雷光(フルグル)
「見た目は昔からは、だいぶ変わっておるが……あれは〈雷光〉ではあるまいか」
「やはり、そう思われますか?」
「〈雷光〉ということは、雷系の精霊ということ?」とレーイ。
「分類上は、〈雷〉は〈風〉に属することになっています。ただ、その存在数は少なく、とても希少です」とアレーナが答える。
「しかし、あの様子は……ただ事ではあるまい」
イグニクルスは驚きを隠せないようだった。
「イグニクルス様もそう思われますか?」とアレーナ。
「うむ、残念じゃが……あれは壊れておる」
イグニクルスは皺のある顔にさらに皺を寄せた。
「眷属にするのは無理があるということ?」とレーイ。
「会って話さないことには判りませんが、おそらくは」
イグニクルスが答えた。
「ならば、精霊の流儀に沿った対応を」
「お待ちください、レーイ様」と止めたはアレーナ。「『闇の癒し』をお使いいただくことは出来ませんか?」
「闇の癒し?」と即座に反応したのはエライアスだったが、話の流れを妨げないように、それ以上を声にするのは避けた。好奇心が生きる糧のような彼だが、時機を弁える位の分別はある。
「だが、あれは癒しと呼べるような物では……」
と言いかけたレーイはアレーナの真剣な表情を見て言葉を止める。しかし、すぐに口を開いて、
「〈雷光〉は知った仲なのか?」
と訊いた。
「昔、行動を共にしていた時期があります」
「判った。だが、あまり期待してくれないように」
「あ、ありがとうございます、レーイ様」
「期待はしないでと言ったはずだ。それはともかく、イグニクルス殿、精霊の流儀を通していただく訳には行かなくなった」
「何を仰いますやら。流儀などと言えば聞こえは良いが、要は壊れた者の息の根は仲間が止めるというだけのこと。助かるのであれば、それに越したことはありますまいよ」
「判った。では、行こう。案内をお願いする」
「承知しました」とアレーナが先頭を歩き出す。
聖堂を出た精霊を含む4人は、入り組んだ小道を右に曲がり左に曲がりして、急ぎ足で先を進んだ。やがて4人の前に現れたのは、前庭を持つ大きな屋敷の廃墟だった。ただし、大きいというのは比較の問題であって、例えば中央区であれば、その大きさは普通である。だが、低階層市民が住む川下地区においては、かなり大きい部類に入った。
錆でぼろぼろになった入口の柵をこじ開け、中に踏みいる。相当長い間放置されていたのだろう、石畳は草に覆われ、花壇は雑草に侵略され尽くしていた。
しかし、その緑の中を、一本道のように踏みならされた跡が通っている。それは誰かがこの場所に住んでいる可能性を示している。
4人は獣道のような踏み跡に従って先を急いだ。
屋敷の入口に到達し、これもまた無残に壊れた木製のドアを引き剥がすようにして開ける。
その、瞬間。




