何か罪を負ったと言うことですか? 陛下、私はその事件を知りません。お教えいただくことは可能でしょうか?」
皇帝はニヤリと薄気味の悪い笑みを浮かべて、「余に向かって謀反を起こそうとした。それが彼奴の罪だ」と答えた。
「起こそうとした、と仰るからには謀反を起こそうとしただけで、起こした訳ではないと言うことですね?」
「そうだ」と皇帝は肯定するが、不服そうな表情を見せる。
皇帝の言から察するに、謀反は未遂で終わったことになる。しかし、本当に未遂と言えるだけの行動をバルミス将軍が起こしたとは考えにくい。おそらく、何もしていない将軍に難癖を付けて捕縛したというのが真相ではないだろうか。
マルティンはそう考えたが、表には出さなかった。マルティンの考えが正しかったとしても、正当性を主張できるだけの理由を皇帝が持っている、あるいはでっち上げていると考えられる。そうでなければ、スティクトーリス公爵が賛意を示すはずがない。
「謀反を起こそうとしたと言えるだけの根拠がある、と仰るのですね?」
確認するようにマルティンが問う。
「そ、そうだ」
「その根拠をお教え頂けませんか?」
「なぜ教えなければならないのだ?」
「根拠によっては、将軍の弁明を行う必要が出て来るからです」
「弁明など、するだけ無駄であろう」
「それなら、無駄であると私を納得させていただきたい。そのためにも、根拠をお教えいただけませんか?」
皇帝は逡巡の表情を見せ、助けを求めるようにスティクトーリス公爵へ顔を向けた。
公爵はそれに答えるように頷きを返してから、マルティンへ視線を移し口を開いた。
「バルミスは、帝国に背くよう軍部を扇動し、武器を集め、叛旗の集会を開いていたのです」
「そんなことが?」
マルティンには信じられないことだった。そもそも、バルミス将軍がそのような真似をするとは思えなかった。いつも帝国のために行動していた人なのだ。




