雷光(フルグル)3
「では、開けますぞ!」
その声と共に、イグニクルスはドアを勢い良く開けた。
中をのぞき込むと、そこは、元は寝室だったと思われる一室だった。朽ちかけたテーブル、箪笥、暖炉にベッド。
そして中央に設えられたソファの上に、それはぽつんと座っていた。
それの周囲を、バリバリという音と、発光が取り巻いている。まるで空気が帯電したかのように、極小の雷鳴と雷光が繰り返し発生しているただ中に、それは俯いて静かに座っていた。
いや、静かというのは違う。小さな声で何かを呟いている。
それは痩身の男だった。
「見た目は昔とは異なるが、その気配、フルグルで間違いないな?」とイグニクルスが訊く。
すると男は力なく俯いていた顔を上げた。
「イグニクルスどの、か?」
その声音は大人のものとしては高く、まるで少年のもののようだった。
「儂が誰か判るのか。……何があったかは聞くまい。そのように姿が変わるほどのことがあったと判れば十分じゃからな」
「ああ、ぼくは、どうすれば……あの、とき」
その後の言葉は、呟きに変わり、聞き取れなくなる。
「フルグルよ。鷲の話を聞け。おぬし、仕える気は無いか?」
フルグルはぴくりと肩を振るわせた。
「仕える? ああ、ぼくはたしかに、仕えていた。でも、それもおしまいなんだよ」
「良く聞け、フルグルよ、お主は壊れ掛かっている。いや、壊れていると言ってしまっても良いかもしれん」
「こわれている? ぼくが……? ああ、たしかにそうかも知れないね。たしかにぼくは憎くて憎くて仕方ないんだ。……何が憎いのかって? もうわかんないよ。でも、憎いという気持ちだけはたしかにある」
「フルグル……」
イグニクルスの声には同情の色があった。だが、それとは裏腹に、老人はエライアスに部屋の外へ出るよう、手ぶりで示した。
危険が及んだ時、最も脆いのはただの人間であるエライアスなのだ。
それを理解しているエライアスは、内心ではしぶしぶだったが、指示に従い、外に出て、ドアを閉める。そして、ドアにへばりついて聞き耳を立て始めた。
おもむろにフルグルがふふふふ、と笑いだす。その笑いはどんどんとエスカレートしていく。
「あは、あははは、あはははははは!」
フルグルはふり仰ぐように顔を上げる。その双眸には、鈍い光が宿る。それは、狂気と言う名に相応しかった。
「だから、さあ。殺そうと思うんだ! 壊そうと思うんだ! 何もかも! 全て! お前たちも!」
強烈な敵意がレーイ達を捉える。
直後、天井を突き破って、大きな光の柱がレーイ達に落ちた。それは〈雷光〉の名に恥じない巨大な落雷だった。
雷の好戦性精霊が、僅かながらも存在するのは理由があった。
それは、雷による攻撃の特性。
地水火風という基本属性による攻撃は、物理的防御が比較的にやり易いのに対し、放電を初めとする雷属性は、それがやり難い。確かに絶縁性の高い物質を用いれば防御も可能だが、いつでもそのような物質が身近に在るわけでは無い。
アレーナが出現させる壁は、組成を変化させることで絶縁性を高めることはできた。しかし、雷による攻撃の全てを遮断することはできない。
そんな訳で、フルグルの攻撃はレーイ達に直撃した、ように見えた。
フルグルも直撃を確信し、狂笑する。その笑い声だけが、その後もその場に存在し続けるかのように思われた。
しかし。




