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ペーター・バルミスという名の将軍2

一段高い位置にある玉座のすぐ傍で、他の王族の子供たちと共に並んで立っていたマルティンの目には、その動きは異常に見えていた。周囲の子供たちに目をやると、賊に気付いた様子の者は1人としていない。どうすべきか、少年のマルティンは悩んだ。自分が皇帝の前に出て、盾となるべきなのか。いや、そんなことを子供の身で実行しても、時間稼ぎにもなるまい。叫んで注意を引くべきか。それも駄目だ。かえって場を混乱させるだけだ。

いや、そもそもこの皇帝は守るに値する人物なのか。そこにも疑問がある。政治はすべて臣下に任せ、下手くそな音楽や絵画に没頭するだけ。怠惰で脆弱。そんな噂を良く耳にする。

そんな男でも皇帝になれる。今やクヴァルティスの皇帝位は、その程度の物でしかないのか。

マルティンが考えを巡らせ逡巡している内に、賊が腰から短剣を引き抜く。

まずい、とマルティンは思ったが、何もすることが出来ない。

賊が玉座に続く階段に足をかける。

ここに至って、異常事態に気付いた貴族の誰かが、何かを叫び、ざわめきが一斉に引いた。

賊が階段を駆け上がる。

「だ、誰か……!」

賊に気付いた皇帝が、その地位に相応しくない情けない声を上げる。しかし、駆け寄る者はいない。

この後、どうなるのか? 皇帝は殺されるのか? それを、俺はただ見ているしか出来ないのか?そうだ。俺に出来ることなど、たかが知れている。他人を守ることが出来る程の力は、俺にはない。

そんなことをマルティンが思った時のことだった。

どん、という鈍い音と共に、飛沫がマルティンの頬にふりかかった。

何が起こったのか判らないマルティンは無意識に頬を手の甲で拭い、それを視界に映す。

手の甲は赤く染まっていた。

それが血であると気付くのに、時間はかからなかった。

女性の叫び声が上がる。

玉座の方に目を向ける。そこには、片手でクレイモアを持つ大男とーー。

縦に一刀両断され、内臓をぶちまけ、無惨に変わり果てた賊の死体が転がっていた。

「皇帝陛下、お怪我はございませんか」と様子を伺いながらも、大男は皇帝の前に跪く。

この男こそ、ペーター・バルミスだった。

マルティンは、バルミスについて、平民出身の将軍と言うこと以外は何も知らなかったし、興味も引かれなかった。この時までは。

丁寧な物腰のバルミスに対し、皇帝は「あ、あ、あ」と正気を失ったように音を発するだけだった。

情けない、とマルティンは思った。しかし、皇帝の反応も仕方ない側面はある。

なせなら、マルティンの位置からは見えなかったのだが、皇帝は、目の前で斬り殺された賊の血を全身に浴びてしまい、顔も含も真っ赤に染まっていたのだ。戦場を知らない者としては気絶していない分、マシと言えた。

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