ペーター・バルミスという名の将軍
物語はマルティンがセーネイアの大森で戦った時より、1年ほど遡るーー。
その日、マルティンは兵士に混じって剣の修練を行っていた。
青い空の下で剣を振るい、身体を動かすのは気持ちが良い。
側近には王族に相応しくないから止めてくれと懇願されることもしばしばだが、マルティンは修練を止めるつもりは全くなかった。
使うのはもちろん、クレイモアと呼ばれる種類の大剣である。
携える剣は〈アクリテス〉程の巨大さではないものの、クレイモアを使う兵士は稀なことから、修練場の中でもマルティンは目立っていた。
クレイモアを使うのは、兵士の中でも力に優れる者が多い。何故なら、クレイモアは馬上の敵を斬り伏せる為に長大化した剣だからだ。翻せば、クレイモア兵を騎士が敵にした場合、馬上という優位性が崩れるばかりか、落馬という不名誉も被りかねず、騎士にとっては非常に相手にしたくない剣でもあった。
マルティンは18歳にしては小柄な体格で、大剣を扱うには不向きと言えた。しかし、マルティンはそれを補って余りある程に身体を鍛え上げていたために、体格の不利を全く感じさせない程の力量を誇っている。
だが、もし王族であるマルティンが戦場に赴くことがあるとしても、馬にまたがることはあっても歩兵となることはない。そればかりか、前線に出向く機会もほとんど無いと言って良いだろう。ゆえに、マルティンがどれほどクレイモアの技を磨いても、それが役に立つ機会は無いはずだった。
それなのに、無駄とも思える精進をマルティンが続けるのは、ある人物への憧れが背景にあった。
その人物はクレイモアを得意とする歩兵から成り上がり、大将軍にまで上り詰めた。
『潔癖の人』、『鉄人』ペーター・バルミス。
王族の青年が、成り上がりの将軍に尊敬の念を抱くのは珍しいことではある。どちらかと言えば、そのような出自の将軍は高位の者からは蔑まされることが多いからだ。
これにはマルティン側に理由がある。
そもそも、王族としてのマルティンはそれほど地位が高くはない。王位継承順位で言えば、10本の指に余る程度である。
ゆえにマルティン自身、王位を継ぐ、などと言うことは考えたこともなく、自分が政治に関わるなどとは夢想したこともなかった。
王位に就けない王族など存在する意味が無い。
そう漫然と思い、人生の目的も見つけられず、無為に過ごしていた少年時代、マルティンはバルミスと出会った。
それは衝撃的なものだった。
何かの祝賀会だったとマルティンは記憶しているが、その席で皇帝に刃を向ける賊が現れたのだ。乾杯の後、列席者達に酒が入り、広場の雰囲気が和らいだ頃になって、賊は動き出した。
大勢が集う中を掻き分けて、玉座に近付いてくる男が1人。




